209 王都最後のパーティー
その日、俺たちはいつもの高級料理店で、二度目となるドレスパーティーを開いていた。
「結局このパーティーもこれで最後になりそうだな」
「何、またあちらでもやればいいさ。皆イアタークへ行くのだからな」
そうサラが笑う。今日も実に美しい衣装だな。もちろん本人も、だ。
「それにしてもジャネット、お前も似合うではないか」
「へへっ、そうかい?」
ピンクにフリルのかわいらしいドレスを身にまとったジャネットが、照れたように笑う。それから、照れを隠すようにレーナへと視線を移した。
「レーナもよかったね、それ、リョータのプレゼントなんだろ?」
「は、はい……」
顔を真っ赤に染めたレーナが、恥ずかしそうにはにかむ。その胸には、俺がプレゼントしたペンダントが飾られている。
「それにしてもリョータ、あんたも好きだねえ。こんなに胸が開いたドレスをプレゼントするなんてさあ」
「べ、別にそういうわけではない。その者の魅力を最も引き出す衣装を選んだまでのことだ」
「ふ~ん、その結果がこのドレスなわけだねえ……」
ニヤニヤしながらジャネットが俺にいやらしい視線を向けてくる。こいつめ……。
レーナはと言えば、耳たぶまで赤くしてうつむいてしまっている。大きく開いた胸元もほんのりと色づいてきて……これは目に毒だな。
「カナ、お前も似合っているぞ。それはこの前マクストンでリョータに買ってもらったドレスか?」
「うん」
こくりとカナがうなずく。うむ、本当によく似合っているな。すばらしいぞ。
「しかしわからんものだな。まさか我々が全員かつての魔界領に移り住むことになるとは、正直夢にも思わなかったぞ」
「そうだな、俺も総督になって王都を追い出されるとは想像もしなかったな」
「それはもう言わないでくれないか、これでも悪かったと思っているんだ」
サラが苦笑する。まあ、別に本当に腹を立てているわけではないがな。
「しかし、お前がレーナをギルドマスターに指名すると言い出した時は正直驚いたぞ。言われてみればなるほど、実に妙案であったな」
「そうだろう。俺はずっとレーナの仕事ぶりを見てきたからな。レーナがどれほど優秀かはよく知っている」
「そ、そんなことはありません……」
恐縮するレーナに、サラが笑う。
「そう謙遜するな。ギルドの幹部連中も言っていたぞ? レーナは働き者だとな」
「ひ、他人より多く働かないと仕事が間に合わないだけです……」
レーナの魅力はこの謙虚さと慎み深さだな。これはサラや、特にジャネットにはまるでない部分だからな。
「お前がどう思っているかはともかく、俺もサラもお前には期待している。よろしく頼むぞ、レーナ」
「こ、こちらこそ……お二人の足を引っぱらないよう、精いっぱいがんばります」
「ふふっ、逆だレーナ。少しでも困ったことがあれば私を頼れ。アドバイスくらいはできるはずだ」
「そんな、おそれ多いです……」
「気にするな、そもそもレーナがギルドマスターになるはめになったのは、元はと言えば私がリョータに総督をお願いしたのが原因だからな。遠慮なく私を頼れよ、レーナ」
「ありがとうございます、もったいないお言葉です……」
ふむ、冗談めかしてはいるが、さすがはサラだ。これでレーナも少しはやりやすくなるだろう。
「カナにも家庭教師がついてくれることだしな、俺も安心してあちらへ行ける」
「そうなんですか? よかったね、カナちゃん」
カナがこくりとうなずく。食事の手は止めない。
「よかったどころじゃないよ。びっくりするんじゃないよ? あの賢者様が家庭教師になるんだよ、賢者様が!」
「賢者様って……まさか、ラファーネ様ですか?」
「そうだ。私の方からもお願いした。何せ、そこの男に総督を押しつけた借りがあったのでな」
「す……すごい!」
レーナが思わず叫ぶ。
やはり、ラファーネが家庭教師になるということはそれほどすごいことだったのだな。よかったなカナ、これでお前は将来安泰だぞ。
「リセも当然来るんだよな」
「は」
一言どころか一文字で返事をする。
サラが苦笑しながらつけ加える。
「リセには新設する白鳳騎士団の団長に就任してもらう。遊撃隊の精鋭を中心に再編した、私直属の部隊だ」
何だか大横綱みたいな名前だな。
「それは強そうだな。俺の親衛隊と戦わせてみたいものだ」
「うむ、模擬戦などをやってみるのもおもしろそうだな」
互いに顔を見合わせて笑う。
「ということは、リセが防衛軍ではグスタフに次ぐナンバー3か?」
「いや、防衛軍は第1軍から第3軍の3軍に分け、それぞれに軍団長を置く。リセはその次だな。ちなみに、第1軍団長はグスタフが兼務する」
「そうか。いずれにせよ、実力者には違いないな。お前もいいかげん飲んだらどうだ」
「任務ですから」
あいかわらずつれない返事だ。まあ、もう慣れたがな。
「これからもあちらでなかよくやれるといいな」
「それは心配あるまい。ただ、しばらくはいい店がないのが残念だがな」
「サラ、お前はまだ知らないだろう。実はこの店が支店を出すつもりらしいぞ」
「何、本当か? それはありがたい、楽しみだな」
まあな。何せ俺が進めている話だしな。
と、ジャネットが何やらわめき始めた。
「料理もいいけどさ、酒場の話はどうなったんだい? 荒くれ者が集まるんだろ、じゃんじゃん飲み屋街をつくっておくれよ?」
「それは俺が決めるものじゃない、需要と供給の問題だ」
「難しいことはわかんないよ。とにかく頼んだよ?」
「まあ、考えておいてやる」
まったく、こいつは本当にそればっかだな。
だが、このメンツがそろって本当によかった。これで、イアタークに行ってからも楽しくやれるだろう。
レーナが酒に口をつけないよう細心の注意を払いつつ、俺はパーティーを楽しんだ。