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197 意外な単語



 ラファーネたちとの話も終わり、俺たちは城を後にした。何はともあれ、最高の家庭教師が無事に決まって本当によかった。






 その日の夜、夕食を終えた俺たちはそのまま食堂で談笑していた。


 俺は酒を片手に上機嫌で笑った。


「喜べカナ、ラファーネ先生だ、王国の大賢者がお前の先生になるんだぞ。賢者様に直接学べる人間など、この世界にそうはいないぞ。カナも嬉しいだろう?」


「うん、嬉しい」


 カナが嬉しそうに表情ひとつ変えずうなずく。そうだろうそうだろう、お前も嬉しいだろう。


 勉強になど興味がなさそうなジャネットも、満足そうにうなずいてみせる。


「まったくだね。賢者様だよ、賢者様! 賢者様の弟子になるなんて、カナもいずれは賢者様になったりするかもしれないねえ」


 俺は酒をあおりながらしゃべり続ける。


「カナはできる子だからな。今からきちんと学べば東大だろうと国立医学部だろうとよりどりみどりだ。海外に出るのも悪くないか。カナなら東のアイビーリーグやMITよりも西海岸、スタンフォードやCaltechの方が合っているかもしれんな」


「あの、ちょっと、リョータ?」


「そうだな、カナは治癒魔法を学ぶのだから、やはり医学系か。理Ⅲでも京大医学部でも、好きなところへ行けばいい。将来的にはUCSFへ進んでもいいしな。カナならば、世界中あらゆる機関から引っ張りだこだ」


「リョータ、さっきから何わけのわからない呪文唱えてるんだい? あたしゃ何だか気味が悪いんだけど」


 ジャネットが何が何だかといった顔で俺を見る。まあ、お前にはわからんだろうな。


 もちろん俺は怒ったりなどしない。


「気にするな。それだけカナは才能に恵まれているということだ」


「そうだねえ、何せ賢者様の弟子だからねえ」


 こいつは二言目には賢者様、だな。言っておくが、カナに才能があるからこそラファーネも家庭教師の話を受けたのだぞ?


 まあいい、俺は今、とても機嫌がいい。


 愉快な気分のまま、俺はジャネットに言った。


「そうだ、今度お前に会わせたい奴らがいる」


「あたしにかい? 言っとくけど、あたしには家庭教師はいらないよ」


「誰もお前のおつむになど期待してはいない」


「な、何さ、何もそんな風に言わなくたっていいじゃないか」


 ジャネットが少しむっとした顔になる。事実なんだからいいだろう、別に。


 いつもよりこころなしか酔いの回った頭で、俺は続けた。


「実はお前にまかせたいことがあってな」


「まかせたいこと?」


「ああ。今度俺は総督直属の私兵部隊を組織しようと思っているんだが、お前にはその隊長になってほしいのだ」


「へえ、あたしが隊長かい? 構わないけど、そいつら腕は確かなのかい? ひよっこどものお守りはかんべんだよ」


 面倒ごとはごめんだとばかりに肩をすくめるジャネットに、俺は自信満々に笑った。


「案ずるな。どいつも俺が認めた粒ぞろいの精鋭たちだ」


「そうかい、それなら安心だね」


「だろう? 『クロノゲート親衛隊』には、選ばれた者しか入れないからな」


 まあ、ひとりだけ例外がいるが。


「『クロノゲート親衛隊』?」


「ああ、そうだ。お前には、その『クロノゲート親衛隊』の初代親衛隊長の座についてもらいたいのだ」


 得意の絶頂になって言う俺に、ジャネットが頭を押さえながら答えた。


「いや、まあ……。前からわかってはいるけどさあ……」


「どうした、そんなに嬉しいのか。別に遠慮などしなくていいのだぞ?」


 次の瞬間、ジャネットは信じられないセリフを口にした。


「リョータ、あんたってホント中二病だよね……」


「ちゅ、中二病だと!?」


 愕然となった俺は、声を荒げて問う。


「な、なぜそんな言葉を知っている!? ま、まさかお前も日本から転生してきた人間だったのか!?」


「はあ? 何言ってるんだい?」


 ジャネットが首をかしげる。どうやら本当に意味がわからないようだ。


「だ、だが、ならばどうしてお前が中二病などという言葉を知っている!?」


「そりゃ知ってるよ。有名な病気だもん。あれは何て言ったかねえ、中級冒険者何とかかんとかってやつだよ」


「中級冒険者第二人格形成病的症候群」


 それまで黙ってお菓子を食べ続けていたカナが、菓子へと視線を向けたままつぶやく。


「カ、カナ!? お前も知ってるのか!?」


「うん、知ってる」


 菓子の皿を見つめたまま、カナがこくりとうなずく。


「そうそう、それそれ。あんたくらいの年の、ちょっと仕事に慣れてきた冒険者がかかりがちなやつだよ。ちょっと気取ったというか、本人的にはかっこいいと思う言動が増えるんだよ。変に小難しかったりさ」


 そ、それは、普通に中二病じゃないか! ま、まさかこの世界にもその概念が存在したのか!


 というか、明確な悪意を感じるぞ? あの神様じいさん、わざとこの世界にその概念をねじこんでないか?


 俺はやや我を忘れて叫んだ。


「ち、違う! 俺は断じて中二病などではないぞ!」


「別にいいじゃないのさ。人それぞれなんだし、別に今さらあたしはどう思いもしないよ」


 いや、これは俺の魂の問題だ! とにかく、俺は絶対中二病などではないからな!



 と、俺はひとつ重大な問題を思い出した。


「サ、サラは!? もしかして、サラも俺のことを中二病だと思っているのか!?」


 い、嫌だ! あいつにまでそんな風に思われたくない!


 いつになく取り乱す俺に、ジャネットは諭すような調子で言った。


「それはきっと大丈夫だよ、あの子も結構中二病の気があるからねえ。あんたたちくらいの年の子なら、よくあることさ」


「そ、そうなのか? よ、よかった」


 よく考えてみれば、お前たちは二人とも中二病だと言われているのだが、俺は不思議と落ち着きを取り戻していた。何だ、サラも同じなのか。ならば心配ないな。


「まあ、あんたたちお似合いだよ。そういうわけだから、気にしなくても大丈夫さ」


 そう言って、ジャネットが俺にウィンクする。


「それじゃ、今度そいつらに会わせておくれよ。使えそうな連中なら、その隊長の件、引き受けるよ」


「ああ、よろしく頼む」


 気分が落ち着いた俺は、グラスにワインをついで一気に飲み干す。




 そんな調子で、俺たちは食後の会話を楽しんだ。





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