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159 ジャネットの必殺技開発

 魔界から帰還した翌日。俺が書斎で物理の計算練習をしていると、ガンガンと扉を叩く音が聞こえた。


「リョータ、いいかい?」


「ああ、入れ」


 それ以上ドアを叩かれてもうるさいしな。


 俺が返事するより早くジャネットはドアを開け、俺に抱きついてきた。


「何だ、やめろ。今計算中なんだ」


「そんなの後にしてさ、ちょっとあたしの話を聞いておくれよ」


 そんなのとは何だ、そんなのとは。これは人類の叡智の結晶だぞ。


 俺の都合などお構いなしに、ジャネットが話を続ける。


「実はあたしも必殺技を作ろうと思っててさあ」


「必殺技?」


「そう、必殺技。ほら、サラがすごい技もってるだろ? 奥義なんとかなんとかってやつ。あたしもああいうのがほしいんだよ」


 いや、いらないから。これ以上お前らに強くなられるとかマジカンベンだから。俺は普通にハーレムを作りたいんだ、お前らの尻になんか敷かれたくない。


 というか、奥義なんとかなんとかって何だよ。


 それが俺の本音ではあるのだが、まあ、そんなことを言って突っぱねるわけにもいかない。男は甲斐性というしな。第一、もしここで断ってジャネットがカナにチクりでもしたら、カナの俺に対するイメージが地に堕ちかねない。


 というわけで、俺はしぶしぶながら相談にのってやることにした。


「わかったわかった。お前はどんな必殺技を作りたいんだ? 言ってみろ」


「そうさね、せっかくこんな立派な剣を持ってるんだからさ、やっぱりこれを生かした技にしたいねえ」


 そう言いながら、ジャネットが鞘から竜殺しの剣を引き抜く。おい、ここは書斎だぞ。ぶっそうなものを出すんじゃない。


「ほら、この剣って結構デカいし重いだろ? だからさ、必殺技はパワーを生かした技にしたいんだよね」


「パワー?」


 ジャネットの言葉に、俺は首をかしげた。


「お前は疾風の女剣士なんだろう? どうしてパワーなんだ?」


「いや、あたしも今までずっとそう思ってやってきたんだけどさ。実はあたしは速さよりパワーの方が向いてるんじゃないかって気がしてきたんだよね」


「ほう」


「ほら、サラの技ってさ、速さもパワーもすごいだろ? あたしもマネしてみたんだけど、速さじゃどうしても追いつかなくてさ。それで、少し訓練してたんだよ、パワーをつけるために」


 そう笑いながら、ジャネットが力こぶを作ってみせる。細い腕だが、筋肉がしっかりとついている。アスリートの腕のようでなかなかに美しい。


「そしたら何だか結構力がついちゃってさあ。あんたも見たろ? あの化け物の攻撃を受け止めるの。どうもこっちの方がのびそうなんだよね」


 ああ、だからあんな化け物じみた戦い方ができたのか。いや、お前はそのままでもういいよ。


 だが、真面目な話、スピードからパワーに方向転換というのは意外と悪くないのかもしれん。こいつも超一流の冒険者だ。自分の速さの限界が見えているのだろう。今まで手つかずだったパワーの方がのびしろがあるということはありうるかもしれない。


「うむ、それも悪くないかもしれんな。それで、技のイメージはあったりするのか?」


「そうかい? やっぱりあんたもそう思うだろ? 技もちょっと考えてあるんだよ、ほら、ちょいと見ておくれ」


「わっ、ば、馬鹿、こんなところで剣を振るな!」


 嬉しそうに剣を構えて振り下ろそうとするジャネットを、俺は慌てて止める。馬鹿野郎、こんなところでお前の力で剣なんか振ったら、風圧で書が全部散らばってしまうだろうが。


「技なら表で見てやる、ほら、さっさと出ていけ」


「ちぇっ、何だい、別にいいじゃないのさ」


 よくねえよ。


 ぶーたれるジャネットを部屋から追い出すと、俺たちは表の庭へと出た。


 さっそくジャネットが剣を構える。


「とりあえず、こんな感じでやってみようかと思ってるんだけど」


「力を生かすなら、両手で握った方がいいんじゃないか?」


「あ、そうだね。いつも片手で持ってたから気づかなかったよ」


 両手で剣を握ると、ジャネットは腰を落としたりジャンプしたりといろんな方法で剣を振るう。この中のどれかをベースに必殺技を編み出すことになるだろう。


 それにしても、今さらだが今まで片手であの剣を振るってたのかよあいつ。特に訓練していないのにそのパワーって、やっぱりそっちの方が才能があるのかもしれんな。


 それに、ジャネットがパワータイプにシフトしてくれるとバランスもよくなる。サラはどちらも兼ね備えているが、必殺技はどちらかと言えばスピード型だろうしな。どんな奴でもぶった斬れる力技をジャネットが身につけてくれれば安心だ。

 それこそ、この前の攻城戦のような戦いでもジャネットの必殺技で城門を破壊することができるかもしれない。


 とりあえず、特訓につき合うのは口だけにしたいところだな。剣で相手するのはごめんだ。弾き飛ばされて家の壁に突き刺さる、みたいなマンガ的演出の犠牲になどなりたくない。

 そんなところをカナに見られたら死にたくなるしな。


 そんなことを考えながら、俺はしばらくジャネットの新技開発につき合ってやった。




今年はこれが最後の投稿となります。


それでは皆さん、よいお年を。

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