表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/227

194 最高の家庭教師




 ラファーネが、イアタークへと来てくれることになった。


 裏ではサラがあれこれと手を回してくれたらしい。実際なかなか骨が折れたそうで、俺は少し申しわけない気持ちになった。


 まあ、これもカナに最高の教育を与えるためだからな。




 そのラファーネが来るということで、今日はカナを連れて城へとやってきた。やはり勉強する本人と会わせないとな。


 それはいいのだが。


「へえ、あんたたち、こんなところで仕事してるのかい。うへえ、何だいその紙の山は。まさかこれ全部読むのかい?」


 なぜかジャネットまでついてきた。何でも、カナに先生をつけるのなら自分も行かないといけないのだそうだ。


 いや、お前は以前一度ラファーネに会ってるし、別にいいだろう。要は俺とサラの偵察に来たかっただけだろ、こいつ。


 書類の山に目を回したジャネットは、カナと一緒にお菓子をつまむことにしたようだ。まあ、下手に書類をいじられるより遥かにいい。


 お菓子にパクつく二人を見つめながら、俺はサラに話しかけた。


「ずいぶんと面倒をかけてしまったな。すまない」


「何、お安いご用だ。私もラファーネ殿がイアタークにいてくれれば安心できるしな」


「しかし、よく呼び寄せることができたな」


「基本的にはグスタフの時と同じだ。とはいえ、苦労したぞ。ラファーネ殿の場合はミルネ全土にその名が知れた大魔法士だ。どこものどから手が出るほど来てほしがっているからな。私も必死に魔族の脅威とイアタークの重要性を訴えて回ったのだぞ」


「わかっている。本当に感謝している」


「べ、別に、礼などいい」


 赤面したサラが顔をふせた。こいつは礼を言うとすぐにこうなるな。




 しばらくして、部屋へとやってきた女官がラファーネの到着を告げた。


 俺たちも席に着いて待っていると、扉がノックされる。


 サラが返事をすると、扉が開かれて女官と共に小柄な女性が入ってきた。ラファーネだ。


「殿下、ごぶさたしておりました。皆さんもお久しぶりですね」


 柔らかくほほえむラファーネに、俺たちも次々にあいさつをする。ジャネットはあいかわらずラファーネの前だとがちがちになるな。


 カナに気づくと、ラファーネは笑顔を向けた。


「そちらがカナさんですね。はじめまして、私はラファーネと申します」


 カナもちょこんと頭を下げた。


「カナです。よろしく」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 にっこりと笑うと、サラにうながされてラファーネは席に着いた。俺たちもソファに座る。


 ソファの一方にはサラとラファーネが、反対側にはカナをはさんで俺とジャネットが座っている。何というか、三者面談みたいな感じだな。



 まずは俺が話を始めた。


「ラファーネ、今回はカナの家庭教師の件を引き受けてくれて、心から感謝する。学業と魔法、両方を教えてやってほしいと思っているが、どうかよろしく頼む」


「私でよければ、微力を尽くさせていただきたいと思います。もちろん、カナさんとの相性もありますので、あくまでカナさんにご納得していただければの話にはなりますが」


「もちろんだ。少し話をしてやってくれ」


 ジャネットがカナの頭越しに俺にささやく。


「だ、大丈夫かねえ。カナ、賢者様に認めてもらえるのかい?」


「大丈夫だ、カナはできる子だからな」


 そう答える俺の声が、少しだけ震える。信じてはいるが、相手は王国一の賢者だからな。万が一にもありえないとは思うが、ひょっとしたら、今のカナでは自分が指導するに値しない、と判断されてしまうかもしれない。


 手に汗握りながら二人を見守っていると、ラファーネがカナに話しかける。


「カナさん、あなたはどうして私に学びたいと思われたのですか?」


「わからない。カナ、リョータにラファーネすごい先生って言われた」


「ちょ、ちょっと待てカナ!」


 俺は慌ててカナの口を押さえた。声が思わず裏返る。


「す、すまん、カナは少し質問の意味がわからなかったみたいだ。あまり人と話すのが得意ではなくてな。俺が間に入っても構わないだろうか?」


「ええ、どうぞ」


 ふう、ラファーネがいい人で本当に助かったぞ。わからないだの親に言われたからだの、気が短い先生ならその場で即断られても文句は言えん。いきなり心臓が止まるかと思ったぞ。


 背中を汗でぐっしょりと濡らしながら、俺はカナに説明する。


「カナ、今の質問はな、どうして普通の先生ではなく、ラファーネのようなすごい先生に勉強や魔法を習いたいのか、ということを聞いているのだ。わかるか?」


「カナ、わかる」


 うなずくと、カナはラファーネの方を向いて言った。


「カナ、戦いでリョータたち助ける。魔法上手なら、リョータたち助けることができる。すごい先生に習えば、魔法すぐにうまくなる」


「なるほど、リョータ様を手助けするために、一日も早く冒険者として立派になりたいから、ということなのですね」


「うん」


 心なしか、カナのうなずきが力強く見える。カナ、お前そんなことを思ってたのか。なんて孝行娘なんだ。よしよし、今日はこの後うまいもの食わせてやるからな。




 カナの勉強の動機に思わず涙を流しそうになっている横で、ラファーネとカナの面談が続く。


 俺はカナの一挙手一投足にはらはらしながら、二人の会話を固唾を飲んで見守っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←もし『転移魔法』がおもしろかったなら、ここをクリックしてくれると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ