19 クエストの後始末
転移して俺の部屋へと戻ると、ベッドの上にはシーツをまとった女が三人、床には縛り上げた盗賊のボスが転がっている。
とりあえず女に着せる服を買ってくると、俺とボスは部屋の外に出てカナに服を持たせる。部屋の中の女たちを起こしてそれを着せるように言うと、カナはうなずいて部屋の中へと入っていった。
頃合いを見計らって、俺も部屋に入る。女たちは怯えた表情を見せたが、俺が盗賊たちから彼女たちを救出したこと、これからギルドに保護してもらうことを伝えると、三人とも安堵の表情を見せた。
女たちとボス、そしてカナと共に俺はギルドの前へと転移する。
中に入ろうと思ったが、ボスが歩けない。ちっ、両足を切ったのは失敗だったか。
仕方ないので、俺はギルドの中のレーナのところまで転移した。
突然目の前に現れた俺たちの姿に、レーナが驚いて声を上げる。
しばらく呆然とした後、窓口から出てきたレーナが涙を流しながら俺に抱きついてきた。
「リョータさん! 無事だったんですか!」
「ああ、この通り無事だ」
レーナが大きな胸を俺の胸に押しつけてくる。その感触を楽しみながら、俺はレーナが落ちつくのを待った。
しばらくして、俺はレーナから身体を離して言う。
「まずはこの三人の保護とこいつの引渡しをお願いしたいんだが」
「そ、そうですよね! 今チーフを呼んできます!」
目を赤く腫らしながら、レーナが上司を呼びに行く。
やがて上司たちを連れて戻ってくると、女たちに身元の確認をしていく。確認ができたところで女たちは奥の部屋へと連れられていった。
床に転がっているボスは自分では歩けないので、ギルドの職員たちに担がれて連れて行かれた。
窓口に戻ったレーナが、俺を潤んだ目で見上げてくる。
「でも、リョータさんが無事に帰ってきてくれて、本当に嬉しいです……」
「心配をかけたようだな。すまない」
「いいえ、私こそリョータさんの力を過小評価しすぎていました。まさかたった一人で、あの盗賊団を壊滅させてしまうなんて……」
憧れの眼差しで俺を見つめてくるレーナ。と、その視線が隣のカナへ移動する。
「あの、リョータさん、その子は……」
「ああ、カナか。盗賊団に奴隷として使われていたんだ。俺が解放した」
「そうなんですか。私はレーナ。カナちゃん、よろしくね」
「レーナ。よろしく」
笑顔で言うレーナに、カナがぺこりとお辞儀をする。
それから、レーナが俺に尋ねてきた。
「カナちゃんは保護しなくていいんですか?」
「ああ。これからは俺といっしょに暮らすからな」
「い、いっしょに暮らす?」
レーナの目が、驚きに見開かれる。
「そうだ、ちょうどいい。レーナに聞きたいことが……」
「リョータさん!」
「な、何だ?」
急に大声を上げるレーナに、俺は思わずうろたえる。
「カナちゃんといっしょに暮らすってことは、その、奴隷として飼うってことですか?」
「は?」
「そ、その、あちらの面倒も見させたり、とか……」
レーナは頬を染めながら俺を睨みつけてくる。なるほど、俺が性奴隷としてカナを拾ったと勘違いしているのか。まったく失礼な奴だ。
「そうじゃない。さっきも言ったろう、カナは俺が解放したと。こいつには身寄りがいないから、俺が家族がわりになろうと思っただけだ」
「あ、そ、そうだったんですか……」
「カナ、リョータ、ともだち」
カナがそう言いながら俺の手を引っぱってくる。自分の勘違いに気づき、レーナが顔を真っ赤にしてうつむく。どうやら誤解は解けたようだ。
先ほど途中まで言いかけた話を、俺は再び繰り返す。
「それで、カナと二人で暮らせる家を借りたいんだが。ギルドで家の斡旋はしているか?」
「あ、ああ、そういうことですか。でしたら、集合住宅と戸建て住宅とがありますが……」
「金ならある。戸建ての方がありがたいな」
「月の予算はどのくらいですか?」
「まあ、金貨の一枚や二枚ならすぐにでも出せるが」
「そ、そんなにですか!? 最上級の家になりますよ!?」
レーナが驚きの声を上げる。なるほど、そういうものなのか。例の料理店との取引で毎週金貨が三枚転がりこんでくるから、金銭感覚がずれてきているのかもしれないな。
「ならそれでいい。適当に二つ三つ見繕ってくれ」
「は、はい! 今見取り図を持ってきますね!」
そう言って、レーナが慌ただしく書類を取りに行く。すぐに戻ってくると、俺は適当に広めの風呂がついた家を選んだ。
「いつから入れるんだ?」
「はい、ご希望でしたら明日からでも入れますよ」
「じゃあそれで頼む」
「はい、わかりました。それでは、こちらの書類にご記入ください」
レーナの言う通りに、書類に必要事項を書きこんでいく。それを終えると、俺は書類をレーナに手渡す。
「はい、ありがとうございます。それでは手続きしておきますね」
笑顔で書類を受け取ると、レーナが家までの地図を手渡してくる。クエストの報酬については、あらためてギルドから連絡するそうだ。大きなヤマだけに、それなりの確認や調整が必要になるのだろう。
もらった地図をポケットに突っこむと、俺はカナと手をつないでギルドを後にした。