181 わが家へ
数日間の馬車の旅の末、俺たちはミルネの王都へと帰ってきた。
大通りを進み、家の近くで俺たちは馬車から降ろしてもらう。
馬車から降りてきたサラに、俺は声をかけた。
「いい旅だった。誘ってくれて礼を言うぞ」
「こちらこそ、お前たちのおかげで道中退屈せずにすんだ。レーナへのみやげ、頼んだぞ」
「ああ。ジャネットにはお前が直接渡すんだな?」
「そのつもりだ。それではまたな。カナもさよならだ」
「さよなら」
カナのあいさつに、サラが笑みを返す。
それからサラが中へと戻ると、再び馬車の扉が閉じ、一行は城へと帰っていった。
家に帰ると、ジャネットが出迎えてくれた。
「おかえり、リョータ、カナ」
「ただいま、ジャネット」
「ただいま」
「どうだい、旅行は楽しかったかい?」
玄関でジャネットがあれこれと聞いてくる。
というか、ジャネットに出迎えられるというのが新鮮だな。いつもはいっしょに行動してるからな。
居間に入ると、ジャネットがそわそわしながら聞いてきた。
「ねえリョータ、その、あたしに何か渡すものはないのかい?」
「わかっている。ほら、お前の分のみやげだ」
荷物から包みを取り出すと、ジャネットへと手渡す。
「マクストンのドレスはこちらよりも華やかなのだそうだ」
「そうなのかい!? リョータ、ありがとう!」
受け取ると、ジャネットは包みに頬ずりし始める。おいおい、そんなに嬉しいのか。
「もうひとつ、これは耳飾りだな。一見シンプルだが、よく見ると意匠がこらされているのだそうだ」
「ホント!? それもいいのかい? リョータ、好き!」
今度は俺に抱きついてくる。まったく、現金な奴だ。
「カナ、お前も渡してあげなさい」
「ジャネット、はい」
「おや、カナもあたしにおみやげかい?」
中腰になったジャネットに、カナが包みを渡す。
「開けてもいいかい?」
「うん」
こくりとうなずくカナに、ジャネットも包みを開ける。
中に入っていたのは、指の部分がない黒い手袋だった。なかなかに中二っぽいデザインだ。
「へえ、変わった手袋だねえ」
「大きい剣を持つ時に、楽」
「ははあ、そこまで気遣ってくれるのかい? ありがと、大事に使わせてもらうよ」
そう笑うと、カナの頭をわしゃわしゃとなでる。おい、あまり乱暴にするな。カナの頭が悪くなったらどうする。
しかしあの手袋、ちょっといいな。むしろ俺がカナからもらいたかったぞ。
「ちなみに、サラもお前にみやげを買ってきたそうだ。今度城に来た時に渡すと言っていた」
「へえ! お姫様のおみやげだ、大層すごいものなんだろうねえ」
「お前、サラは遊びで行ったんじゃないんだぞ?」
「わかってるよ、冗談だって、冗談」
そうへらへら笑いながら、俺の肩をばしばしと叩く。いったいどこまでが冗談なんだか。
というか、肩を叩くな。お前の力で叩かれると、正直かなり痛いぞ。
それからしばらくして、夕食の時間になる。久々のジャネットの料理に、俺たちは舌鼓を打つ。
「どうだい、あっちではうまいもんは食えたかい?」
「ああ、あちらは燻製技術が発達していてな。何でもかんでも燻製にしていたぞ」
「へえ、そりゃ酒に合いそうだねえ」
あいかわらずこいつは酒が基準なんだな。
「カナ、あっちの飯はうまかったかい?」
「くんせい、おいしい」
「そうかい、腹いっぱい食ってきたかい?」
「うん」
カナがこくりとうなずく。正直、カナは俺の一生分くらいの燻製を食っていた気がする。
「でも、ジャネットの料理、おいしい」
「こいつ、かわいいことを言ってくれるね! ほら、まだまだあるからどんどん食いな!」
嬉しそうに、ジャネットがカナの皿にどかどか料理を盛りつける。なるほど、こうやって料理を褒めると女は喜ぶのだな。カナの奴、天然のたらしにならなければいいのだが。
と、ジャネットが俺ににやにやと笑みを向けてきた。何だ急に、気色悪いな。
「リョータ、あんたサラとの仲はちったぁ進んだのかい?」
「何だそれは? 別にいつも通りだ」
「はあ? 何だい、それじゃ何であたしが遠慮したのかわからないじゃないのさ。いいよ、今度サラと会った時に聞くことにするよ」
「余計なことを聞くな」
「それよりあんた、次はレーナの番だからね。ちゃんとみやげは買ってきたかい?」
「当たり前だ。お前は世話焼きババアか」
「ババアとは何さ、ババアとは。あんたとは大して年変わんないだろ?」
年上はみんなババアだ、と言いかけて、さすがに自重する。危ない危ない、勢いでつい失言をかましてしまうところだった。
「ジャネット、ばばあ?」
「いや、違う違う。今のは冗談だから気にするな」
「ほら、カナが変な言葉おぼえちゃったじゃないのさ。気をつけてよ」
「わ、わかっている」
くそっ、なぜ俺が叱られなきゃいけないんだ。しかし子供はすぐマネするからな、発言には気をつけなければ。
まあ何だ、この感じも久しぶりだな。やはりジャネットがいないと何かもの足りない。
その後も、俺たちは久しぶりに3人での食事を楽しんだ。