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185 承諾




 総督になってくれ、とはな。


 サラめ、いきなり爆弾をぶちこんでくれたものだ。俺が総督だと?


 まあ、俺が候補にあがること自体は想定はしていたがな。だが、俺のところには話が来ないので、てっきり他の奴を選ぶつもりだと思っていたのだ。


 サラの妙なノリにつられ、俺もおかしな口調になる。


「サラさんサラさん、ちょっと聞きたいんだがいいかな」


「ああ、何でも聞いてくれ」


「そういうことは、先に本人の承諾を取りつけてから進めていくもんじゃないのかね?」


「まあ、普通はそうだろうな」


 うなずきながら、サラは俺に無邪気な笑みを向けた。


「だが、お前は断らないだろう?」


「……そうかもしれんな」


 サラが嬉しそうに何度もうなずく。


「そうだろう、そうだろう。カナも卒業したことだし、イアタークに引っ越しても何の問題もあるまい?」


「まあな」


 実際、俺には特に断る理由はない。というより、サラがそう望むのならぜひ応えてやりたいと思っている。


 思って、いるのだが……。


 さすがにこのまま「はい、やります」と言うのも癪だな。というか、こっちも少しはサラをからかってやりたい。


 ということで、俺は少しうつむき考えこむフリをする。


 じっと黙っている俺の様子に、上機嫌だったサラが急に不安そうな顔になった。


「リョ、リョータ? 何か問題でもあるのか?」


「……」


「も……もしかして、怒っているのか? た、確かに事前に伝えなかったのは悪かったと思っているが……」


 サラの声がだんだんしぼんでいく。よしよし、少しは懲りたか。まったく、俺をからかうなど100年早いのだ、このいたずら小僧め。


 今サラはどんな顔をしているのかと、俺はわくわくしながら顔を上げた。きっと子犬のようにしゅんとしょげていることだろう。


 ……そこにあったのは、真っ青に血の気が引いたサラの顔だった。


「す、すまない……。私にできることなら、償いは必ずする……。だが、我が国のためにも、どうかここは承諾してもらえないだろうか……」


「リョ、リョータ、あたしからも頼むよ……。サラもちょっとした出来心だったんだろうしさ……」


 あ、あれ!? やり過ぎた!? ちょっとからかうつもりが、何だかまるで世界の終りが来たかのような顔になってるぞ!? というか、サラってこんなにメンタル弱かったか!?


 俺は慌ててサラに頭を下げた。


「す、すまん! ちょっと仕返しをしたかっただけなんだ! お前の頼みを断るつもりなんてさらさらないから安心してくれ!」


 サラにさらさらとか、どうでもいいことが脳裏をよぎる。


「ほ、本当か……?」


 サラが唇を震わせながらたずねてくる。


「もちろんだ、総督でも何でもやってやる、だから安心しろ」


 俺が大きくうなずくと、サラは安心したのか泣き出しそうな顔になった。


「よ、よかった……。ありがとう、ありがとう、リョータ……」


「い、いや、本当にすまなかった」


「はあ、よかったよ。あたしもホントにあんたが怒ってるのかと肝を冷やしたよ」


 ジャネットまでがそんなことを言う。そんなに怒っているように見えたのか?


 と、俺たちの様子をずっと黙って見ていたカナが口を開いた。


「リョータ、サラいじめる、よくない」


「ぐっ!?」


 そ、そんな風に見えてたのか!?


「カ、カナ!? 俺は別に、いじめようとか思ってたわけじゃないんだ! ただちょっとだけ……」


「リョータ、サラにあやまる」


「……はい」


 カナに言われ、俺はサラをまっすぐ見つめる。


「リョ、リョータ、謝る必要などないぞ? 悪いのは先に知らせなかった私だし……」


「あやまる」


「サラ、すまなかった」


 カナが首を横にふるふると振る。


「ごめんなさい」


「……ごめんなさい」


「よくできました」


 満足そうにうなずくと、カナはえらいえらいと俺の頭をなでた。……まさか、俺がカナに叱られる日が来ようとは。


「あーあ、これじゃ男爵様もかたなしだねえ」


「うるさい。……反省はしている」


「すまんリョータ、私のせいで……」


「気にするな、お互いさまということにしておいてくれ」


 いち早く立ち直ったジャネットが、俺に聞いてきた。


「ところで、リョータはサラの話を受けるってことでいいんだよね?」


「ああ」


 うなずく俺に、ジャネットは大声を上げた。


「すごいじゃないか、リョータ! 総督ってすごいんだろ? リョータ、イアタークのあたりを全部治めるのかい?」


「その辺はどうなんだ、サラ?」


「ああ、そうなるな。今回設置される王国南方領総督は、これまでに魔界から奪還した領域の三分の二を治めることになる。仮に総督の支配領域を領地に見立てるならば、その領地は王国のどの貴族よりも広くなるな」


 仕事の話になったからか、サラもすぐに切り替えると、いつもの調子で説明する。


「すごいよリョータ、あんたが一番だってさ! どんどんえらくなってくね!」


「まあ、そうだな」


 あまり実感はないのだが。


「だが、そうなると忙しくなるだろうな」


「ああ、新総督殿にはいろいろと確認してもらわないといけないこともたくさんあるからな。しばらくは城に通いつめてもらうことになるだろう」


「よかったねサラ、毎日リョータと会えて」


「ばっ! そ、そんなことは関係ない!」


 顔を真っ赤にしてサラがどなる。わかりやすい奴だ。


「とっ、とにかく! 総督の件、感謝する! それでは、明日からは毎日城に来てもらうことになると思うがよろしく頼むぞ!」


「ああ、わかった」


 最初の「と」を思い切り声を裏返らせながら、サラは怒ったように言う。かわいい奴だ、と思いながら、俺はうなずいた。




 しかし、俺が総督か。これはまた忙しくなりそうだ。


 だが、これでまた一歩前進することができた。ここは一つ、カナの保護者として胸を張れるような総督にならないとな。





新作『異世界転移の神滅龍皇』、多くの方に読んでいただけました。ありがとうございます。

『転移魔法』も、これに負けないようがんばっていきたいと思いますので引き続きよろしくお願いします。


さて、せっかくのGWですし、日頃の感謝の意味もこめて明日あさってと続けて投稿したいと思います。どうぞお楽しみに。

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