表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/227

153 新たな奥義


 しばらくの休憩の後、攻城戦が再開された。


 だが、やはり状況はあまり芳しくないらしい。素人目に見ても、城門が壊れそうな気配はない。


 そのうち、あちらの方が慌ただしくなってきた。サラとオスカーが何やら言い合っている。どれ、少し顔を出すか。


 二人のところに行って話を聞くと、どうやらサラが自ら前に出るつもりだったらしい。あいかわらず無茶を言うお姫様だ。


 そろそろ頃合いだな。そう判断した俺は、サラに兵を下げるよう指示する。それから俺たちも少し下がると、俺はおもむろに精神統一を始めた。まあ、フリをしているだけだがな。


 そして、俺は転移魔法を発動させた。


 その瞬間、城門から数百mほど離れた上空に突如として巨大な岩石が出現したかと思うと、それはとてつもないスピードで城門へと突っこんでいった。


 一秒経つかどうかという間に岩は城門に激突し、轟音とともに砂埃を巻き起こす。それが収まってくると、かつて城門だった瓦礫の山が見えてきた。その周囲の市壁も崩れ落ち、まわりからは火の手が上がっている。


「な、何だ今のは!?」


「い、隕石ってやつか!?」


 周囲でことを見守っていた連中が口々に叫ぶ。期待通りの演出効果があったようだ。


 サラも俺に詰め寄るように問いかけてくる。


「リョータ! い、いったいあれは何なのだ!? まさか、お前は隕石まで召喚できると言うのか!?」


「まあな。さすがにあのくらいの大きさが限度ではあるが」


「ま、まさかそんなものまで呼ぶことができるとは……。天体の運行まで支配するとは、お前という奴は、いったいどれほどの力を秘めているというのだ……」


 サラが驚愕の表情で俺の顔を見上げる。想像を遥かに超えていたのだろう。そのまなざしに、いつも以上に尊敬の念がこめられているような気がする。


 まあ、さすがに隕石ではないのだがな。


 あの岩石は、あらかじめ他のところでキープしておいたものだ。直径は1,5m程度、それを例によって上空に転移して自由落下運動による加速を加えた。


 だが、今回はいろいろと加減が難しい。まず第一に、ほどほどのスピードに持っていくのが大変だ。何せ上空一万mから落下させれば、空気抵抗がない場合、たったの45秒で時速1600kmに達して地面に激突するからな。仮に岩の質量を4tとすれば、その終端における運動エネルギーは実に4億ジュール。TNT爆薬のエネルギーが確か1gで4000Jほどだったはずなので、TNT爆薬100kg分のエネルギーを持つわけだ。


 さすがにTNT100kgはまずいだろうと若干ひよった俺は、高度を5000mくらいにして加速させる。それでも時速は1100kmほど、運動エネルギーは1,8億JでTNT45kg分くらいになるのだが。


 どうせ空気抵抗でそんなに速くはならないのだろうと思い、実は最初いつものノリで何度も上空への転移を繰り返して加速しようかと思ったのだが、ためしに2000mあたりから落としてみたら思いのほかスピードが出てあせったものだ。宝剣群乱のように3分4分と加速していたらいったいどれほどの威力になっていたのか。考えただけでぞっとする。今回発射までに少し時間をおいたのは、完全に演出だ。


 もう一つ面倒なのが、的までの距離の調整だ。すぐ目の前で撃てば確実に当たりはするが、それでは丘の連中には何が起こったのかわからない。


 かと言って距離を取り過ぎると、的に当てる難易度がぐんと上がってしまう。物体というのは水平に射出しても1秒で約5m、2秒で約20mも落下してしまうのだからな。的の前に落っこちてしまわないよう、事前に何度もこの技を練習していたのは内緒だ。


 何はともあれ無事に命中した。視覚効果も十分だったようだ。


「あのあたりはかなりの高熱を発しているはずだ。風魔法と冷凍魔法で冷やして突撃するといい」


 何せTNT爆薬数十kg分だからな。


「そうなのか。どうりで火の手が上がっているはずだ。ではただちに準備させよう」


 そう言うと、サラがあらかじめ控えさせていた魔法士たちと騎士を前進させる。城門を破壊した以上、あとは突入して内部を制圧するだけだ。


 と、少し離れたところにいたジャネットも俺に抱きついてくる。


「スゴい、スゴいよリョータ! あんたホントに何でもできるんだね!」


「何でもというわけにはいかないがな」


「連中もびっくりして騒ぎまわってるみたいだよ。門も開いたし、あたしらも行って奴らを叩っ斬ってやろうよ!」


「ああ、そうだな」


 うなずくと、俺とジャネットは魔法士たちの後ろについて走り出した。サラも突入部隊に号令を出す。


 城門の方を見れば、魔族どもが慌てた様子で右往左往している。瓦礫の向こうに集結しつつあるが、熱くて近づけない様子だ。


 そこへ、こちらの魔法士たちが魔法を放つ。魔法によって冷却された瓦礫の上を、俺とジャネットは一気に駆け抜けていった。


 敵の集団の真っただ中に飛びこむと、待ってましたとばかりにジャネットが剣を振るう。その高速の剣の前に、瓦礫付近に集まっていた魔族が次々と倒れていく。やはりこいつは対集団となるとめっぽう強いな。


 俺たちの後に続くように、サラとオスカーの隊が城門へと殺到してくる。サラはもちろんだが、オスカーの奴もなかなかやるじゃないか。何とも豪快で力強い剣だ。さすがは騎士団長、実力はほぼSクラスと言われるだけのことはある。


 そんな俺たちの前に魔族どもはまともな抵抗もできず、さほど時を待たずして城門周辺は俺たちの手によって制圧された。


 こちらに駆け寄ってきたサラが、俺に礼を言う。


「ありがとうリョータ、おかげでここを制圧することができた」


「何、どうということはない」


「やはりお前は大した男だ。二日、あるいは三日はかかることを覚悟していたのだが。あんな技、人間になせる技ではないぞ」


「そんなことはないさ。召喚魔法の達人ならこれくらいのことはできるだろう」


「まさかお前が召喚魔法にまで通じているとはな。さて、それではこの町を解放するとしよう」


「ああ」


 うなずくと、俺たちは城塞都市の内部へと突入していった。



ちなみに形状など諸条件によりますが、このくらいの岩だと空気抵抗の影響下でも約960km/h=266m/sほどになるようです。


岩の半径を0.7m、密度を2.5g/立方cmとすると、岩の体積は約1.4立方m、質量は約3500kgとなるので、その運動エネルギーはK=1/2mv×vより

1/2×3500×2660×2660=約120000000(J)、TNT爆薬約30kg分となります。

リョータの試算はある程度いいところをいっていたようです。


……計算に穴があるかもしれないので、どなたかざっくり検算してもらえると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←もし『転移魔法』がおもしろかったなら、ここをクリックしてくれると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ