152 姫騎士の攻城戦
最初の攻撃を終え、しばらく兵を休ませた後、私たちは再び攻城戦を開始した。
私は市壁から離れた場所に遊撃隊を展開し、ことのなりゆきを見守っていた。かたわらには私の忠実な部下であるリセがひかえている。
先ほど同様に、攻城部隊は敵の攻撃をしりぞけながら城門まで迫ると、破城槌で巨大な扉に突貫していく。
だが、ここから見る限りではあまり効いているようには見えない。魔族どもはこちらが思っている以上に扉を強化していたようだ。
戦況をみつめていると、あちらからオスカーがやってきた。
「やれやれ、これは大変そうですな」
「まったくだ。まさか奴らがまともに防御を固めているとは思わなかったぞ」
私の言葉に、オスカーもうなずく。
「この分だと、マクストンの方も苦労しているかもしれんな」
「ですが、あちらもSクラスを二人投入していると聞き及んでおります。むざむざ破れはしますまい」
「野戦ではそうだろうが、あちらにもこんな要塞があるとなれば話は別だ。無事であればいいのだがな」
そう言って、私は城門の方に視線を戻す。
槌を打ちつけているのは騎士団でも指折りの力自慢たちだ。その彼らをもってしても目立ったダメージを与えられないのだからやっかいだ。
もちろん攻撃を続けていればいずれ城門は破壊できるのだが、魔法で防御している以上魔法士たちには休憩させなければならないし、そうなるとどうしても時間がかかる。
ラファーネ殿に来てもらえれば、休憩なしで攻撃できるのだがな。残念ながら彼女は王国北部での任務のために、今回の作戦には参加することができなかった。彼女であれば、あるいは直接魔法で城門を破壊することもできたのかもしれないが。
「屋根付きの破城槌、検討してみてもいいかもしれんな」
「は?」
私のつぶやきに、オスカーが不思議そうな顔をする。
「リョータが言っていたのだ。破城槌を屋根や壁で守ればいいではないかとな。てっきり冗談だと思っていたのだが、こうしてみると確かに理にかなっているのかもしれん」
「ふむ、さすがリョータ殿。我々にはない発想をお持ちですな」
「まったくだ」
そう笑いながら、私はリョータの方に目をやる。
ここから少し離れたところで、リョータはジャネットと並んで城門をみつめていた。困ったときは声をかけろと言っていたが、ここは私たちで何とかしたいところだ。
先ほどはそんなつもりなどなかったとはいえ、せっかくのリョータの意見を笑いものにするという大失態を犯してしまったしな。まさかあれが本気だとは夢にも思わなかったのだ。あの時私は調子に乗って何をべらべらとしゃべっていたのか。今思い出しても本当に肝が冷える。
ここは、何としても失態の分を取り返さないとな。
「敵の援軍はまだ来る気配はないのだな?」
「はい。ただ、奴ら魔族は夜でも目がきく者が多いですから、夜のうちに一気に迫ってくるかもしれません」
「そうだな、できれば日が落ちる前に片をつけたいのだが」
あの城門を破壊するには……やはりあれしかないか。
「で、殿下!? いったいどこへ行かれるおつもりで!?」
剣を片手にずいと前に出た私に、オスカーが慌てて声を上げた。
「城門に決まっているだろう。私の剣であの扉を叩き壊す」
「い、いけません! 扉は我らにお任せください!」
「そんなことを言ってはいられないだろう。私の剣ならあの扉にダメージを与えることができるかもしれん」
「で、ですが!」
必死に止めようとするオスカーに、リセも困ったようにおろおろとしている。まあ、リセは私が行くと言えばついてくるのだろうが。
実際問題、あの破城槌よりも強力な攻撃となると私の剣くらいしかないだろう。奥義の完成度もさらに増した。その……リョータに見てもらうこともできるしな。
そんなこんなでもめていると、あちらの方からリョータがやってきた。
「苦労しているようだな」
「そんなことはない。これから私が直接かたをつけようと思っていたところだ」
「サラが?」
リョータが驚いたような顔をする。こいつもオスカーと同じことをいうつもりか。まったくどいつもこいつも、少し過保護に過ぎるのではないか?
かと思うと、リョータは大笑いしながら私に言った。
「なるほどな、お前の剣ならあの扉も壊せるかもしれん。だが、それでは本当に俺の出番がなくなってしまう。ここは俺にまかせてくれないか?」
「リョータに? いや、だがそれでは……」
「何、すぐに終わる。いいだろう?」
「……わかった、頼む」
しばし考えて、私は素直にお願いすることにした。侍女たちも、男というのは女に頼られたい生き物なのだと言っていたしな……ごほん! そうではなく、この場は彼にまかせるのが戦略的にも戦術的にも最善だと判断したまでのことだ。
リョータはいつものように自信たっぷりに胸をそらした。
「まかせておけ。ではまずは攻城部隊を下げてもらえるか?」
「攻城部隊を? 構わんが、魔法の援護はいらないのか?」
「ああ。俺たちも少し下がった方がいいな。それと、冷凍魔法士と風魔法士を待機させておいてくれ。結構な熱が出るはずだからな」
「それくらいお安いご用だ。少し待っていてくれ」
そう答えると、私はオスカーに攻城部隊を引くよう指示する。角笛を吹くと、彼らはすぐに戻ってきた。その後、私たちも少し後方へと移動する。
私はリョータに聞いてみた。
「さて、部隊は下げたがこれからどうするのだ?」
「それは見てのお楽しみだ。せっかくだ、他の連中にも城門を見るように言っておいてくれ」
「わかった。では、あとはよろしく頼む」
「では、俺はしばし精神を集中する。気長に待ってもらおう」
そう言うと、リョータは静かに目を閉じた。いったい何をするつもりなのだろう。
そうしてしばらく経ったころ。リョータが目を開いてつぶやいた。
「いくぞ。城門をよく見ていろ」
「うむ」
うなずくと、私は城門の方へと目を向ける。
次の瞬間、私はとんでもないものを目の当たりにした。
それは――突如空中に出現した巨大な岩が城門目がけてとてつもない速度で突き進んでいくという、我が目を疑うような光景であった。
オーバーラップWEB小説大賞に応募していましたが、無事一次選考を通過しました。できればぜひイラストレイターさんに絵をつけてもらいたいものです。
どうでもいいことなのですが、自分の中ではカナはなぜか漠然と絶望先生のマ太郎のイメージがあります(笑)。