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200 竜殺しの力




 確実な死をもたらすはずであろうガイの一撃を、ジャネットは何と右腕一本で軽々と受け止めている。

 ガイの顔が驚愕に歪む。


 そして、俺も思わず立ち上がって叫んでいた。


「ば、ばかな!? あいつ、いつの間にそこまでの力を!?」


 俺はてっきり両手で受けると思っていたのだ。さすがに片手では、この俺でも受け切るのは不可能だからな。


 それをあいつ、腕一本でだと!? しかもまだまだ全然余裕だという顔をしている。

 ちょっと待て、成長速度速すぎだろ! あいつやっぱ成長チート持ってるんじゃないのか!?


「リョータ、痛い」


「はっ!?」


 俺が立ち上がったせいで、俺のひざから前へと投げ出されたカナがほこりを払いながら睨んでくる。


「す、すまんカナ! い、痛かっただろう? けがはないか?」


「大丈夫」


 おろおろする俺に、座るようにと指をさすと、カナは再びひざの上にちょこんと乗ってくる。


 ジャネットの力を前に固まっていた親衛隊の連中が、せきを切ったように騒ぎ始める。


「あ、あんなに慌てたリョータ様ははじめて見たぞ……」


「あのジャネット様といい、カナ様といい、いったいこの方々は何者なんだ……」


「わ、私、本当に親衛隊でやっていけるんでしょうか……」


「お前たち、本当に凄いのはここからだ。よく見ていろ」


「は、はっ!」


 俺の言葉に、一同は再びフィールドに注目する。


 実のところ、もうとっくに俺の想像を超えてしまっているのだがな。

 ガイの奴、はたして無事にすむのか……?




「ば、ばかな……」


 フィールドでは、ガイが低くうめいていた。


「俺の全力の一撃だぞ、それをこんな、片手で……」


 ジャネットが薄く笑う。


「どうした、こんなもんなのかい?」


「う、うるさい、黙れ!」


 そうどなると、ガイは必死に斧をジャネットへと叩きつけていく。


 もはやジャネットはそこから一歩も動くことなく、右に左にと軽々ガイの攻撃を払っていく。耳障りな金属音が鳴り響く中、当の本人は至って涼しげな顔だ。


 ば、化けものだろあいつ。サラのように力を受け流すでもなく、真正面から剣を打ちつけて力まかせに攻撃を叩き落としているのだ。サラとは別方向に、どんどんバケモノ化が進んでいく。


 今やガイの顔には、はっきりと怯えと恐怖が張りついている。それを振り払うかのように一心不乱に斧を繰り出すが、ジャネットは小揺るぎもしない。


「さて、と」


 ジャネットが剣を一閃しただけで、ガイの巨躯が大きく揺らぐ。たまらず後ろに2歩、3歩と下がったガイに、ジャネットは腹ごなしは終わりだとばかりに告げた。


「それじゃ、そろそろあたしの番といかせてもらおうかい」


 竜殺しの剣を両手で握り、その切っ先をガイへと突きつける。


 ガイは顔面蒼白になりながら、それでも何とか斧を構える。


「や、やめろ、来るなぁ……」


「それじゃいくよ。あんた、死ぬんじゃないよ?」


「来るなあぁぁぁ!」


 絶叫するガイとの間合いを、ジャネットは一瞬で詰めていく。さすがは元『疾風の女剣士』だ。


 間合いに入ると、ジャネットはガイの斧へと剣を叩きつけていく。そのたびに、ガイの身体は右へ左へと、まるでできの悪い操り人形のように揺さぶられる。


「ほーら、ほらほら!」


 ジャネットはといえば、いかにも楽しげに斧へと剣をぶつけていく。あいつ、完全に遊んでいるな。右から3回、左から1回といった調子で斬りつけて、さながらダンスのステップを踏ませるように相手を翻弄していく。


 これは……まさに死の舞踏だな。

 最後まで踊りきったころには、踊らされた本人はすでに力尽きているかもしれない。


 これで仕上げとばかりにジャネットが下から斬り上げると、ガイの巨体が嘘のようにふわりと持ちあがる。


 そこに、ジャネットが大きく剣を振りかぶった。


「そうら、これでも食らいな!」


 そう言って、剣を一気に振り下ろす。


「ぐわあああぁぁ――――ッ!」


 断末魔と言っても差しつかえなさそうな悲鳴とともに、ガイの巨体が遥かかなたへと吹き飛ばされていく。そのまま闘技場の壁に激突し、轟音を響かせながら壁が崩れ落ちた。


「ふう。ま、そこそこ遊べたかねえ」


 汗ひとつかくことなくそんなことをつぶやくジャネットを、親衛隊の面々が呆然とみつめている。


 いや、俺もお口あんぐりなんだが……。こいつ、この短期間でいったいどうすればこんなに強くなるんだ……?

 正直、サラに続いてこいつにも、俺はまったく勝ち筋が見えなくなってきた……。



 と、誰もが絶句し静まり返った場内に、ぱちぱちとかわいらしい音が鳴り響く。


 見れば、カナがジャネットに拍手を送っていた。


「ジャネット、すごい。強い」


「ありゃ、それはどうも」


 振り返ったジャネットが笑みを見せる。


 いや、カナも大物すぎるだろう……。あんな場面を見せつけられておきながら、平然と拍手を送るだと? いったいどれだけ図太い神経をしているのだ。


「ねえリョータ、見てくれたかい? どうだい、あたしまた一段と強くなっただろ?」


 ジャネットがのんきに手を振ってくる。

 ああ、強くなったよ! 会場の全員ががっつり引くくらいな!


「ていうか!」


 俺は我に返ると、慌てて立ち上がり駆け出した。


「ガイ! お前、大丈夫か!?」


 俺は結構本気であせりながら、崩れ落ちた壁へと走る。

 すまんガイ、俺もまさかこんなことになるとは思ってなかったのだ! 今こんなところで貴重な戦力を失っては困る!


「ええっ!? ちょいとリョータ、あたしじゃなくてそっちに駆け寄るって、いったいどういうつもりなのさー!」


 不満げに叫ぶジャネットを無視して、俺は全力でガイの下へと駆けていった。






本作もおかげさまで連載200回を迎えることができました。いつもご愛読ありがとうございます。


今回はジャネット回になりましたが、よく見ると第100話の時もジャネット回だったんですね。別に狙ったわけではないのですが(笑)。


これからも彼らをよろしくお願いします。

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