204 ささやかな宴
ジャネットのしごきも終わり、俺たちは闘技場の中にある一室へと移動した。ちょっとした打ち上げなどができそうな部屋だ。
俺の両側にカナとジャネット、向かい側には親衛隊のメンバーが座る。
席に着くと、部屋の中へ次々と料理が運ばれてきた。メンバーが前もってそのように手配していたらしい。
テーブルに料理が並べられると、ケビンが立ち上がった。
「本日はジャネット様の親衛隊長就任を祝うため、我々で一席もうけさせていただきました」
「へえ、そりゃ嬉しいねえ。酒もあるのかい?」
「もちろんです。ここにある以外にも、いろいろと準備させていただきました」
「さすがケビン! 気がきくね! リョータ、早く始めようよ!」
「わかった、そう急かすな」
俺は立ち上がって音頭を取った。全員にグラスを手にするよううながす。
「では、ジャネットの親衛隊長就任を祝して、乾杯」
「乾杯!」
「かんぱい」
グラスをかかげると、俺はそれを一息に飲みほした。
食事をとりながら、先ほどの稽古の話になる。
「それにしても、本当にジャネット様はお強いですな!」
「本当です、私の矢もことごとく斬り落とされてしまいましたし」
「私の魔法も簡単に払われてしまいましたしね」
「そ、そうかい? そんな大したもんじゃないよ」
隊員たちに口々に褒められ、ジャネットが照れながらも嬉しそうに頭をかく。本人もずいぶんとごきげんのようだ。
俺も気分がいい。俺自身が褒められるのにはもうすっかり慣れているが、身近な人間が褒められるのはそれとは別種の嬉しさがあるな。
ガイの奴などは、一際大げさにジャネットを褒めたたえる。
「いやいや姐さん! 俺の攻撃にビクともしないんだ、とんでもないですぜ! これでも俺は、俺より何回りもデカい魔族の筋肉ダルマをぶち殺したことがあるんですぜ?」
「まああれさ、あんたもまだまだってことだね」
「姐さんがすごすぎるんですよ! 姐さんなら、あの姫騎士様だってぶっ飛ばせるんじゃないですかい?」
「いいこと言うねあんた。あたしもそろそろ勝てるんじゃないかと思ってるんだけど、サラの奴もああ見えて馬鹿力だからねえ……」
「ひ、姫騎士様もそんな怪力なんですかい!」
ジャネットの言葉に、隊員たちが驚きの声を上げる。
いや、あいつも確かに力持ちだが、さすがに今のお前ほどではないと思うが。
というか、その言い方だとサラが何かとてつもない化けものみたいに聞こえるぞ? こいつらも、まさかあの姫騎士様がって感じの顔してるし。
「ジャネット様は姫騎士様とは手合わせされたことがあるのですか?」
「あたしはまだないんだけどね。サラはホント強いよ。何せあのリョータが負けちまうくらいだからねえ」
「リョ、リョータ様が負けた!?」
バカ、それを言うな!
信じられないといった顔で、隊員たちが一斉に立ち上がる。
「そ、それは本当なのですか!?」
「そんなことがあるなど、信じられません!」
「いくら姫騎士様が強いとはいえ、リョータ様を倒すなど!」
その話、もうやめてくれないか。頼むから。
「もちろん、リョータは必殺技を使わないで戦ったんだけどね。それでも大したもんだよ」
ジャネットがフォローする。
まさか俺がジャネットにフォローされる日が来ようとは……。
というか、転移魔法は一応使ってたのだがな……。
「ジャネットの言っていることは本当だ。サラは剣の腕では俺を遥かに上回っている」
俺はさっさと話を切り上げるべく、少し大げさにサラを評する。こういう言い方をしておけば、俺の器の大きさも伝わるだろうしな。
だから、早くこの話題は終わらせてくれ。
「ホントすごかったんだよ? あの時のサラの奥義はさあ……」
「話をふくらませるんじゃない!」
思わず声を荒げてしまう。こいつ、ワザとなのか!?
驚く隊員たちを前に、俺はひとつせき払いする。
「ごほん、お前たちもすぐにわかる。サラもイアタークに行くのだし、あちらに行けば稽古の機会もあるだろう」
「おお、あの姫騎士様が!?」
「こ、光栄です!」
「まさか稽古をつけてくださるとは!」
「お、俺は姐さん派だからな、だが、稽古にはつき合うぜ」
うむ、やっと話がそれた。まあ、こいつらも冒険者だからな。強い奴には興味がわくのだろう。
ジャネットが嬉しそうに酒をそそぐ。
「ほほ~、ガイ、あんたカワイイこと言うねえ。ほら、もっと飲みな」
「へい! 姐さんの酒なら、俺はいくらでも飲めやす!」
「へえ、言ったね。じゃあとことんつき合ってもらおうか」
「へい!」
いや、まだまっ昼間なんだが。こんな時間から酔いつぶれたりするなよ? 帰りが大変だ。
というか、カナの教育に悪くないか、これ?
何はともあれ、そんな調子でささやかな宴の時間が過ぎていった。