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175 姫騎士を狙う男たち



 俺たちを乗せた馬車はマクストン王都の大通りを途中で曲がり、中心部から少し離れた閑静なエリアへと入る。


 そこに、俺たちが滞在する予定の建物はあった。なかなかに凝ったデザインの建物だ。明治期に建てられた洋風の建物を彷彿とさせるものがある。


 建物の敷地に入ると、建物の玄関付近に一際立派な馬車がひとつ止まっていた。その周囲には厳重な警備が敷かれている。誰か来ているのだろうか。


 玄関前には何人かの人間が並んでいる。彼らが俺たちを案内してくれるのだろう。俺たちも馬車から降りて建物の方へ向かう。


 入り口の付近までやってくると、止まっていた立派な馬車から一人の男が降りてきた。ずいぶんと豪奢な衣装を身にまとっているが、身分の高い者なのだろうか。年は俺やサラより少し上のように見える。


 男が警護の者をしたがえてこちらへとやってくると、リセをはじめこちらの人間が皆胸に手を当てて一礼する。やはり身分の高い者のようだ。


 男はサラの前に立つと、気やすい調子で声をかけてきた。


「やあ、サラ。久しぶりだね」


「これはリチャード殿下、お久しぶりにございます」


 サラも周りの者たちと同じように一礼する。「殿下」ということは、あの男は王族か。


 やや丸い身体つきの男が肩をすくめる。


「サラ、僕と君の仲じゃないか。いつも通りリチャードと呼んでくれよ」


「今回私は王女ではなく外交使節としてまいりましたので」


 サラの反応がやや冷たいな。別に嫌いというわけではなさそうだが、面倒な奴につかまったという感じだ。


 サラが俺に男を紹介する。


「リョータ、こちらはマクストン王国第二王子、リチャード殿下だ。殿下、こちらはリョータ・フォン・クロノゲート男爵、今回は私の護衛のために連れてまいりました」


「そうか、君がクロノゲート男爵か。うわさには聞いているよ。何でも破竹の勢いで出世しているそうだね」


「それはどうも」


 俺は軽くうなずく。


 それから、リチャードは再びサラに向かって話しかけた。


「ところでサラ、今回はどこかで少し時間を取れるかい? よければ食事でも……」


「リチャード、私は仕事で来ているのだ。お前には悪いが、それはまたの機会にさせていただきたい」


 サラはいつもの口調に戻ってリチャードの申し出をきっぱりと断る。こんなところでそんな話をするな、という感じだな。さては俺に誤解されたくないと思ったか。


「では殿下、我々はこれで。陛下にもよろしくお伝えください」


「ああ、それじゃ今度は僕につき合ってね」


 もう一度一礼すると、サラは建物の方へと歩いていく。俺も軽く会釈すると、カナの手を取りながらサラの後ろに続いた。




 建物に入ると、俺はサラに聞いた。


「一応確認するが、さっきの男はお前のいいなずけだったりするのか?」


「違う。あちらがどう思っているかは知らんが、私にその気はない」


 強く否定するあたり、やはり俺を意識しているのか。かわいい奴だ。


 サラが続ける。


「まあ、リチャードに限らず私に目をつけている者は多いようだがな。他国の王族はもちろん、大貴族の中にも私に粉をかけてくる者は多いのだぞ」


「何だと? もしかして、ミルネの貴族の中にもいたりするのか?」


 もしあのどら息子がちょっかい出しやがったら、絶対殺してやる。


「もちろんいるぞ」


「何だと!?」


 俺は思わず声を荒げた。興奮で少ししゃべりが早くなる。


「誰だそいつは!? 俺の知っている奴なのか!?」


「お、落ち着け。何人かいるが、その筆頭はデュカス公爵の息子だな。王党派貴族の首魁なだけに、公も私と息子をくっつけたくてしょうがないらしい」


「そんなことは認めん! お前を出世の道具にするなどもってのほかだ!」


 お前は俺のものなのだからな、そんな勝手は許さん。


「だいたい貴族の子弟ごときがお前とつり合うわけがないのだ。分をわきまえろと……」


 そこまで言って、俺はサラが顔を赤くしていることに気づいた。


 俺も少し冷静に戻り、彼女に聞いてみる。


「お前、顔が赤いぞ。どうした?」


「い、いや、そんなことはないぞ? ちょっとお前の言葉が意外でな……」


「意外?」


「その、私のことであんなに取り乱すとは思わなかったということだ」


「あ……」


 先ほどの自分を振り返り、自分の顔が赤くなっていくのを感じる。ヤバい、これではまるで俺がサラにやきもちをやいているみたいではないか。


「ち、違う、違うぞ! 俺は単に貴族の子弟ではお前につり合わんということを言いたかっただけだ! それ以外何もない!」


「ふうん……」


 そう一言もらして、サラはすたすたと歩いていく。な、何だ、今の態度は!? 変な勘違いするな!



 目の前を歩くサラの足取りは、どこか軽やかに感じられた。





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