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186 盲点




 サラとの話を終え、俺たちは城を後にした。


 帰り際、サラは俺に内緒で勝手に総督の話を進めた詫びとして、可能な範囲でひとつ何でも要望を聞くと約束した。


 俺は別に気にしなくてもいいと言ったのだが、それではいけない、けじめはつける必要があると言ってきかなかった。まったく、妙なところで律儀な姫様だ。


 まあ、せっかく約束してくれたのだ。俺もお言葉に甘えさせてもらうとしよう。さて、何をやってもらおうかな。






 これで酒の町が作れるねえ、よかったよかった、などとわけのわからんことを言うジャネットの相手をしながら、俺たちは冒険者ギルドへとやってきた。


 中に入り、窓口の方へと向かう。


 窓口では、レーナがいつものように働いていた。


 冒険者たちの話が終わるところを見はからい、俺たちはレーナのところへと近づく。


「レーナ、調子はどうだ」


「あ、リョータさん、ジャネットさん。こんにちは」


 レーナが実に嬉しそうに笑う。まあ、レーナは俺に惚れているしな。それも当然か。


 その胸元には、この前デートで渡したペンダントが輝いている。ペンダントもいいのだが、いつ見てもレーナの胸は吸いこまれそうなほどの吸引力があるな。


「サラが喜んでいたぞ。みやげを喜んでもらえてよかった、とな」


「と、とんでもない! こちらこそ!」


「まあ、今度会った時にでも礼を言うのだな」


「は、はい……」


「それと、この前はデートにつき合ってもらって感謝する。楽しかったぞ」


「は、はい、私もとっても楽しかったです。ありがとうございます」


 真っ赤になってレーナが頭を下げる。レーナはレーナで、サラに劣らずかわいい奴だ。


「この前いっしょにカナに買ってやったみやげの菓子も、ずいぶんと喜んでいた。さすがだなレーナ、お前の見る目に間違いはない」


「そ、そんなことはありませんよ……。でも、喜んでもらえてよかったです」


 そこにジャネットが割りこんでくる。


「な? デートしてよかっただろ? リョータ、またレーナとデートしてあげるんだよ?」


「それはレーナが望むならの話だ。もちろん俺は喜んでつき合うが」


「わかってないねえ。あんたが誘わないと、レーナからは誘いにくいだろ?」


「まあ、それもそうだな。レーナ、また相手してもらえるか?」


「は、はい……。私でよければ、喜んでお相手させていただきます」


 レーナが耳まで赤くなってうなずく。うむ、レーナが喜んでくれるのなら俺としては本望だ。


 その横では、ジャネットが腕を組みながらうんうんとうなずく。こいつは本当にいったい何なんだ。


 それから、名案が浮かんだとばかりに叫びだした。


「そうだ! 今度パーティーやろうよ! お祝いの!」


「お祝い、ですか? 何かいいことでもあったんですか? あ、カナちゃんの卒業祝いですか?」


「そうだね、この際いっしょにやっちまおうか! 実はね、レーナ、驚くんじゃないよ?」


「はい、何でしょう?」


 ジャネットがもったいぶりながら身体を左右に揺する。ああ、総督の件を言いたいのか。まあ、レーナは驚くだろうな。


 うきうきしながらジャネットがレーナに言う。


「実はね、驚くんじゃないよレーナ、今度リョータ、新しい町の総督様になるんだよ!」


「総督様……ですか?」


 何のことかわからないのだろう。レーナが小首をかしげる。


 レーナの反応に、ジャネットが不満そうに両腕をばたばたさせる。


「ちょいとレーナ、もっと驚きなよ! 総督様だよ、総督様! すごくえらいんだよ! こーんな! こーんなに!」


「は、はあ……?」


 だめだこりゃ。俺が説明しよう。


「実はな、これまでに魔界から奪還した領地を支配するために今度総督府が置かれることになってな。俺がその総督に就任することになったのだ」


「なるほど、そうだったんですか……って、えええええっ!?」


 うんうんとうなずいていたレーナが、目を丸くして窓口から身を乗り出す。まあ、驚くよな。


「すすす、凄いじゃないですかリョータさん! 奪還した領域って、ちょっとやそっとの広さじゃないですよね?」


「サラが言うには、ミルネのどの貴族の領地よりも広いそうだ。あいつも防衛軍司令だかになって、俺といっしょにイアタークという町に行くことになると言っていた」


「そうなんですか……おめでとうございます」


 ひとしきり驚いたレーナは俺に祝いの言葉を述べると、少し寂しそうな顔をした。


「でも、そうなるとリョータさんはこの町からいなくなってしまうんですね……」


「あ……」


 ジャネットがしまった、といった顔をする。そうか、俺もすっかり失念してしまっていた。レーナはこのギルドの職員なのだから、イアタークには来ないのか。


 ジャネットがレーナをなぐさめようとする。


「ご、ごめんよレーナ? で、でもさ、リョータならきっといつでも遊びに来てくれるよ! ね、リョータ!」


「う、うむ、もちろんだ」


 とは言ったものの、そんなに頻繁にこちらに来れるわけでもあるまい。転移魔法があると言っても、イアタークでの仕事もあるのだろうしな。


「私のことなら気にしないでください。リョータさんなら、きっと立派な総督様になれますよ」


 そういうレーナの表情はやはり寂しげだ。


 ううむ、こいつは困ったな。レーナと離れ離れになるなど想像もしていなかったぞ。

 だからといって、「レーナと会えなくなるから総督はやめておく」なんて言えるはずもない。サラはイアタークに行ってしまうわけだしな。俺がこっちに残るわけにもいかない。



 こいつは何とかしないといけないな。ギルドを出た俺は、ジャネットの話もそっちのけでうんうんと頭をひねりながら家路へとついた。




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