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176 カナとの買いもの



 マクストンの王都に着いた翌日、俺はカナといっしょに街へ買いものに出かけた。


 俺はカナの手を握りながら王都の大通りを二人で歩く。


「お前たち、今日は二人で街でも見てまわるといい」


 今朝、サラは仕事へと向かう前にそう言っていた。彼女はこれからマクストン側との協議が続くようだが、俺たちは特にやることもないのでお言葉に甘えることにしたのだ。


 お気に入りのかぼちゃ帽子をかぶり、茶色のチョッキと半パンツの名探偵ルックで歩くカナは俺から見てもかわいらしい。保護者として鼻が高いぞ。


 それにしても、さすがに道行く通行人たちのファンションセンスはミルネより一段上だな。聞いたところによると、彼らはまず何より服に金をかけるという話だったが、どうやら本当のようだ。


 まあ、こちらの世界ではそもそも服は結構な高級品ではあるのだが。


 そうやって歩いていると、この町に来た時にサラが馬車から指さしていた衣料品店が目に入った。


「カナ、あの店に寄ろうか。お前もドレスがほしいだろう?」


「ドレス」


 カナがこくりとうなずく。よしよし、それじゃあ店に入るとしよう。ジャネットとレーナへのみやげも買っていかないといけないしな。



 店内に入ると、高い天井とあちこちに展示されているドレスが目を引く。マネキンではなくかかしのようなものにドレスを着せているのだが、思えばこういう演出もミルネでは見かけなかったな。


「カナ、好きなものを選んできなさい」


「うん」


 うなずくと、カナはとてとてと子供向けのドレス売り場へと歩いていく。俺もみやげをあれこれと探し始めた。


 さすがファッションの本場、ドレスの種類も豊富だな。中には胸元が大きく開いて背中にほとんど布がない扇情的なドレスもある。レーナに似合いそうだが、さすがにみやげでこれは怒られるというか、センスや常識を疑われるかもしれん。これは後の楽しみということにしておこう。


 とりあえず二人へのドレスと普段着を選ぶと、カナのところへと向かう。


「カナ、いいのはあったか?」


「うん」


 うなずいて、カナが目の前のドレスを指さす。


 ほう、なかなかかわいらしいドレスじゃないか。ピンクのドレスに白いフリルがひらひらしている。これもカナにはよく似合いそうだ。


「これがいいのか?」


「うん」


「よしよし、じゃあ買ってやろう。他にほしいものはないのか?」


「じゃあ、あれも」


「そうかそうか。ほしいものがあるなら遠慮なく言うんだぞ」


 今日は口うるさいジャネットもいないからな。いくらでも買ってやるぞ。



 それからしばらく、俺はカナにいろいろと買ってやった。







「さて、次はどこに行こうか」


 店を出た俺たちは、再び手をつないで大通りを歩き出す。


 ぶらぶらと歩いていると、カナの足がぴたりと止まった。


「ほう、装飾品か」


 カナの視線の先には、店頭にかざられている様々な装飾品の数々があった。

 ガラス越しにディスプレイされているそれらはサラが言っていた通りなかなかファンタジックなデザインだ。カナのような子供は特に興味をひかれるかもしれない。


「どれ、少し見てみるか」


「うん」


 うなずくと、カナは俺の手を引っぱって店へ入ろうとする。よしよし、それじゃ入ろうか。



 店内に入ると、いかにも高そうなシャンデリアなどが天井からぶら下げられている。ガラスのショーケースもずらりと並び、宝石やアクセサリーが展示されている。


 俺はさっきと同じようにカナに好きなものを選ばせ、その間にみやげを買っていく。そうだな、せっかくだしサラの分も買っていこう。微妙にサイフの中身が不安だから、少し金貨を転移させておくか。


 いくつか品物をみつくろって店員にガラスのケースから出してもらうと、俺はカナのところに行った。


「カナ、ほしいものはあったか」


「うん」


 うなずくカナの視線の先には、赤い宝石が埋めこまれたペアリングがあった。ほう、宝石を埋めこんだ部分が蝶のようなデザインでかわいらしいな。


 む? だがペアリングとはどういうことだ? ま、まさか、カナの奴、学校でどこぞの男に熱でもあげていたのか? 


 み、認めん! 認めんぞ! この俺より弱い男になど、カナは絶対渡さんぞ!


「リョータ、これほしい」


 自分の考えに没頭していた俺を、カナがそでをくいくいと引っぱってせかす。我に返った俺は、息を大きく吸いこんで落ち着くと店員を呼んでそれを取らせた。お、俺の思いすごしだよな。


 会計をすませ、カナにペアリングを渡す。


 カナは嬉しそうに小さい方のリングを指にはめた。うむ、よく似合っているぞ。問題は大きい方のリングだが……。


 すると、カナはそのリングを俺に向かって突き出してきた。む、何だ? そっちは別にいらなかったのか?


 と、カナが口を開いた。


「リョータ、あげる」


「あげる?」


 こくりとうなずくカナ。


「も、もしかして、このリングを俺にくれると言うのか?」


「うん。カナ、リョータ、いっしょ」


 表情を崩さずにカナが言う。


 お、俺にくれるのか? マジで? うおおぉ! カナ、お前は俺とおそろいのがほしくてこれを選んだのか!


 俺は嬉しさのあまり、店内にもかかわらず叫び声を上げた。


「おおお! カナ! お前からのプレゼント、俺は一生大事にするぞ!」


「買ったの、リョータ」


「そんなことはどうでもいい! お前にやったのだから、これはお前のものだ!」


 さっそく俺もはめてみる。


「うむ、これでおそろいだ。似合うな、実に似合っているぞ」


「リョータ、うれしい?」


「もちろんだとも。ありがとう、カナ」


 俺はいつも以上に強くカナの頭をなでる。帽子の上からわしゃわしゃやると、店の外に出た俺は大声で言った。


「さあ、次の店だ! カナ、どこに行きたい?」


「カナ、くんせい食べたい」


「うむ、いくらでも食わせてやるぞ。よし、では行くぞ!」



 テンションが上がりきった俺は、カナの手を取って大通りをずいずいと進むのだった。




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