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173 空中戦



 空飛ぶ魔族を相手に、俺は空を見上げながら、さてどうしたものかと考えこむ。


 まあ、あいつらの真上にでも転移すればすぐに片づくのだが。それは少々味気ないし、あまり露骨に転移するとサラあたりにあやしまれそうだ。


 上空から小癪にも魔弾を放ってくる魔族ども。それをなぎ払いながら、俺はサラに聞いてみた。


「サラ、お前はどうする? 連中は下りてくるつもりはなさそうだが」


 その問いに、愚問とばかりにサラは薄く笑った。


「ふっ、そうだな。私ならこうするな」


 そう言ったかと思うと、サラは馬車の方へと駆け出した。え、嘘だろ、まさか逃げ出す気か?


 もちろんそんなはずはなく、近くの馬車を駆け上がったサラはその屋根を蹴って空へと飛んだ。


 サラの身体が、空高く飛翔する。あっという間に旋回する魔族の目線まで到達すると、サラは剣を一閃して目の前の魔族をばっさりと斬り捨てた。


 俺たちが唖然として見守る中、サラは魔族の死体とともに落下してくる。


 そして、何事もなかったかのように軽やかに着地した。ほぼ同時に、魔族の死骸が地面に激突して砂煙が上がる。


 涼しい顔で戻ってくるサラに、俺はあきれた顔を見せた。


「お前……あんなに高く飛べるのか」


「何、日ごろの鍛錬のたまものだ」


 いや、あんなの100年修行したって無理だから。ホントにこいつ人間かよ。


 空を見上げたサラが苦笑する。


「だがしかし、どうせやるなら大将を倒すべきだったな。おかげで連中も少し警戒しているようだ」


「そのようだな」


 今のサラの攻撃に恐れをなしたのか、連中は馬車や並木から少し離れたところへと移動してしまった。そこからしつこく魔弾を放ってくる。


 サラが肩をすくめる。


「あそこまで離れられると、さすがの私もお手上げだ。これ以上近づいてこないのなら、いっそこのまま出発するか?」


「まあ、そういうわけにもいかんだろう。奴らは偵察だと言っていたしな。であれば、生かして帰すわけにもいくまい」


「そうだな。だがどうする? お前の奥義ならこの距離でも届くか?」


 まあ、俺の宝剣群乱ならすぐに片づくだろうな。どこからでも発射できるから、距離など特に関係ないしな。


 だが、あの技だとカナにいまいちアピールできなそうだ。俺が剣を振るって敵を倒すさまを見せる方が、カナにはわかりやすく俺の勇ましさを伝えることができるだろう。


 そう思った俺は、サラ同様に馬車へと向かって走り出した。馬車を駆け上がると、思い切り屋根を蹴りつけて空へと飛び上がる。


 だが、悲しいかな俺のジャンプ力ではサラの7割くらいしか飛べない。敵までの距離はまだ10メートル以上はある。


 魔族の隊長が楽しそうに笑い出した。ここが勝機とばかりに叫ぶ。


「ひゃははは! 馬鹿が、ここまで届くわけがなかろう! 空に飛んでしまえば、後はただのいいまとだ! お前たち、撃ち落とせ!」


「と、思うだろう?」


 勝ち誇る魔族どもに、俺はにやりと笑った。


 次の瞬間、俺の足元に直径80cmほどの大きな石が出現する。俺はその石を蹴りつけ、一気に魔族との距離を詰めた。


 魔族どもが驚きの声を上げる。


「な、何ぃっ!?」


「足場がないのならば、作ればいいだけのことだ」


 一言つぶやくと、俺は剣を横一文字に振るった。目の前の魔族が悲鳴を上げる間もなく絶息する。


 それから俺は、さらにもうひとつ足元に石を出現させ、滑空する魔族どもの頭上を取る。もちろん、石は俺がしかるべき場所から転移させたものだ。


「どうだ? 自分より上を取られた気分は」


 そう問いながら、俺は落下の勢いにまかせて剣を振るう。


 頭上を取られた魔族どもは、なすすべもなく俺の斬撃の餌食となり、足場にした石とともに地上へと落ちていった。


「ひ、ひいいいっ!」


 ただ一匹生き残った魔族の隊長が、くるりと方向転換してこの場から離れようとする。ふん、逃がすと思うか。


 俺は立て続けに石を3つ転移し、それを足場がわりに次々と蹴りつけていく。


 あっという間に魔族に追いつくと、俺はその背中に斬りつけた。


「ぎゃあああああ!」


 ひねりのない断末魔とともに、魔族は地上へと落下していく。念のため俺もいっしょに地上へと下り、手足がおかしな方向にねじれている魔族の心臓を一突きしておいた。




 馬車まで戻ると、サラが感心したようにうなずく。


「なるほど、石を足場にして移動する、か……。あの石もお前が創り出したものなのか?」


「まあ、そんなところだ。直接敵にぶつけてやってもよかったのだが、お前にも見せておこうと思ってな。あれならお前の剣技にも組みこめるだろう?」


「そうだな、コツさえつかめば私にもできそうだ。これでますます戦いの幅が広がるな」


 嬉しそうにサラが笑う。まあ、こいつのことだ、コツをつかめば俺より遥かにエグい戦い方を編み出すことだろう。




 そして、俺は講評をいただくべく姫の下へと急ぐ。


 馬車の中では、カナが悠然と菓子を口にしていた。こ、こいつ、保護者の俺が言うのも何だが、とんでもない大物だな……。


 もしかして、菓子に夢中で俺の戦いなど見ていなかったのではないか? そんな不安に駆られながらも、俺は馬車を見上げておそるおそる中に座るカナに話しかける。


「カ、カナ、俺の戦いは見ててくれたか?」


「うん」


 よ、よかった。ちゃんと見ていてくれていたか。


「ど、どうだった? 俺はちゃんと戦えていたか?」


「うん」


 カナは一言こくりとうなずく。そ、それはいいのだが、どうにも反応が薄いな……。視覚的効果は十分だと思ったんだが、あまりお気に召さなかったのか?


 少し不安になる俺に、カナはすっと焼き菓子をひとつ俺に差し出した。


「あげる」


「お、俺にくれるのか?」


「うん。リョータ、がんばった」


 お、おお……! 俺のがんばりを認めてくれるのか……! ありがとうカナ、もちろんいただくぞ、いただくとも。


 カナが上からひとつ、ふたつとお菓子を差し出すと、俺はうやうやしくそれを受け取った。そのままそれを口にする。うまい、うまいぞ。カナに認められて、本当によかった。


 俺が感激しながら焼き菓子を食っていると、後ろからサラがひとつせき払いをした。


「こほん。そろそろ私も馬車の中に戻りたいのだが……」


「ああ、すまんな。サラ、お前も食うか? カナのほうびの焼き菓子だ」


「そうだな、それでは私もひとついただくとしようか」


 なぜかあきれた顔で苦笑すると、サラも俺から焼き菓子を受け取って口にした。




 こうして俺たちは無事魔族を殲滅し、マクストン王国へと入ることができた。




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