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199 決闘




 思いがけず、ジャネットと俺の部下が決闘をすることになった。いや、むしろ予想通りか。



 ガイは元々名の知れた山賊の頭だ。実力がすべての世界を生き抜いてきた者にとっては、親分に言われたからといって、得体のしれない人物の下で働くなど論外なのだろう。

 そんな親分は、いずれ見限られるか、あるいは他人に取って代わられてしまう。


 まして相手は自分より遥かに小柄で貧弱そうな人間、それも女だからな。

 内心では俺に対する怒りも相当なものだろう。こんな小娘の下につけと言われているんだからな。


 そのガイは、手に巨大な斧を握り、舌なめずりしながらジャネットと向かい合っている。身体中からあふれる殺気を、もはや隠そうともしない。


「リョータ様! この女、殺しても構わないんですよね!」


「ああ、問題ない。その時はお前が親衛隊長だ」


「マジですか! その言葉、忘れないでくださいよ!」


 ガイが歓喜の声を上げる。同時に、放っている殺気がさらにふくれ上がった。うむ、これならベストパフォーマンスを発揮できることだろう。


「ちょいと、あいつだけずるいよリョータ、あたしにも勝ったらごほうびをおくれよ」


「そうだな、何か望みはあるか?」


 結婚、とかはダメだぞ。


「じゃあさ、あたしが勝ったらまたデートしてよ! イアタークに引っ越す前にさ! こいつだけじゃ足りないなら、そいつら全員いっぺんにぶっ飛ばしてもいいからさ!」


「いいだろう、お前が勝ったらデートだ」


「やったぁ! リョータ、大好き!」


「このクソアマがあぁぁぁああ! ナメた口聞きやがってえぇぇ!」


 怒りにガイの顔がこれ以上ないほど歪む。ふむ、これならスカウトで俺と戦った時以上の力を出せそうだな。



 俺のまわりにひかえる親衛隊の連中はといえば、不安そうにフィールドを見つめ続けている。


 ケビンが不安そうに言った。


「リョータ様、その、ジャネット様は本当に大丈夫なのでしょうか……」


「何を心配している。お前もジャネットの力は知っているのだろう?」


「そ、それはそうですが、あの状態のガイはまさに狂犬、いや、暴れ牛そのものです。ああなっては私でもはたして止めることができるかどうか。いくらSクラスだとはいえ、ジャネット様は女性。万が一のことがあっては……」


 なるほど、こいつの中では女性は「まだ」かよわい生きものなのだな。サラとの決闘やジャネットとの稽古の日々を思い浮かべ、俺は遠い目を虚空へと向ける。


 俺もそう思っていた時期があったよ、女はかよわく、ことごとく俺の前にひれ伏しておとなしくハーレムに加わっていくものだとな。



 そんな俺の夢を無残にも打ち砕いた女どもの片割れは、剣を抜くと俺に向かって叫ぶ。


「そろそろいいかい? あたしゃ早く遊びたいんだよ!」


「ああ、今合図するから少し待ってろ」


 適当に返事していると、カナが俺の顔を見上げてきた。


「ジャネット、ガイ、どっち勝つ?」


「お、カナ、もうあいつの名前をおぼえたのか。えらいぞ」


「このおじさん、ケビン」


「おお、正解だ。えらいえらい。ケビンよ、お前は早くもカナに名をおぼえられたぞ。光栄に思え」


「は、はあ……」


 ケビンがとまどったように視線を泳がせる。

 何をとまどうことがある、カナに自分の名をおぼえてもらえるなど、俺からの褒美などより何百倍も価値があるではないか。


 俺はカナをひざの上に乗せると、頭をなでながら言った。


「まあ、見ていろ。ちゃんと見ていないと、ジャネットの数少ないいいところを見逃してしまうぞ」


 こくりとうなずくと、カナはフィールド中央をじっと見つめる。



 さて、そろそろ始めるか。


「よし、それでは始めるぞ。二人とも、用意はいいか」


「ああ、待ちくたびれてあくびが出そうだよ」


「リョータ様! 早くこのクソアマをぶっ殺させてください!」


「わかったわかった。では、始めろ」


「うおらああああぁぁぁああっ!」


 俺が言った途端、間髪入れずにガイがジャネットへと突貫する。


 両手で握った大斧を力まかせに振り下ろす。ジャネットがひらりと身をかわすと、斧は地面を穿うがち大穴を開けた。


 息つく間もなく、ガイはジャネットに迫ると斧を振るい続ける。そのたびに、地面には次々と穴が開いていく。


「な、何という猛攻……!」


 ケビンと弓使いの女が、冷や汗を流しながら戦いを見つめている。


「そうだな、あの調子では、戦いが終わるころには地面がぼこぼこだ」


「そ、それどころではありません! あんな攻撃、ジャネット様に当たりでもしたらただではすみません!」


 女が叫ぶ。そうだな、あいつがそんな女だったなら、俺ももっと守りがいがあったのだがな。


「お前たちならどうする?」


「そうですね、誰かに盾となってもらえれば私の弓でどうにかできると思いますが、あの状態のガイの攻撃を受け切れる人間がそう多くいるとは思えません」


「今のガイは、残念ながら私一人の手には負えません。一対一ならば、ひたすら逃げ続けて体力が切れるのを待つしかありませんな。きっとジャネット様もそれを狙っているのでは?」


「だといいのだがな」


 俺は薄く笑みを浮かべた。この後、こいつらがどんな顔をするのか楽しみだ。



 フィールド上では、まったく疲れた気配のないガイが、ジャネットをまるで野ウサギでもなぶるかのように執拗に追い回している。


「はははは! どうしたクソアマ! 逃げ回っているだけでは俺には勝てんぞ! はははは!」


 ああ……あまりにもテンプレすぎるセリフに、思わず俺は頭をかかえた。

 どうして斧使いみたいなキャラがああいうこと言っちゃうんだ。フラグにもほどがあるだろう。


 親衛隊の連中は、どうやらそんな俺のしぐさを勘違いしたらしい。


「リョ、リョータ様!? どうなさいました!?」


「い、今なら間に合います! この私が盾になりますから、その間にジャネット様を……」


「いや、いいから見てろ」


 顔を上げると、ジャネットがニヤリと笑うのが見えた。ああ、そろそろか。


 目にも止まらぬ体さばきで攻撃を避け続けるジャネットが、残念そうにつぶやいた。


「何だ、そんなもんなのかい? まだまだ肩ならしかと思って、ガマンして待っててあげてたのにさ」


「ほざけ、クソが!」


「いいよ、それじゃそろそろあたしも遊ばせてもらうとするかい」


 そうぼやくと、ジャネットが剣を構えた。


 その姿に、ガイが勝ち誇って大斧を振りかぶる。


「バカが! 俺の攻撃を受けるつもりか!」


 完全に足を止めたジャネットが、ニヤリと口の端を吊り上げる。


「かかってきなよ、でくのぼう」


「クソがあああぁぁぁああぁ!」


 渾身の力で、ガイの斧が振り下ろされる。親衛隊のメンバーが、思わず叫び、目を閉じた。場内に激しい金属音が響き渡る。


 次の瞬間、驚きの光景に再び絶叫がこだまする。



 巨石をも砕くガイの全霊の一撃を……ジャネットは、右手に握った剣で平然と受けとめていた。






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