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158 総督とは

「皆さん、お待たせしました。お食事ができましたよ」


 家に帰った俺たちは、カナとレーナの出迎えを受け、これから食事をとろうと食堂で席に着いているところだった。そこに、レーナがあれこれと食事を持ってくる。


 いつもは仕事帰りでも厨房に入って料理を作り出すジャネットも、今回ばかりはレーナにまかせることにしたようだ。さすがのジャネットも、今回ばかりは長旅で疲れてしまったのだろう。


 食事のあいさつをすませると、目の前の料理に手をのばす。ほう、ローストレッグか。これだけ上等な肉を食うのも久しぶりだ。


 ローストレッグと言えば、今ごろあちらはクリスマスが近いかもしれんな。さすがにこちらでクリスマスケーキやオードブルを用意することはできそうにないが、いずれは再現してみたいものだ。カナに腹いっぱいケーキを食わせてやりたいしな。


 それはさておき、俺はレーナに頭を下げる。


「レーナ、長い間カナをまかせてすまなかったな」


「いえ、そんな! 私も空いた時間におじゃましているだけですし、カナちゃんも素直ですから全然苦労なんてしませんでした!」


「そうかそうか、えらいぞカナ」


 そう言って、俺は隣に座るカナの頭をなでる。うん、やはりこれがないと落ち着かない。


「ちょいとリョータ、そんなにデレデレしないでおくれよ。それに食事中なんだから、カナの頭いじっちゃダメだろ?」


「わ、わかっている」


 くそっ、こいつは小姑か何かか? ま、まあ、カナのしつけのためにもここは素直に言うことを聞くか。


「でも、これでずいぶんと魔族の領域が遠くなったんですよね? 今王国のあちこちでラファーネ様たちが魔族を討伐していると聞いていますし、私たちが魔族の脅威から解放される日も近そうですね」


「そうだな、平和が何よりだ」


 というか、今王国ではそんなことをやっていたのか。まあ、俺も魔族どもが消えて仕事がなくなる前に地位を固めておかないとな。


「でも、新しい町はどんな町になるんでしょうね」


「さっきリョータが言ってたよ。あの町には軍人のおっさんが集まるから飲み屋街ができるってさ」


「まあ、飲み屋街ですか」


「だから、それはまだわからんと言っているだろう」


 俺たちのやりとりにくすくす笑うと、レーナが続けた。


「でも、どんな町になるかは誰が総督様になるかによりますよね。サラ様のようなお方がなってくださると町も明るくなると思うのですが」


「そうだな、俺もサラが適任だと思うんだが、どうもあいつはあまりなる気がないらしい。他に候補がいるようなことを言っていたな」


「オスカーやシモンのダンナみたいに話のわかる人がいいねえ。あの人らなら飲み屋街にも反対しないだろうし」


 お前の論点は結局そこかよ。


「あいつみたいなのはダメだね。ほら、ギルドにいるチョビひげ。あれはダメダメ、いちいちうるさくてさあ、いつもいばりちらしてるくせに、お偉いさんにはヘコヘコしてさ。あんなのが総督になっちゃもうおしまいだよ」


 ジャネットがギルドの職員を例にあげて熱弁をふるう。ああ、そう言えばいたな、そんな奴。


 よほど気に食わない奴なのか、ジャネットの声にさらに熱がこもる。


「だいたいさあ、あいつはじめあたしらのことすごい邪険にしてたのに、サラとなかよしだって知ったとたんに『これはこれはリョータ様、ジャネット様』だよ? いったいどんな神経してんのさ、ってね」


「それは、きっといろいろあるんですよ」


「レーナもあいつにいじめられたりしてないかい? 言ってやっていいんだからね、私はリョータやサラの友だちだって。あいつ、すぐにしっぽ振ってくるからさ。ね、リョータ?」


「レーナが困っているのなら、サラはともかく俺の名前を出すのは一向にかまわない。まあ、レーナが俺やサラと仲がいいことくらいはもうとっくに知っているとは思うが」


「ええ、まあ……」


 少し困ったようなレーナの顔を見て俺は事態を察する。ははあ、この顔、さてはすでにヨイショされてるな。あまり露骨にひいきでもされれば、今度は同僚からのひんしゅくを買いかねない。今度軽く釘を刺しに行くか。


 と、カナが俺の袖を引っぱってくる。


「リョータ、リョータ」


「ん、どうした?」


「リョータ、ソートク、何?」


「ああ、総督というのはな、町や領地を監督する奴のことだ」


「えらい人?」


「まあ、えらいだろうな」


 俺が答えると、カナはさらに聞いてくる。


「ソートクと貴族、どこが違う?」


「ん? ああ、ええと、そうだな……」


 思わぬ質問に、俺も少しとまどう。あれ、総督と貴族ってどこが違うんだ?


「ああ、そうか。ええとだな、貴族ってのは普通その町や領地が自分のものなんだが、総督は国から町や領地をまかされるんだ。わかるか?」


 俺の回答に、カナが小首をかしげる。


「じゃあ、ソートクより貴族がえらい?」


「ううん? どうかな……ああ、それは場合によるだろうな。へたな貴族より立派な町をまかされる総督もいるだろうし、貴族が総督になる場合もあるだろうしな。ちょっと難しいか?」


「むずかしい」


 そうだろうな、正直俺もよくわからんからな。


 俺たちの問答に、ジャネットが感心したように声を上げる。


「はあ、カナは大したもんだねえ。よくそんな難しい話ができるもんだ」


「本当に、カナちゃんはいろんなことに興味があってすごいですね」


「ああ、カナは本当に賢い子だ。奴隷なんぞにされていなければ、きっと今ごろは天才として王都でも有名になっていたに違いない」


 胸をそらしながら言う俺に、ジャネットが「また始まった」とでも言いたげな目を向けてくる。む、何だその態度は。俺は「太陽は東から昇って西へと沈む」というのと同じくらい揺るぎようのない客観的事実を述べているだけだ、何か文句でもあるのか。


 そのジャネットが、少しおちゃらけた調子で提案する。


「だったらさ、もういっそカナを総督にすればいいじゃないか。あんたが手伝ってやれば、大抵のことはできるだろ? あたしも酒が飲めるしさ」


「カナが総督……? ふむ、悪くないかもしれんな。俺が行政を、ジャネットが軍事をサポートするか。サラに頼めば優秀な官僚も集められるだろうし……うむ、いいぞ、いいぞ」


「あの、ちょっとリョータ? 冗談だよ? わかるだろ? あんた何真に受けてるんだい?」


「カナ、総督になりたいか?」


「カナ、ソートク、がんばる」


「そうかそうか、それじゃ今度サラに推薦するように言っておくからな」


「リョータ、ちょっとリョータ! あたしが悪かったから戻ってきておくれよ!」


「リョータさん、お気を確かに!」


 何やらまわりが騒がしいな。だがそれもすぐに気にならなくなり、俺はカナの頭をなでながら未来の総督府を脳裏に描いていくのであった。




今日はクリスマスイブということで、少しだけそれっぽい要素を入れてみました。


ここはひとつリョータにがんばってもらって、いずれはクリスマス回や正月回もやってみたいです。

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