174 マクストンの王都へ
王都を出発してから4日目、俺たちは予定通りマクストンの王都へと到着した。
何というか、ミルネの王都とはずいぶんと印象が違うな。ミルネを中世ヨーロッパ風の街並みにたとえるとすれば、こちらは中世ヨーロッパ風のアミューズメント施設といったところか。もっとも、本当の中世ヨーロッパの街並みはこんな立派なものではないだろうがな。
何というか、おしゃれで生活感の薄い街並みだ。メルヘンチックと言えばわかりやすいかもしれない。
カナもいたくお気に召したようだ。
「おうち、かわいい」
「ほう、気に入ったのか?」
「カナも、すみたい」
「そうかそうか。それじゃあいずれ、この町ごとお前にプレゼントしてやろうか」
それを聞いて、サラが苦笑する。
「おいおいリョータ、まさかとは思うが魔王の次は世界に喧嘩を売る気か? 我が国も敵に回すと言うのなら、さすがに見過ごすわけにはいかんぞ」
「何、別にミルネを敵に回す必要はないさ。魔王が倒れれば、次は国同士の争いだろう? そのころにはお前が宰相、俺が軍務卿だ。俺たちで世界を統一するなり何なりすればいい」
「宰相と軍務卿とは、またずいぶんと大きく出たな。だが、お前はそういう面倒ごとはまっぴらだったのではないか?」
「そうだな、やはり気楽に盗賊にでもなるか。サラ、お前もいっしょにどうだ? 王族はしがらみも多いだろう、盗賊は自由でいいぞ」
「お前もジャネットのようなことを言うのだな。そうだな、参考程度に考えておくとしよう」
お互いそんな冗談を交わしていると、王都の繁華街に入った。
大通りの両側には、衣料品店や装飾品店など、おしゃれな店が軒を連ねている。雑多な店が入り混じるミルネを新宿とすれば、ここは青山や表参道に近いイメージだな。もっとも、どれも実際に行ったことはないのだが。
サラが窓の外を見ながら言う。
「宝石などの装飾品だとラビーリャが有名だが、マクストンも負けてはいない。ラビーリャが精緻で華美なのに対し、マクストンの装飾品はシンプルながら幻想的なデザインだな」
「ほう」
「衣類や建築となるとマクストンの独壇場だ。これは国力の差がはっきり出るのだろう。ほら、街の人間も華やかな衣装に身を包んでいるだろう?」
「そうだな」
「プレゼントを買ってやるにはうってつけの国だ。ジャネットはもちろんだが、レーナにも何か買っていってやるといい。きっと喜ぶぞ」
「ああ、もちろんそのつもりだ。帰ったらデートの約束もあるしな。その時にでも……」
「デ、デート!?」
突然サラが大声を上げる。おお、びっくりした。お前がそんな声を出すとは珍しいな。
自分でもびっくりしたのか、恥ずかしさをごまかすようにせき払いする。
「ごほん! いや何だ、別にお前が誰とデートしようとおかしくないな。この前はジャネットとも約束していたしな。そうか、レーナにはサラがよろしく言っていたと伝えておいてくれ」
「ああ、わかった。またそのうちパーティーにつき合ってやってくれ」
「うむ、もちろんだ」
うなずくと、サラは俺のひざの上のカナにほほえんだ。
「カナ、お前は何を買ってもらうつもりなんだ?」
「カナ、くんせい食べる」
「ああ、そうだったな」
苦笑すると、サラは窓の外の服屋を指さした。
「そろそろ新しい服も買ってもらったらどうだ? あの店など、かわいらしいドレスも多そうだぞ」
「ドレス」
その言葉にカナが反応する。そういえば、カナはお姫様ルックにも目がなかったな。
後ろへと遠ざかっていくその店を見つめながら、カナが俺のそでを引く。
「リョータ、ドレス、ドレス」
「わかったわかった、ちゃんと買ってやる」
「まったく、お前はカナにねだられると断ろうともしないな」
「む。言っておくが、俺はお前やジャネットにもねだられれば何でも買ってやるぞ。今度のデートの時には存分にねだるがいい」
「こ、今度のデート!? う、うむ、機会があればそうさせてもらおう」
顔を赤くしてサラがそっぽを向く。本当にいちいちかわいい奴だな。
「だが、まずはレーナとのデートに専念してやってくれ。前も言ったかもしれんが、何というか、あいつはどうも私に遠慮しているふしがあるからな」
「そんなことはないと思うが、レーナは奥手だからな。ジャネットなどはあきれるほど俺にねだってくるというのに、あいつはこちらからすすめても断りかねん」
「そうだな、そこはお前がどれだけうまく女性をリードできるか、腕の見せどころというわけだ」
こいつ、他人のこととなるととたんに冷静に分析してくるな。
「それより、俺たちはこれからどこに向かうんだ?」
「ああ、外交使節のための屋敷に向かっている。我々はそこに滞在する予定だ」
「そうか」
メルヘンな街並みをながめながら、俺たちは馬車に揺られてその屋敷へと向かった。