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160 凱旋パレード

あけましておめでとうございます。


今年もどうぞよろしくお願いします。


「リョータ、リョータ!」


 俺がカナと居間でくつろいでいると、ジャネットがどたどたと走りこんできた。何だ、うるさい奴だな。今日はせっかくカナが学校休みだから水入らずですごしているというのに。


 そんな俺にはお構いなしに、ジャネットが大声でまくしたてる。


「祭りだよ、祭り! 何だか大通りに人が集まってさ!」


「祭り?」


「これから遠征軍が帰ってくるってさ! それで見物客が集まってるんだよ!」


「ほう」


 うなずきながら俺は立ち上がった。


「と言うことは、サラが帰ってくるのか?」


「だからあれだけ集まってるんじゃないのかい? 早く行かないと、人ごみで見えなくなっちまうよ!」


「そうだな、それじゃ俺たちも迎えに行くか」


「さっすがリョータ! そう来なくっちゃ!」


「カナも行くか?」


「うん」


 カナもこくりとうなずく。


 よく考えてみればサラがいるとは限らんのだが、とりあえず着替えると、俺たちは大通りへと向かった。






 俺たちが大通りにつくころには、すでに通りは人でごった返していた。いつの間に準備したのか、出店もいくつも並んでいる。


 それにしても大した熱気だ。

 まあ、魔族に奪われた領土を奪還して、その凱旋パレードだからな。見物人の方も気分が高揚しているのだろう。


「ひやぁ、こりゃまたずいぶんと集まったもんだねえ」


 人だかりを見たジャネットがあきれたように言う。


「こんなに集まるなんて、みんなそんなに見たいもんなのかねえ」


「そう言うお前だってこうして集まってるじゃないか」


「それを言うならリョータだってそうじゃないか。他人事みたいに言わないでおくれよ」


 いや、お前が行こうって言うから来たんじゃないか。

 まあいい。


「でも、これじゃあたしらはともかく、カナは見えないんじゃないのかい?」


「まあ、連中は馬で来るのだから大丈夫だろう。もし見えなければ俺が肩車してやるさ」


 カナの頭を帽子ごしになでながら俺は王都の入り口側へと目を移す。


「まだ来ないのかねえ」


「来たら歓声の一つくらい上がるだろう。気長に待つか」


「じゃあさ、ちょいとそこで焼き鳥買ってきていいかい? あんたも食うだろ?」


「ああ、じゃあ2本頼む」


「カナもいるかい?」


「うん。4本」


「カナは育ちざかりだねえ。じゃあ待ってなよ」


 そう言って、ジャネットはさっさと出店の方へ駆け出していく。まったく、俺たちはサラを出迎えに来てるんだぞ。




 すぐに戻ってきたジャネットの手には、焼き鳥とはあきらかに違うものが握られていた。


「おいジャネット、それは何だ」


「何だって、見ればわかるだろ? 酒だよ」


「酒だよ、じゃない。俺は焼き鳥を買ってきてくれと言ったはずだが?」


「はいはい、ちゃんと買ってあるって。ほら。酒はいらないのかい?」


「そうは言ってない」


 ジャネットから果物をくり抜いたような入れものを受け取ると、その場でくいっとあおる。露天の安酒だが、まあこの場にはこのくらいがちょうどいいだろう。


「ほらよ、カナ。あんたの分だ」


「ありがとう」


「おい、カナにも飲ませる気か」


「そんなわけないだろ? こっちはただのりんご水だよ」


「そうか、ならいい」


 両手で入れものを持ってぐびぐび飲むカナを見つめながら、俺は焼き鳥を一口かじる。





 そんな調子で一杯やっていると、にわかに向こう側から歓声が上がった。やっと来たか。


 道の向こうから、徐々に騎士たちの姿が見えてくる。馬に乗っているから、この人だかりでもちゃんと見える。これならカナも見えるだろう。


 先頭にはサラとオスカーが並んでいる。シモンがいないところを見ると、奴は居残りか。


 二人の後には、サラの遊撃隊とオスカーの金獅子騎士団、そして冒険者たちが続く。見たところ200人弱くらいのようだから、全員が戻ってきたわけではないようだ。


 それにしても、サラは絵になる女だ。ああして笑顔で群衆に手を振っていると、あいつが姫騎士と呼ばれて人気になるのもうなずける。


 そのサラと、偶然目があう。俺に気づいたのか、サラは少し驚いたような顔をすると再びさっきと同じように笑顔で手を振った。


「ちょいと、何デレッとしてるのさ」


「べ、別にデレッとなどしていない」


「カナも見てるんだから、少しは気をつけておくれよ」


「わ、わかっている」


 せき払いすると、視線を大通りへと戻した。


「しかしこの人だかりでは、サラに声をかけるどころではないな」


「そうだねえ。ねえリョータ、あんた結構えらいんだろ? 前の連中に俺はリョータだ、道を開けろとか言ってよけさせたりできないのかい?」


「馬鹿言うな」


 誰がやるかそんなこと、恥ずかしい。


「この分だとゆっくり帰るようだし、俺たちは先に城に行って待つか」


「ああ、それがいいね。じゃあちょいと待ってておくれよ」


「待つ?」


 俺が首をかしげると、ジャネットがウィンクした。


「サラへのみやげを買ってくるよ」


「買ってくるって……まさか出店でか?」


「当たり前だろ? じゃ行ってくるよ」


 そう言うと、ジャネットはさっさとあちらへ行ってしまった。あいつ、どんだけ祭りが好きなんだよ。




 サラが食うのかはわからないが、俺たちはみやげの焼き鳥やら飲みものやらを仕入れると、パレードから離れて一足先に城へと向かった。




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