表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/227

183 レーナとのデート



 王都に戻って数日後、俺は約束していたレーナとのデートをすることにした。


 いつも待ち合わせに使っている公園の水場あたりへ向かうと、清楚な白いワンピース姿の女が俺を待っていた。


「レーナ」


「あ、こ、こんにちは、リョータさん」


 俺の声にびくりと身体をすくませると、レーナが顔を赤くして返事した。


「待たせたか?」


「い、いえ! 私も、今来たばかりでしたから!」


 ぷるぷると首を横に振りながら返答する。


 俺も少し早めに家を出たというのに、それより早くからここで待っていたとは。どうやら俺とのデートを心待ちにしていたようだな。顔にもそれがはっきりと出ている。


 それはいいのだが、どうも動きが固い。会話もどうにも固いな。


 とりあえず、褒めるか。


「レーナ、今日はワンピースか。よく似合っているぞ」


「そ、そうですか!? あ、ありがとうございます!」


 慌ててレーナが頭を下げる。いや、そんなに大げさな反応をされると俺もやりづらいな。


「レーナ、そんなに緊張するな。いつも通りでいいのだぞ」


「は、はい、すみません!」


 再びレーナが勢いよく頭を下げる。これは……レーナの奴、少しテンパってるのか? まずいな、こんな状態では緊張するなと言っても逆効果かもしれん。


 俺は方針を転換することにした。


「とりあえず、街の方にでも行くとするか。どこか行きたいところはあるか?」


「い、いえ! どこでも大丈夫です!」


「そうか。それでは適当に歩くとしよう」


「は、はい」


 うなずくレーナの手を取ると、レーナは顔を真っ赤にしてきゃっ、と声を上げた。


 俺が少し強く手を握ると、レーナの手がみるみる熱をもつ。かわいい奴だ。


 彼女の手をしっかり握りながら、俺は街へと歩き出した。







 王都の中心街に出た俺たちは、とりあえずいくつか店を見てまわる。


 何店か入ったころには、レーナもだいぶいつもの調子に戻ってきた。



 ころあいを見はからって、俺たちはおしゃれな喫茶店へ入ることにした。


 窓際の席へと座り、店員に茶と菓子を注文する。


「レーナ、足の方は大丈夫か?」


 俺はレーナに声をかけた。いつもの調子で歩いていては、レーナの足ではついてくるのも大変だろうからな。俺もある程度気はつかっていたはずだが。


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 笑顔でレーナが答える。よかった、今までのデートはサラやジャネットといった怪物級の女ばかりだったからな。あいつらと同じように扱っては、レーナの身体が悲鳴を上げてしまう。


「リョータさんはやさしいんですね。そんなところまで気づかっていただいて」


「いや、気にするな」


 俺はむしろあいつらを基準にしてレーナに無理をさせていないか心配でならなかったからな。



 店員が持ってきた茶を口にしながら、俺はしみじみとつぶやいた。


「こうしてお前と二人きりで出歩くのははじめてだな」


「そ、そうですね」


 顔を真っ赤にするレーナ。


「俺はつねづねお前に礼をしたいと思っていたのだ。ちょうどよかった」


「お、お礼だなんて……。私の方こそ、リョータさんには返し切れないほどの恩があります……」


「では、悪いがその恩を返し切る日はさらに遠くなりそうだ」


「え?」


「冗談だ。とにかく、お前に渡したいものがいくつかあるので受け取ってもらえないか?」


 そう言うと、俺はふところからペンダントを取り出した。例のどら息子が俺に献上したものだ。


「まずはつまらんものですまんが、これをもらってくれ。もらいものだが、ものはいいそうだ」


「え、えええ!? この装飾、ラビーリャのものですよね!?」


「ああ。俺の知人がラビーリャまで行って取り寄せた一級品だと聞いている」


「そ、そんなもの、私がいただくわけにはいきません!」


 ちっ、あのどら息子め。何が喜んでもらえるだ。思い切り拒否ってるじゃないか。あいつ、今度会ったらただじゃおかんぞ。


「すまん、気にいらなかったか?」


 少し不安に駆られて聞くと、レーナが慌てて首を横に振った。


「と、とんでもありません! でも、こんな高価で素晴らしいもの、私がいただくわけには……」


「何だ、そんなことか。気にするな、俺のほんの気持ちだ。ぜひお前にもらってほしいのだが」


 俺がそう言うと、レーナは頬を赤らめながらうなずいた。


「そ、それでは……ありがたく頂戴いたします。ありがとうございます」


 ほっ、よかった。受け取ってもらえなかったら、この後の本命が渡しにくくなるところだった。


「では、ここからが本題だ。マクストンのみやげを持ってきたから受け取ってくれ」


「ほ……他にもあるんですか?」


「もちろんだ。ここからが本当に大事なものだ」


 驚くレーナに、俺はうなずきながらドレスと小物の包みを手渡す。


「マクストンのドレスはこちらよりも華やかなつくりなのだそうだ。今度のパーティーではぜひ着てもらいたい」


「あ、ありがとうございます……。でも、こんなにいろいろいただいては私……」


「気にするな。俺がお前にもらってほしいから準備したのだ。お返しなど考えなくていいぞ」


「そ、そういうわけには……」


「そうだな、どうしてもお返しがしたいのなら、この後うまい菓子の店でも紹介してもらおうか。カナにみやげを買ってやらないといけないからな」


「それくらいならお安いご用です! 私にまかせてください!」


「うむ、期待しているぞ」


 どうやらレーナの調子も戻ってきたようだ。この調子で楽しんでもらうとしよう。



 その後サラに頼まれていたみやげもレーナに手渡すと、俺たちは店を出てカナへのみやげを探してまわり、夕食を共にした後に別れた。レーナも楽しそうで何よりだ。


 レーナとはギルド以外でなかなかいっしょになる機会がないからな。これだけ喜んでもらえるのなら、今度またデートに誘ってやることにしよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←もし『転移魔法』がおもしろかったなら、ここをクリックしてくれると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ