183 レーナとのデート
王都に戻って数日後、俺は約束していたレーナとのデートをすることにした。
いつも待ち合わせに使っている公園の水場あたりへ向かうと、清楚な白いワンピース姿の女が俺を待っていた。
「レーナ」
「あ、こ、こんにちは、リョータさん」
俺の声にびくりと身体をすくませると、レーナが顔を赤くして返事した。
「待たせたか?」
「い、いえ! 私も、今来たばかりでしたから!」
ぷるぷると首を横に振りながら返答する。
俺も少し早めに家を出たというのに、それより早くからここで待っていたとは。どうやら俺とのデートを心待ちにしていたようだな。顔にもそれがはっきりと出ている。
それはいいのだが、どうも動きが固い。会話もどうにも固いな。
とりあえず、褒めるか。
「レーナ、今日はワンピースか。よく似合っているぞ」
「そ、そうですか!? あ、ありがとうございます!」
慌ててレーナが頭を下げる。いや、そんなに大げさな反応をされると俺もやりづらいな。
「レーナ、そんなに緊張するな。いつも通りでいいのだぞ」
「は、はい、すみません!」
再びレーナが勢いよく頭を下げる。これは……レーナの奴、少しテンパってるのか? まずいな、こんな状態では緊張するなと言っても逆効果かもしれん。
俺は方針を転換することにした。
「とりあえず、街の方にでも行くとするか。どこか行きたいところはあるか?」
「い、いえ! どこでも大丈夫です!」
「そうか。それでは適当に歩くとしよう」
「は、はい」
うなずくレーナの手を取ると、レーナは顔を真っ赤にしてきゃっ、と声を上げた。
俺が少し強く手を握ると、レーナの手がみるみる熱をもつ。かわいい奴だ。
彼女の手をしっかり握りながら、俺は街へと歩き出した。
王都の中心街に出た俺たちは、とりあえずいくつか店を見てまわる。
何店か入ったころには、レーナもだいぶいつもの調子に戻ってきた。
ころあいを見はからって、俺たちはおしゃれな喫茶店へ入ることにした。
窓際の席へと座り、店員に茶と菓子を注文する。
「レーナ、足の方は大丈夫か?」
俺はレーナに声をかけた。いつもの調子で歩いていては、レーナの足ではついてくるのも大変だろうからな。俺もある程度気はつかっていたはずだが。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
笑顔でレーナが答える。よかった、今までのデートはサラやジャネットといった怪物級の女ばかりだったからな。あいつらと同じように扱っては、レーナの身体が悲鳴を上げてしまう。
「リョータさんはやさしいんですね。そんなところまで気づかっていただいて」
「いや、気にするな」
俺はむしろあいつらを基準にしてレーナに無理をさせていないか心配でならなかったからな。
店員が持ってきた茶を口にしながら、俺はしみじみとつぶやいた。
「こうしてお前と二人きりで出歩くのははじめてだな」
「そ、そうですね」
顔を真っ赤にするレーナ。
「俺はつねづねお前に礼をしたいと思っていたのだ。ちょうどよかった」
「お、お礼だなんて……。私の方こそ、リョータさんには返し切れないほどの恩があります……」
「では、悪いがその恩を返し切る日はさらに遠くなりそうだ」
「え?」
「冗談だ。とにかく、お前に渡したいものがいくつかあるので受け取ってもらえないか?」
そう言うと、俺はふところからペンダントを取り出した。例のどら息子が俺に献上したものだ。
「まずはつまらんものですまんが、これをもらってくれ。もらいものだが、ものはいいそうだ」
「え、えええ!? この装飾、ラビーリャのものですよね!?」
「ああ。俺の知人がラビーリャまで行って取り寄せた一級品だと聞いている」
「そ、そんなもの、私がいただくわけにはいきません!」
ちっ、あのどら息子め。何が喜んでもらえるだ。思い切り拒否ってるじゃないか。あいつ、今度会ったらただじゃおかんぞ。
「すまん、気にいらなかったか?」
少し不安に駆られて聞くと、レーナが慌てて首を横に振った。
「と、とんでもありません! でも、こんな高価で素晴らしいもの、私がいただくわけには……」
「何だ、そんなことか。気にするな、俺のほんの気持ちだ。ぜひお前にもらってほしいのだが」
俺がそう言うと、レーナは頬を赤らめながらうなずいた。
「そ、それでは……ありがたく頂戴いたします。ありがとうございます」
ほっ、よかった。受け取ってもらえなかったら、この後の本命が渡しにくくなるところだった。
「では、ここからが本題だ。マクストンのみやげを持ってきたから受け取ってくれ」
「ほ……他にもあるんですか?」
「もちろんだ。ここからが本当に大事なものだ」
驚くレーナに、俺はうなずきながらドレスと小物の包みを手渡す。
「マクストンのドレスはこちらよりも華やかなつくりなのだそうだ。今度のパーティーではぜひ着てもらいたい」
「あ、ありがとうございます……。でも、こんなにいろいろいただいては私……」
「気にするな。俺がお前にもらってほしいから準備したのだ。お返しなど考えなくていいぞ」
「そ、そういうわけには……」
「そうだな、どうしてもお返しがしたいのなら、この後うまい菓子の店でも紹介してもらおうか。カナにみやげを買ってやらないといけないからな」
「それくらいならお安いご用です! 私にまかせてください!」
「うむ、期待しているぞ」
どうやらレーナの調子も戻ってきたようだ。この調子で楽しんでもらうとしよう。
その後サラに頼まれていたみやげもレーナに手渡すと、俺たちは店を出てカナへのみやげを探してまわり、夕食を共にした後に別れた。レーナも楽しそうで何よりだ。
レーナとはギルド以外でなかなかいっしょになる機会がないからな。これだけ喜んでもらえるのなら、今度またデートに誘ってやることにしよう。