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166 女剣士の意地



 サラの奴、思い切ったことをしてくれたねえ……。


 あたしは昼食を終え、ちょっと用事、と言って家を出たところだった。目的地まで歩きながら、我がライバルのことに思いを巡らせる。


 まさかリョータを旅に誘うとはね。カナへのプレゼントだと言われれば、そりゃリョータは行くに決まってるよ。


 最近、ずいぶんと積極的になっちゃいないかい? あのお姫様。この前もデートに誘ってたし、いつからあんなにデレデレになったんだろうねえ。


 そりゃ前からリョータにベタぼれだったのはわかってたけどさあ。……ああ、剣をプレゼントされた時あたりかな? あの時の喜びようったらありゃしなかったもんねえ。


 あの二人、悔しいけどはたから見てても相性は抜群だからね。サラなんて、リョータのやることなすこと全部深い意味があるって思ってる節があるしさ。あたしゃさすがにそこまで素直にはなれないんだよ。


 ほら、リョータってよくあの年頃にありがちなアレな発言をするけどさ、サラも同い年だからか素直にカッコいいって思っちまってるみたいなんだよねえ……。リョータが名字を決めた時もその説明を目ぇキラキラさせて聞いてたし、あの年頃ってのはやっぱり神とかそういうのが好きなんだろうか。


 まあ、別にサラとリョータがなかよくなるのは構わないんだけどさ。リョータはサラを正妻に迎えるつもりだろうし。あたしゃ妾で全然構わないんだけど、やっぱり女としてサラに負けたくはないわけさ。


 姫様と張り合っても勝ち目がないのはわかってても、それでもただやられるわけにはいかないからね。さすがに旅行についていくほどヤボじゃないけどさ、あたしはその前にリョータとたっぷりデートさせてもらうとするよ。




 そんなことを考えながら歩いていると、目的の場所へと到着する。王都のギルドだ。


 あたしは中に入ると、受付の方へと向かった。お目当ての顔を見つけて手を振ると、向こうもこちらに気づく。


「やあ、レーナ」


「ジャネットさん、こんにちは。今日はクエストを探しにきたんですか?」


 そう言ってレーナが笑う。この子もホント、できた娘さんだねえ。嫌味ってもんがない。


「それどころじゃないよ、今日はあんたに大事な情報を持ってきたんだ」


「大事な情報、ですか?」


 首をかしげるレーナに近づくと、あたしはそっと耳打ちした。


「リョータの奴、今度サラと一緒にマクストンまで旅行に行くんだよ」


「リョータさんが……姫騎士様と、りょ、りょりょ、旅行ですかぁ!?」


 ちょっと、声が大きいよ! ああもう、みんなこっちを見てるじゃないか。


 しーっ、と人さし指を立てると、レーナも慌てて声をひそめた。


「で、でも、それがどうして大事な情報なんですか? 私がとやかく口をはさむような話ではありませんよね?」


 はあ、これだからこの子は。あたしより年が上だってのに、どうしてそこでそうなっちまうのかねえ。


 未来の妾仲間ってわけでもないけれど、レーナは何というかほっとけないんだよねえ。この子の場合、リョータとサラがくっつくとなったら自分は身を引くとか言い出しそうだしねえ。遠慮しないで、みんなでリョータにかわいがってもらえばいいのにさ。


 そんなわけで、あたしはレーナの背中を押しにかかる。


「そんなこと言ってる場合じゃないよ! リョータはニブいからね、あんたがグイッといかないと、リョータは自分に興味がないのかって思ってそれで終わっちまうよ? あたしはあさってデートする約束をもう取りつけたからね、あんたもそのくらいやっときなよ」


「それくらいって、デ、デートですか!?」


「他に何があるんだい! いいかい、あさってのデートの時にリョータを連れてきてあげるから、ちゃんとデートの約束するんだよ!」


「そ、そんな、困ります!」


「困る、じゃないよ! あんたはなかなかリョータと一緒にいる機会がないんだから、もっと積極的にいかないとホントに愛想つかされちまうよ!」


「うっ……。や、やっぱりそうでしょうか……」


 愛想をつかされる、と聞いてレーナが黙りこむ。


「ああ、ごめんごめん。そんなことはないよ、リョータのことだ、あんたのことは大事に思ってるに違いないさ。だからそんなにしょげないでおくれよ」


「は、はい……」


 うなずくレーナに、あたしは明るく言った。


「そうだ! あんたにはもう一つ大事な頼みがあるんだよ!」


「頼み、ですか?」


「そうそう。この後か明日時間はないかい? ほら、あたしデートがあるだろ? だからあんたに女らしさをいろいろと習いたいのさ」


「え、ええ、私が教えられるかはわかりませんが……」


「あんたにムリなら誰に頼んだってムリだよ! ほら、あたしはリョータの好みとかいろいろ教えてあげるからさ、いいだろ?」


「わかりました、そういうことでしたら……いえ、別にリョータさんのことを聞きたいからじゃないですよ!?」


「素直じゃないねえ。それじゃ、よろしく頼んだよ」


「はい、それでは夕方にまた来てください。私も仕事が終わりますから」


「ありがとさん。それじゃ頼んだよ」


 そう言い残して、あたしはギルドを出た。


 さあて、あたしもあさってのデートのために気合入れていかないとね。こちとらサラに負けるわけにはいかないんだ、ちゃんと準備しておかなくちゃ。




 そんな決意も新たに、あたしはデートコースの下見をすべく町へと繰り出していった。





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