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168 ジャネットからのプレゼント



 や、やっぱりこの女は危険だ……。


 思い出した。以前俺はジャネットと王都を巡って、たった一日で金貨が一枚飛んでいったのだった。こいつ、そういうところは一切遠慮しないからな。


 そして、今日はあの時の比じゃないくらいにでかい買いものをしている。まあ、俺もジャネットもあのころとは収入がけた違いだしな。


「リョータ、この首飾りなんてどうだい? 結構いいと思うんだけど」


「ああ、似合っているぞ」


「じゃあこれもお願いするよ! 今度お城に呼ばれた時にでもつけてみようかねえ」


 俺はもう何も言わずに買ってやることにしている。まあ、今なら金貨10枚どころか100枚飛ぼうとどうということもないしな。


 というわけで、目下の俺の悩みはどんどんふくらんでいくジャネットの荷物だ。アクセサリー程度ならいいが、衣類を買いこまれると持つのが大変だ。


 というか、もうすでに俺の両手は荷物でいっぱいなのだが。実はひそかに荷物の一部を家に転移しているのは内緒だ。


 支払いをすませると、ジャネットは俺の腕を引っぱってきた。


「さあリョータ、次行くよ、次!」


 くそ、こんなところで負けられるか。今日はとことんつき合ってやる。






「こうしていると、何だか前に王都をまわった時のことを思いだすねえ」


「ああ、俺はずっとそれを思い出していたところだ」


 一通り買いものを終えたのか、俺を引っぱりまわすのをやめたジャネットがそんなことをつぶやく。俺もさすがにもう荷物を持つのは限界だしな。


「でもさ、あたしらがこうして二人きりで街を歩くのも久しぶりじゃないかい?」


「うん? ああ、言われてみればそうかもしれんな」


 こいつとは毎日顔を合わせてるし、家でもよく二人きりになっていたから気づかなかったが。考えてみれば、出かける時はいつもカナと一緒だったしな。


「ていうか、ホントにあの時以来なんじゃないのかい? こんなに買いものした記憶もないしさ」


「ふむ……どうだろうな」


 まあ、そうだとしたら今回のデートはちょうどよかったな。こいつには何だかんだでいろいろ世話になっているのだ。存分に楽しんでもらおうか。


「ジャネット、他にどこか行きたいところはないのか」


「う~ん、買いものは全部終わったしねえ……」


 よかった、もう荷物は増えずにすみそうだ。


 と、ジャネットが急に顔を赤くしてもじもじしながらつぶやいた。


「だ、だったらさ、リョータ……」


「うん?」


「あそこ行こうよ、西の公園。若いカップルに人気なんだってさ」


 ああ、あそこか。前にサラと一緒に行ったが、女はああいうのに憧れるのだな。


「わかった。では行くか」


「うん!」


 子供のように返事をすると、俺たちは西の公園へと向かった。







「こ、こりゃまた、何とも照れくさい場所だねえ……」


「ま、まあな」


 あいかわらずカップルだらけで居心地の悪い場所だ。日も傾きかけ、少しまわりが赤くなりかけている。


 時間が時間だからか、カップルたちもずいぶんと盛り上がっているようだ。見ればベンチでやたらといちゃつく連中もいる。


「うわ、ちょいと、こんなとこでなにやってんのさ……」


「どうした、ジャネ……うおっ!?」


 ジャネットが見ている方に目を向けた俺は思わず叫び声を上げた。見れば木の下で一組のカップルが情熱的なキスをかましているところだった。おいおい、盛り上がり過ぎだろ。こんなところで何してる。


「あ、あたしらも座ろうか……」


「そ、そうだな」


 うなずくと、俺たちは花壇のそばのベンチに座った。しかしあれを見てあんな反応をするとは、ジャネットも思ったよりうぶなのだな。


 サラの時とは違い、ベンチに座ったジャネットは身体をぴったりと俺に寄せてくる。サラの奴、ベンチから半分落ちそうな座り方をしてたからな。


「あたしたちもあんな風に見えてるのかね」


「それはそうだろう。ここはそういう場所なのだろうしな」


「そ、そうだよね……」


 一呼吸おくと、ジャネットはつぶやいた。


「あんたとも、結構長いつき合いだよね」


「そうだな。俺はお前とのつき合いが一番長いしな」


「そ、そうなのかい?」


「ああ」


 それから、ジャネットはしみじみといった感じで話し始めた。


「思い出すねえ、あんたと初めて会った時のこと。魔族を片づけたかと思ったら、Bクラスの口ききをしてくれ、だもんねえ」


「ああ、そうだったな」


「で、Aクラスの手続きをする時に王都に行ったんだよね。レーナと会ったのもあの時か」


「そうだ。その後サラと会ったのだったな」


「何だかずいぶん昔のことのように思えるけど、まだ一年もたってないんだよね」


「そうだな。もうそろそろといったところか」


「そうだね……」


 言葉少なになり、しばらく二人で座っていると、ジャネットが再び口を開いた。


「そうだ、あたしリョータにプレゼントがあるんだよ。受け取ってくれるかい?」


「ああ。ありがたくいただこう」


 俺は今日貢ぎっぱなしだったしな。


「それじゃあさ、ちょっと目ぇつぶってもらえるかい?」


「ああ。これでいいか?」


 俺は静かに目をつむる。


 と、左頬に何やら暖かく柔らかい感触が伝わってきた。


 って、んんん!? こ、これはまさか……?


 慌てて目を開けて振り向くと、そこにはうっすらと目を開けたジャネットの顔があった。


「ちょっと、目を開けるのが早いよ。照れるじゃないのさ」


「ジャ、ジャネット、まさかお前……」


「ちゃ、ちゃんと唇の方はサラに残しておいたからね。文句ないだろ?」


 や、やっぱりか! お前、こんなところでキスとか! 


 口をパクパクさせる俺に、ジャネットが笑う。


「おやおや、そんなに喜んでもらえたのかい? あたしも思い切ったかいがあったよ」


「いやお前、こんなところでキスとか! 少しは場所を考えろ!」


「何言ってんのさ、ここはそういうところだろ? それとも、やっぱり口でぶちゅ~ってした方がよかったかい?」


 言葉とは裏腹に、ジャネットの顔は赤い。こいつ、案外乙女なんだな。今のセリフも、どっちかというと照れ隠しっぽいしな。


「さーて、それじゃそろそろ帰ろうか! カナも腹すかせて待ってるだろうしさ」


 そう言いながら立ち上がると、ジャネットは笑顔で俺にほほえんだ。


「今日はありがと、リョータ」


「どういたしまして」


 喜んでもらえてよかったよ。俺も一日つき合ったかいがあった。



 ……せっかくなら、俺の荷物も持ってほしかったが。





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