16 盗賊の根城へ
転移した先は、荒涼とした谷の岩肌にぽっかりと開いた洞穴だった。連中はこの中でもぐらのように暮らしているのか。さて、害獣どもの駆除を始めるとしよう。
「な、何だテメェ!」
さっそく見張りの二人に気づかれた。一人が穴の中へと駆けこんでいく。おっと、そうはさせるか。
奥へ報告に行こうと駆け出した見張りの目の前に俺は転移した。そいつの目が、驚きに丸くなる。
「お前は邪魔だ」
一言つぶやくと、俺はそいつの首をさっさとはねる。こいつらは極悪な犯罪者どもなのだ。遠慮など無用であろう。
「テ、テメェ……!」
そう言って襲いかかってくる見張りに、俺は一瞬で間合いを詰めるとためらいなくその左足首を叩き斬る。
絶叫を上げようとする男の口の中に剣を突き入れ、ひとまず黙らせる。
「声を出したら、殺すぞ?」
しゃべることができないので、情けなく目で訴えかけてくる男。うむ、いいだろう。俺は男の口から剣を引き抜く。
「この洞窟の大まかな地図を描け。お前らのボスがいるところもな」
「そ、そうしたら助けてくれるのか?」
「誰が口を聞いてもいいと言った?」
そう言って剣をチラつかせると、男は震え上がって黙々と地図を描き始めた。いい心がけだ。
ほどなくして、男が大まかな地図を描き終えた。俺が男に質問していく。
「聞かれたことだけ答えろ。まず、お前の仲間は全部で何人いるんだ?」
「へい、ざっと二十人と少しでさあ」
「正確に言え。二十と何人だ?」
「ひぃ、オレは数字が数えれねえんでさぁ、堪忍してくだせぇ!」
ちっ、使えない奴だ。まあいい。
「ボスはどこにいる?」
「へい、この時間はこの部屋でさらってきた娘とよろしくしてまさぁ」
「他の連中は?」
「この部屋で女の順番待ちでさぁ」
クズが。やはり皆殺ししかないな。
「お前らの中で一番強いのはボスか?」
「ボスは二番目でさぁ。今は用心棒の先生が一番強いですぜ」
「用心棒?」
「何でも凄腕の剣士で、この前もSクラスの冒険者をばっさりやったんでさぁ」
ほう、そういうことか。そいつさえ潰せば俺の勝ちだな。
「その先生とやらはどこにいる?」
「へえ、今ならここで仲間相手に稽古をつけているんじゃねえですかね」
そう言って、やや広めの部屋を指さす。ふん、武術バカか。与しやすい相手だ。
まあ、だいたい聞きたいことは聞き出せたか。後は、あれだけだな。
「この洞窟、隠し通路はどこにある?」
「へ? そんなモンは……」
間抜けな顔を見せる男の手に、俺は剣を振り下ろす。男の小指と薬指が飛んだ。悲鳴を上げそうな男の口に、俺は剣を押しこんで黙らせる。
「俺は急いでいる。さっさと教えろ」
目でわかったと訴えると、男が地図を指さしていく。そうだ、初めからそうすればいい。
男の口から剣を引き抜くと、俺は男に確認する。
「それで全部だな?」
「へえ」
「次はひじから斬るぞ?」
「ホ、ホントでさぁ! それで全部、ウソじゃねぇ!」
ふむ、その顔はどうやら本当のようだな。ボスしか知らない抜け道もありそうだが、まあそれは別にいいだろう。
「こ、これで見逃してくれるんすよね……?」
安堵の顔で、男が俺を見上げてくる。そんな男に、俺は思い切り冷淡な態度で言った。
「いつ、誰がそんなことを言った?」
「なっ……?」
「お前たちは、今まで殺してきた連中の命乞いなど聞く耳持たなかったのだろう? まして勝手な思いこみで助かると勘違いされてもな」
「待って、たすけ……」
「己の罪を悔いろ」
声を上げようとした男の首をさくっとはねる。死体は邪魔なので脇に寄せておいた。
さてと、それでは下ごしらえだ。まずは万一のために逃走経路を全てふさいでおく。
とりあえず目の前の入り口をふさぐべく一度外に出て、周りに落ちている石やら岩やらをじゃんじゃん転移させる。
しっかり穴がふさがったところで、俺は穴の内側に転移、先ほどの地図にしたがって隠し通路も埋めていく。どうやらあの男は正直に話していたようだ。言った通りの場所に隠し通路はあった。せまい穴なので、周りに落ちている石や土で問題なく埋まる。
途中一人に見つかったが、そいつが声を出す間もなくさっさと斬り伏せた。何の問題もない。
三ヶ所の隠し通路を埋め終えたところで、いよいよ本番へと移る。まずはボスのところへ転移だ。
今はお楽しみの真っ最中と言っていたか。くくく、楽しみに待っていろよ。