190 事務仕事
やはり、総督の話など受けなければよかったか……。
今日も俺は、サラと一緒に書類と格闘している。
というか、あまりの書類の多さに溺死してしまいそうだ。これでもサラがわかりやすいようにまとめておいていてくれるから、ずいぶんとやりやすいのだが。
今、俺は総督府の役人などの人選のチェックをしているところだった。基本的には、新たに俺の部下となる総督府の幹部たちが提出した名簿を確認して、問題がなければ俺が印を押していく。
総督府の主だった幹部も、俺が仕事をしやすいようにとすでにサラが選んでくれていた。彼女が選んだ人物が作成した名簿だから、俺も安心して印を押すことができる。
というか、サラが総督で俺が司令の方がよくないか? これ、サラがいないとやっていく自信がないぞ……?
そんなことを思いながら、俺は名簿をチェックしていく。まだ人選が未定のポストなども多い。俺が直接決めることも可能だが、いちいち中間管理職レベルの役人を総督みずから決めていてはきりがない。
役人のポストの他にも、町の建築や商業施設関係などをどこに頼むかなど、決めなければならないことは多い。それも多くはサラが選んでくれた幹部たちによって候補が挙げられているのだが。
時々、俺はサラに名簿の役人について聞く。
「サラ、この男はどんな人物なのだ?」
「ああ、彼はいいかげんなところもあるが優秀な官僚だと聞いている。その手の仕事をまかせるのであれば適任だろうな」
「この人物は?」
「彼女は女性の有望株として知られている人物だな。いったいどれほどのものなのか、私も楽しみだ」
そんな調子で、黙々と印を押していく。
しばらくして、俺は伸びをしながらサラに聞いた。
「ひょっとして、総督になってからもずっとこんな調子なのか?」
「さすがにここまでということはないはずだが、事務仕事はそれなりにあるだろうな」
「そうか……」
俺はため息をつく。もう完全に社会人だな。まさか、大学に行く年になる前に社会人になってしまうとは。それもいきなり市長とか社長レベルときたものだ。
少しばかり不安に駆られ、俺はサラに聞く。
「これ、本当に俺にできると思うか……?」
「お前にできないならば、他の誰にもできないさ。心配するな、お前の周りは私が信頼を置く者たちで固めてあるし、私も可能な限りお前の補佐をさせてもらう」
「そうか、それは心強いな」
いや、ホントマジで心強いよ。
俺は心からサラに礼を言う。
「お前がそこまでしてくれるとは。本当に感謝している。これからも、どうかよろしく頼む」
「れ、礼には及ばん。私が頼んだことだしな。お前が望むのなら、い、いくらでも手を貸してやる」
頬を赤く染めたサラが、ぷいと俺から顔をそらす。何をそんなに照れているんだ、こいつは。
顔をそらしたまま、サラが言う。
「そうだな、お前には秘書もつけた方がいいかもしれんな。今度選んでおく」
「ああ、秘書か」
そういえば、それが足りていなかったな。そうか、秘書か。
秘書というとやはり美人秘書を期待するのが男の性というものだが、きっと中年の男がやってくるのだろう。そんな未来が見えている。
「サラが秘書としてずっとそばにいてくれれば、俺も仕事がはかどるというものなのだがな」
「なっ!? な、何を、その、は、破廉恥な!」
顔を真っ赤にしてサラが叫ぶ。
いや、ハレンチなってどういうことだよ。お前、いったい何を想像したんだ?
思わず取り乱したのが恥ずかしかったのか、せき払いをひとつする。
「ごほん! ま、まあ、私を秘書がわりに使ってもらっても構わんがな。か、勘違いするなよ! リセも一緒だからな!」
何をどう勘違いすれば、どうなると言うのだ。
ふて腐れたように目線をそらすサラ。俺も再び書類へと視線を落とす。
それからしばらくして、俺はひとつの書類に目を留めた。
「サラ、もしかしてこれも、俺が決めていいのか?」
「うん? ああ、もちろんだ。別に部下に決めさせても構わないが、誰か心当たりでもあるのか?」
「ああ、実は今、少々困っていたところでな。あいつにならまかせても大丈夫だろう」
「あいつ……ああ、そういうことか。私も適任だと思うぞ。では、私の方からも調整しておいてやろう」
「わかった。よろしく頼む」
それから、また書類の山に手をのばす。
どうやらこれで、おおよそのことはうまくまとまりそうだ。後はサラがラファーネにきっちり話をつけてくれれば、俺の身の回りの準備はほぼ完了する。
そうと決まれば、仕事だな。俺は必死に書類を確認しては印を押し続けた。
久々に日間に引っかかっていたのでこちらも久々に毎日更新してみましたが、陥落したようなので平常運転に戻ります。
しばらくの間ペースを速め、三日おきで投稿しようかと思うのでよろしくお願いします。