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177 姫騎士の依頼


 カナとの買いものをすませたその夜、俺たちは仕事を終えたサラと共に料理店へと足を運んでいた。


「ここは以前王族として訪ねた時に招待してもらった店だ。なかなかにいい店だったぞ」


「そうか、それは楽しみだな」


 俺が面倒を見てやっているミルネの料理店と比べても遜色ない雰囲気だ。いや、内装だけならこちらの方が上か。


 まあ、食文化に関しては各国の食材が集まるミルネが最高峰だと聞いてはいるがな。だが、昼に食った燻製はなかなかうまかったな。


 俺は店員に渡されたメニューに目を通す。各テーブルにわざわざ皮紙のメニュー一覧を用意するあたり、さすがは高級店だ。


「カナ、何か食いたいものはあるか?」


「くんせい食べたい」


「ははは、すっかり気に入ったみたいだな。おい、ではここのものをすべてもらおうか」


「すべて、でございますか?」


 店員が驚いて俺に確認する。そうだ、と答えると、店員はかしこまりました、と下がっていった。


「おい、リョータ、そんなに頼んで大丈夫なのか?」


 サラも少し慌てたように言う。


「どうした、このくらいお前も普通にやるんじゃないのか? 姫騎士様は意外と庶民派なのだな」


「いや、今日は私たち三人しかいないのだぞ? リセに手伝ってもらうにしても多すぎはしないか?」


「何、カナは育ちざかりだからな。あのくらいはぺろりとたいらげるさ」


「そ、そうなのか?」


 驚いた顔でサラがカナを見る。


「くんせい、好き」


「ほら、カナもこう言っているだろう?」


「う、うむ……」


 やや不安そうな顔ながら、サラも一応は納得したようだ。


「ところでサラ、俺たちと食事していてもいいのか? マクストンの王族連中の相手もしなくてはいけないんじゃないのか?」


「ああ、それなら心配ない。今回はあくまで役人の一人として来ているからな」


「そうか」


 店員が注いだ食前酒をあおりながら、料理の到着を待つ。




 やがて、テーブルに料理が並べられる。


 湯気を上げる肉や、うまそうに香る燻製を前に食事のあいさつをすると、さっそくカナが皿に手をのばしはじめた。


 別にがっついているわけでもないのに、カナの目の前の料理がみるみる減っていく。


「本当によく食べるのだな、カナは」


「ああ、食べものは大切にと日ごろから言いきかせているからな。食べ残すことはないぞ」


「何というか、お前たちには驚かされてばかりだな」


「まあ、俺もはじめは驚いたからな。さて、俺たちも食うとするか」


 サラにそううながすと、俺も皿へと手をのばす。うむ、やはりうまいな、この国の燻製は。


「協議の方は順調なのか?」


「ああ。あちらはとにかく早くこちらに獣人たちを引き渡したいようでな。話自体はほぼ固まりつつある」


「どのくらいいるんだ? 獣人の数は」


「およそ300人ほどだそうだ」


「300? いきなりその人数はちょっと多くないか?」


「問題ない。そのくらいは織りこみ済みだ」


「さすがだな」


 そう褒めると、サラは少し遠慮気味に声をかけてきた。


「ところで、少し話があるのだがいいか?」


「ああ、どうした?」


「うむ。実はだな、あちらの王族がお前の力をぜひ見てみたいと言っているのだ」


「ほう?」


「そこで、もしよければなのだが、あちらで用意する相手と少し剣を交えてやってくれないか? いや、もし気が向かないなら断ってもらって構わんが……」


「ちょうどいい、俺も少し身体がなまっていたところだ。タダ飯をもらい続けるのも何だしな。そのくらいのことなら喜んで引き受けよう」


「ほ、本当か? すまんな、面倒をかけて」


「気にするな、お前と俺の仲だろう」


「そ、そうだな……」


 少し照れたようにサラが目をふせる。


「で、それはいつやることになるんだ?」


「そうだな、明日話を持っていって、試合はあさってになるだろう」


「わかった。そいつは倒してしまっていいんだな?」


「ああ、まだ相手は決まってないが、あくまでお前の力を見るだけだからな。もちろん、ほどほどのところでやめてもらっても構わん。お前も手の内をあまりさらけ出したくはないだろう?」


「それはそうなのだが、いかんせんカナがいるのでな。これ以上カナの前で負けるわけにはいかん」


「そうか、それではその辺はお前にまかせる」


 ほっとしたような表情で、サラが手元の燻製を手に取る。


「それにしても、何だって王族が一男爵にすぎない俺なんぞの力を見たがるんだ?」


「お前の活躍が他国にも知れ渡っているということさ。何せこの若さ、この速さでSクラス、男爵にまで上りつめたのだからな。そう無視できるものではないさ。まあ、あのリチャードあたりが気になっているというのもあるだろうがな」


「なるほどな。まあいい、それではマクストンの者どもに俺の力を見せつけてやるとするさ」


 そう笑うと、カナに手元の燻製チーズをすすめる。


「ほらカナ、これも食え。うまいぞ」


「うん」


「本当によく食べるのだな、カナは……」


 なかば呆然としながら、サラがみるみる減っていくカナの皿を見つめる。しかし何だ、カナの手は止まるどころかスピードが衰える気配すら見せないな。



 その後も俺たちはゆっくりと食事を楽しんだ。




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