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201 想像以上の力




「無事か、ガイ!?」


 俺はほこりが立ちこめる瓦礫に向かい、やや切羽詰まった声をかける。


「やだなあ、リョータ。あたしだって相手の力量をはかって戦ってるよ。そんなに慌てることはないって」


 こちらにやってきたジャネットがのんきにそんなことを言う。本当だろうな、正直、俺だったら死んでた気がするぞ?


 俺を追いかけて親衛隊のメンバーが、少し遅れてカナもやってきた。


 瓦礫の向こうに目を向けた俺は、そこにあったガイの姿に絶句する。


 どこが大丈夫なんだよ! 白目むいて泡吹いてんじゃねーか! ヒクヒク痙攣してるし、右腕がおかしな方向に曲がってんぞ!


 俺の後ろからガイをのぞきこんだジャネットは、これはまずいといった様子で俺からすばやく離れていく。


 振り返ってジャネットをぎろりと睨みつけると、ぴぴーとやけにうまい口笛を吹いてごまかそうとした。


 それから、目を泳がせながら言いわけを始める。


「あ、あれ? おっかしいなー? けがしないように手加減したつもりだったんだけどねえ? ま、まあ、誰にだって間違いはあるってもんさ、はは、はははは」


「バカかお前は! 相手は普通の人間なんだぞ! お前がいつもの調子で暴れれば、どうなるかくらいわかるだろう!」


「だ、だから、手加減はしたんだって……」


 俺が本気で怒っていると気づき、ジャネットがしゅんとする。


 というか、今はそんなことをしている場合ではない。ど、どどど、どうすればいい!? このままでは、本当に手遅れになるかもしれんぞ!?


 ガイに視線を戻して慌てふためく俺の背中を、小さな手のひらがぺしぺしと叩いてきた。


 振り返れば、そこにはカナが立っている。


「どうした、カナ? 悪いが今忙しいんだ、後にしてくれ」


「カナ、治す」


「……は?」


「カナ、ガイ治す。魔法で」


 しばらくぽかんとしていた俺だったが、カナの言葉の意味を理解すると、俺はその両肩をつかんで聞き返した。


「カナ、お前治せるのか!?」


「カナ、学校で習った。治せる」


 マ、マジか! 普段稽古のあざやたんこぶは治してもらっているが、これはその比じゃないんだぞ!?


 だが、今はカナだけが頼りだ。


 俺はカナに向かい、頭を下げる。


「た、頼む! どうかあいつを助けてやってくれ!」


「わかった」


 こくりとうなずくと、カナはガイに近づいた。


 俺とジャネット、そして親衛隊の面々が固唾を飲んで見守る中、カナはまず、明らかに骨折しているであろう右腕に手を当てた。


 それから、何やら呪文を詠唱していく。普段のカナからは想像もつかないほど流暢な古代語だ。


 すると、カナの手のひらが白く輝き始める。そしてどういう原理なのかは皆目見当もつかないが、折れ曲がっていた右腕が、めきめきと元の形へと戻っていく。


 後ろから、驚きの声が上がる。


「な、なんと! カナ様は、その若さで教会の司祭と同等、いや、それ以上のお力を持っていらっしゃるのですか!?」


「信じられない! あんなに折れ曲がった腕が、こんなにすぐに治ってしまうなんて!」


「さ、さすがはリョータ様が認めたお方だ!」


 ジャネットも遠慮がちに俺に聞いてくる。


「カ、カナ、そんなにすごいのかい?」


「どうやらそうらしいな」


 いや、ホントすごいよ。あの骨折が、こんなあっという間に治るなんて。カナって、こんなにすごかったのか。


 腕が治ると、今度はガイの額に手のひらをぺたりと乗せる。


 その手がぽうっと白く光ったかと思うと、ガイの口の泡が止まり、黒目が戻ってくる。


 カナが手を放すと同時に、ガイの意識も戻ってきた。頭に手を当てながら、ううんと首を左右に振る。


 俺は思わず肩に手をかけて叫んだ。


「ガ、ガイ! 大丈夫だったか!」


「うーん……あ、リョータ様? どうも、元気です」


 まだ寝ぼけているような様子で、ガイが間抜けな返答をする。


 ジャネットも安堵の笑みを浮かべる。


「よ、よかったよ。あんたなら大丈夫かと思って、ちょいとやりすぎちまったよ」


「ひ、ひいいいぃぃぃっ!?」


 手を差しのべたジャネットの姿に、ガイが猛然と後ずさる。


「な、何だい、急に……」


「くっ、来るなぁっ! 頼む、殺さないで!」


「はあ?」


 呆然とするジャネットに、ガイはその巨体をまるめて額を地面にこすりつける。口からは、ひたすら命乞いの言葉があふれ出てくる。


「こ、こりゃ……」


「やりすぎた、な……」


 見ればガイは小刻みに震え、哀れなくらいに怯えている。決してけんかを売ってはいけない相手にけんかを売ってしまったことに気づいたのだろう。


「だ、大丈夫だよ、別に取って食いやしないって……」


「ひっ! すみませんすみません!」


「だめだな、これは……」


「ごめんよ、あたしもやりすぎたよ……」


 心底反省したといった顔でジャネットがつぶやく。どうやら身体のダメージよりも、ガイの心に与えたダメージにより強く反応したようだ。



 その後、ガイが落ち着くまで俺たちは少し待つことにする。


 彼が立ち直るまでには、しばしの時間を要した。





連載200回への祝いのお言葉、ありがとうございます。


この調子でいくと魔王編だけでも何百話になるかわからないですが、今後もご愛読いただけると嬉しいです。

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