161 三大貴族
凱旋パレードから離れた俺たちは、こみ合う大通りから一本入った裏路地に入り、王城へ先回りして待つことにした。
城に着くと、すっかり顔見知りになった衛兵に城門の内側へと入れてもらう。
それから待つことしばし。城門が開くと、遠征軍が中へと入ってきた。
先頭にいたサラとオスカーが俺たちに気づく。
「お、お前たち、なぜここに!?」
「おや、リョータ殿。こちらにいらしていましたか」
「サラ、オスカー、長旅ご苦労だったな」
オスカーと、なぜかあたふたするサラにあいさつする。
「シモンは居残りか?」
「さよう。ピネリからの増援を加え、あちらには150名ほどを配置してあります」
「なるほど。貴族の私兵や冒険者がいっしょに帰ってきたのか」
「そうですな。中にはあちらに残る冒険者もおりましたが」
オスカーもすっかり俺に対する口調が変わったな。まあ、今では俺も領地持ちの男爵、貴族としての格が違ってしまっているしな。
「サラ、長旅で疲れたろう」
「え、あ、ああ。いや、別にそうでもないぞ」
「あちらでの仕事は終わったのか」
「終わったというか、とりあえず一区切りついたというところだな。この後も考えなければならないことは山ほどある」
妙にうろたえるサラだったが、仕事の話をふると一転していつもの調子に戻った。
「そうだ、お前たち、せっかく来たのだから少し茶につき合え」
「茶? 構わんが、お前はこれから忙しいのではないのか?」
「母上たちにあいさつしなければならんが、仕事の報告はオスカーにまかせても大丈夫だ。オスカー、頼めるか?」
「はい。こちらはおまかせください」
「というわけだ。お前たち、先にいつもの部屋で待っていてくれ」
「ああ、わかった」
うなずくと、俺たちは城の者に案内されていつもの部屋に向かった。
もはや我が家のような安らぎさえ感じる城の貴賓室で、しばしくつろぐ。
「まったく、サラたちはいいものを食べてるねえ」
テーブルの上の菓子をつまみながらジャネットが言う。うちに置いてる菓子もそれなりにいいものなのだがな。変なものなどカナに食わせられん。
そのカナはと言えば、その菓子がたいそうお気に召したらしく、さっきから黙々と口の中に放りこんでいる。そんなに気に入ったのなら、後でサラにどこで手に入るか聞いておかないとな。
しばらく待っていると、サラが部屋にやってきた。いつものように、リセもいっしょだ。
「すまない、待たせたな」
「こちらこそ、出迎えに来たのに何だかすまんな」
「気にするな、お前たちを呼んだのは私だ」
そう言って俺の向かいに座ると、長い脚を組んで菓子を一つまみする。
「帰還早々大変そうだな」
「そうだな、やることが山積みだ。この後はあちらの地理、人口、住居、農業生産、その他もろもろを関係各所に報告しなければならんし、どのくらいの規模の兵を置くべきかも考えないとならないしな」
「帰ってきたばかりなんだ、あまり無理はするなよ」
「わかっているさ」
メイドが持ってきた茶をいただきながら、俺たちはしばらくの間他愛もない話で談笑した。
そうしていると、サラがため息まじりにつぶやいた。
「だが、やはり大変なのは新総督選びだろうな」
「そうなのか」
「ああ。今回も貴族派があれこれと言ってくるだろうからな。すんなりとはいくまい」
菓子をかじりながらサラが続ける。
「特に派閥の領袖である三大貴族は手強い。そのうちの一つでも切り崩すことができれば話は別なのだが」
ほう、貴族にも派閥があるのだな。当然と言えば当然か。
「その三大貴族というのは誰なんだ?」
「お、リョータ、闇討ちでもする気かい? 手伝うよ」
「馬鹿を言うな。とりあえず聞いておきたいだけだ」
俺の問いに、サラが答える。
「三大貴族というのは、貴族派のゼダン公爵、シュタイン侯爵、マウアー伯爵のことだ。それぞれが派閥の貴族たちに強い影響力を持っている」
「なるほどな」
うなずいた俺の頭にふと何かが引っかかる。それが何であるのか気づくのにさほど時間はかからなかった。
ああ、シュタイン侯爵か。あのどら息子の家じゃないか。
今じゃ奴からもらった剣も倉庫に入れっぱなしだが、奴はパシリとして定期的に使ってやっている。そうか、あいつの家か。
悩ましそうに話すサラに、俺は言った。
「大丈夫だ、それならおそらくうまくいく」
「そうは言うがな、彼らにはメンツというものもある。話してわかる相手というわけでもないのだぞ」
「安心しろ、お前ならできるさ」
そんな中身のない励ましの声を送りながら、俺は考えをめぐらせる。
どうやら今回は少しはサラの役に立てそうだな。さて、それでは帰ったらさっそく準備をするとするか。
お茶を終え、我が家へと帰った俺は一人書斎にこもってあれこれと考え始めるのだった。
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