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155 姫騎士と竜殺し

 敵の親玉の出現に、サラとジャネットが前へと出る。王国が誇る姫騎士とドラゴンスレイヤー。剣士としては間違いなく味方側最強の二人だ。


 二人を目にした魔族が、あざけりの笑みを浮かべる。


「何だ、誰かと思えば女が二人か。人間どものオスというのはかくも臆病なものなのか?」


 その言葉に、サラとジャネットも笑う。


「何、人間の世界では女の方が強いなどよくあることだ」


「そうそう、あたしらより強い男なんて、あそこにいるいい男くらいのもんさ」


 そんなことを言いながら、ジャネットが俺にウィンクを送る。いやいや、お前らの化け物具合にはかなわんさ。


 二人の軽口が意外とウケたのか、魔族が豪快に笑った。


「うわはははは! 愉快な奴らだ。まあいい、わしも女の肉の方が好みだからな。お前らは後でゆっくりと味わってやる」


「ほう、魔族にしてはなかなか見る目があるではないか」


「まったくさ。それに引きかえ、あっちの朴念仁ときたらまるで食いつく気配がないんだから」


「そうだな、あいつときたら……ごほん! そんなことより、目の前のこいつを片づけるのが先だ」


「あいさ」


 あいつら、どさくさにまぎれて言いたいこと言いやがって。後でおぼえていろ。


「気に言ったぞ人間! せっかくだ、お前たちも名乗るがよい。このわしがお前たちの名をおぼえてやろう」


「そうかい? じゃあ耳の穴かっぽじってよく聞きな。あたしはジャネット、疾風の女剣士の異名を持つSクラス剣士にして、世界でも数えるほどしかいないドラゴンスレイヤーさ!」


 ノリノリで名乗りながら、ジャネットが竜殺しの剣を敵へと向ける。


「では私も名乗るとするか。我が名はサラ、ミルネ王国第三王女にして、魔界領遠征軍遊撃隊長だ。人は私を姫騎士とも呼ぶ」


 何だかサラの奴もノリノリだな。俺たちとつるみ過ぎて悪い影響を受けてないか?


 こんな時に何だが、この頃は「王女である前に騎士」的なことを言わなくなったな。自分の中でいろいろとこだわりを消化できたのかもしれん。


 魔族も二人の名乗りを気に入ったようだ。


「ふははは! そうか、ジャネットとサラか。おぼえておいてやろう。お前たちを食う時には名を呼びながらちびちびとかじってやるぞ」


「そりゃカンベンだねえ。でも、あたしらが勝ってもいいことないじゃないのさ。サラ、あんたあれ食うかい?」


「バカを言うな。お前は冒険者なんだ、お前の方がよっぽどああいうゲテモノにはくわしいだろう」


「そんなわけあるかい。あんたこそ腐ってもお姫様なんだ、ああいう珍味くらい食ったことあるんじゃないのかい?」


「おい、腐ってもとは何だ腐ってもとは」


 どうでもいいが、漫才が続いてちっとも先に進まんな。こいつらがそろうとこうなるのか。


 さすがに魔族の方も業を煮やしたようだ。


「いつまでごちゃごちゃ抜かしている! こないならこっちから行くぞ!」


 そう叫ぶと、両手の戦斧を振り上げて二人の方へ猛然と突進してきた。図体のわりに速いな。


 あっという間に間合いに入ると、手にした巨大な斧を力まかせに振り下ろす。


 全身鎧の騎士も真っ二つに両断するであろう一撃を、サラは華麗に受け流す。あいかわらず洗練された剣技だ。力であらがうのではなく、卓越したその技で攻撃をさばいていく。これはやはり天賦の才なのだろうか。


 一方のジャネットは……うおっ!? あの馬鹿、まともに剣で受け止めやがった! 両手で剣を握って正面から斧を押し返す。あいつ、あんなパワーファイターだったか? いや、まあ確かに脳筋ではあるが。疾風要素はどこに行ったんだよ。


 息をつかせぬ魔族の猛攻を、サラは華麗に受け流し、ジャネットは強引にはねのけていく。俺の記憶ではこの二人は比較的似た剣さばきだったはずだが、今の二人はむしろ対照的と言っていい。


「ぬう、女のくせに生意気な!」


 どうやら魔族は自分の攻撃を弾き返すジャネットによりイラついているようだ。それに気づいたか、ジャネットが口を開く。


「何だい何だい、その図体は見かけ倒しかい? 女にいいようにあしらわれて、あんたの部下どももあきれた目で見てるよ」


「黙れ黙れぇ!」


 激した魔族が吠えると、一際強烈な一撃を二人に見舞う。煽り耐性ゼロだな。あるいはジャネットの煽りが神がかっているのか。こいつは言葉こそ平凡だが、最高に癇に障るタイミングで煽ってくるからな。


 相手の攻撃の勢いを利用して後ろに軽く飛んだ二人が、魔族との間合いをとる。


 サラがジャネットに軽く声をかけた。


「さて、それではそろそろ終わらせるとするか。ここは私にまかせてもらうとしよう」


「ちぇっ、いいところは結局あんたが持ってくのかい。まあいいよ、あたしゃあんたみたいな必殺技を持ってないからさ」


「ごちゃごちゃ言いおって、今ひき肉にしてやる!」


 そう叫びながら魔族が突進してくる。どうやらあちらも技を放つようだ。


 それを受けて立つように、サラはやや身体を横に向け、剣を前に突き出すような形で構えた。これは……出るな、あれが。


「死ねえ、人間! 魔哭鋼岩両斬撃!」


 これ以上ないほどに中二な技名を叫びながら、魔族が両手の戦斧をバツの字にクロスさせるように叩きつけてくる。振り下ろされた斧がうなりをあげながら交差しようかというまさにその時、サラの奥義が炸裂した。


「――奥義・万剣繚乱」


 静かにつぶやくと、サラの剣が無数の帯となって敵へと襲いかかる。この俺をも屠ったサラの奥義。その剣が、今初めて魔族に対して向けられる。いや、別に俺死んでないけどさ。


 おそらくはこの町の城門さえ粉々に吹き飛ばしたであろう敵の必殺技が、サラの剣の前にその威力をみるみる削り取られていく。やがて全て刈り尽くしたのか、サラの剣が戦斧を捉え粉々に打ち砕いた。


 うむ、さすが俺がプレゼントした剣。ジャネットもそうだったが、強度は十分だ。もっとも、こいつらはそれをいいことに剣に無理をさせすぎな気もするが。


「ぐおおおお!」


 斧を砕き、サラの剣が魔族の身体を切り刻み始める。2m以上あった魔族の巨躯はみるみる削られていき、あっという間に肉のかたまりへとその形を変えた。



 俺たちは、敵の大将を討ち取った。



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