208 驚愕のレーナ
俺がレーナにギルドマスターの件を切り出すと、レーナはしばらく目を点にした後、思いっきり叫び声を上げた。思わずぎくりと一歩下がる。
まあ、驚くのも無理はないか。俺の口から直接話したいということで、レーナには伝えないように言っておいていたからな。
だが、考えてみたらこれでは総督の件を黙っていたサラと変わらないかもしれない。もちろん、俺はレーナが嫌なら断ってもらって構わないのだが。
そのレーナはといえば、理解が追いつかないといった様子だ。
「む、むむむむ無理ですリョータさん! わ、わたわた、私がギルドマスターだなんて!」
「落ち着けレーナ、ギルドと言ってもはじめはちょっとした出張所のようなものだ。そんなに大げさなものじゃない」
「で、ででででもでも!」
普段見たことのないレーナの慌てように俺が少々とまどっていると、ギルドのサブマスターが声をかけてきた。
「閣下、このようなところで立ち話も何です。あちらの応接室へご案内いたします。レーナ君、君も来たまえ」
「は、はい!」
「助かる。では案内を頼む」
「は、こちらです」
俺と、少し遅れてレーナが、サブマスターの後に続いた。
応接室に通され、俺はレーナと向かい合って席に着く。レーナの隣にはサブマスターが座った。
レーナもようやく落ち着いたらしい。俺はあらためて話を切り出した。
「レーナ、さっきも話した通り、俺はお前にイアタークのギルドマスターをお願いしたい。考えてはもらえないだろうか」
「そ、そんな、ギルドマスターだなんて、私……」
手を上げてレーナを制すると、俺はサブマスターに説明するようにうながした。
「レーナ君、ギルドといっても、最初は数名のスタッフを配置するだけの簡単なものだ。当面の間は受付機能に特化し、クラス判定などは行わない。君を補佐するスタッフもすでに候補はあがっている」
「こ、候補って、もう話が進んでいるんですか?」
「ああ、サラに頼んで進めてもらった」
「サラ様が!?」
驚くレーナ。
俺は話を続ける。
「総督はその権限でいろいろとポストを決めることができるらしいのだが、ギルドマスターもそのひとつでな。サラに話してみたところ、あいつもお前ならと喜んでいたのだ。それで、みずから進んでギルドと話をつけてくれたというわけだ」
「そ、そんな!」
レーナが声を震わせる。
「もちろん、お前がどうしても嫌だと言うのなら、俺も無理強いするつもりはない」
「そ、そんなこと言われても! サラ様まで動いているなんて、私、断ることなんてできるわけないじゃないですか……」
「それは気にするな。俺が言い出したことだ、お前にその気がないのなら、責任はすべて俺が持つ。お前が気に病む必要はない」
というか、俺が勝手に進めた話だからな。レーナが嫌がっているのに押しつけるわけにもいかない。
「ところでレーナ、ひとつだけ確認させてくれ」
「は、はい、何でしょう」
「レーナ、イアタークに行ってギルドを任されるのは、どうしても嫌か?」
「い、嫌だなんて、そんなこと……」
声がしぼみ、最後はほとんど聞き取れなくなる。
そんなレーナに、俺は頭を下げて頼みこんだ。
「頼む、レーナ。どうか引き受けてくれ。俺もサラも、ぜひともお前に引き受けてほしいと思っているのだ」
しばらく、その場を沈黙が支配する。
それから、レーナがゆっくりと口を開いた。
「そんな……そんな風にお願いされたら、断ることなんてできるわけないじゃないですか……」
「引き受けてくれるか? どうしても嫌なら、断ってくれて構わないんだぞ?」
「嫌だなんて、そんなことはありません。そのお話、つつしんでお受けしたいと思います」
そう言ったレーナの目には、どこか決意のようなものがうかがえるような気がした。どうやら腹を決めたらしい。
俺もほっとして、ひとつ息を吐く。
「よかった、急な話ですまなかったな。ありがとう、レーナ」
「そ、そんな、私の方こそ、リョータさんやサラ様のお役に立てるのなら嬉しいです」
「閣下、レーナ君は勤勉で実直な人物です。きっと閣下のお役に立てることでしょう」
サブマスターもレーナを絶賛する。
少し照れたように頬を染めたレーナが、少し困ったような顔をして言う。
「でも、そうなると引っ越しの準備も大変ですね。どこに住めばいいのか……あ、私たちはギルドに寝泊まりすることになるんでしょうか?」
「心配するな。総督の屋敷はそれなりに広いらしいからな。お前が住む部屋くらいなら提供できる」
「そうですか、それなら安心ですね……ええええ――――ッ!?」
応接室に、レーナの絶叫が響き渡った。
結局、レーナは俺の屋敷の一室を借りるということで話がついた。