15 初めてのクエスト
試験の結果発表の日。俺は王都のギルドに入り、レーナのところへと向かう。
窓口に行くと、レーナが俺にほほえんできた。嬉しそうに声をかけてくる。
「リョータさん! リョータさん!」
その様子だと、どうやら結果は聞くまでもないようだな。
「合格です! 凄いですリョータさん、Aクラスです!」
「落ちつけ、そんなに興奮するな。大したことじゃない」
「そんな、謙遜しないでください! 17歳でAクラスなんて、本当に凄いことなんですよ!」
興奮ぎみにレーナが言う。俺は別に謙遜しているわけではないのだがな。単に通過点にすぎんと思っているだけだ。
それはさておき、まずはクエストを物色するとしよう。
「レーナ、さっそくだがクエストの依頼を見せてくれ」
「はい、かしこまりました! こちらが上級者向けのクエストです!」
あらかじめ用意していたのだろう。レーナがすぐに依頼を貼ったボードを取り出す。
なるほど、Bクラス以上のクエストが集められているのだな。レーナも準備がいいことだ。
「リョータさんはAクラスに昇級して初めてのクエストですもんね」
「ああ、そうだな」
昇級後初と言うか、これが生まれて初めてのクエストだがな。
レーナが俺に尋ねてくる。
「リョータさんは、どんなクエストをご希望ですか?」
「そうだな、なるべく金回りのいい仕事がいい」
「そうですか? でしたら……」
身を乗り出して、レーナがいくつかのクエストを俺に薦めてくる。ふむ、なかなか選ぶセンスがいいな、レーナは。
その時、一つのクエストが俺の目にとまった。ほう、これはいい条件じゃないか。
「決めたぞ、レーナ」
「はい! どれですか?」
「ああ、これだ」
そう言って俺が指さした依頼書を見て、レーナの笑顔がそのまま固まった。一泊遅れて、彼女の顔から血の気が引いていく。
顔を上げると、レーナが全力で拒絶してきた。
「ダ、ダメです! このクエストは、絶対ダメです!」
「どうした、レーナ? 顔色が悪いぞ?」
俺の言葉には構わず、レーナは首を横に振る。いったいどうしたと言うのだ。
「落ち着け、レーナ。なぜダメなんだ? Aクラス以上の冒険者は自由にクエストを選べるのだろう?」
「そ、そうですけどダメです! それはAプラスって書いてあるでしょう?」
「ああ、確かに」
俺が指さしたのは、最近ここらを根城にしているという盗賊どもを討伐せよという依頼だった。国からの依頼らしく、その報酬も金貨百枚と破格だ。
依頼書によれば連中は強盗や人さらいを繰り返しているそうで、自分たちの力を誇示するためなのか、用のない人間は女子供だろうと残虐な殺し方をするという。いい女は徹底的に嬲ってから殺すそうだ。こんなクズどもが相手なら、俺も良心の呵責なく始末できるな。
その依頼書の右上には、「A+」の表記がある。他は全てAかBだと言うのに、いったいどういうことだろう。
「そのAプラスというのは、いったい何なんだ?」
「これはSクラス以上の冒険者が請け負うのがふさわしいという意味の区分です。Aクラスの方が参加してもいいですが、Sクラス以上の人がいなければ極めて危険なんです」
「たかだか盗賊だろう?」
「ただの盗賊じゃありません! すでに三組のパーティーが討伐に向かって全滅しているんです!」
「そいつらが弱かっただけじゃないのか?」
「違います! Aクラス四人のパーティーも全滅しましたし、この前リョータさんと同じようなことを言いながら一人で討伐に向かったSクラスの冒険者も、数日後に首だけになって送り返されてきたんです! 今ギルドでもSクラスの冒険者が集まるまで待っているところなんですよ!」
俺を説得しようと、レーナが必死に連中の凶悪さを説明する。なるほど、ただのゴロツキどもというわけではないようだな。まあ、俺には関係ないが。
「それほどの連中なら、国が軍を動かせばいいんじゃないか? 軍にも強い奴はいるんだろう?」
「確かにいますけど、そういうお強い方々は皆さん国境にいたりお城を守ってたりしていて簡単に動けないんです。それにこういうのはギルドの仕事ですから」
基本はギルドの冒険者に任せるというわけか。まあ、あまり国にしゃしゃり出てこられてもこちらの仕事が減るだけだからな。
もう少し情報を得ようと、俺はレーナに質問する。
「そいつらを動かせないなら、普通の兵士を送ればいいんじゃないか? いくら連中が手だれでも、何百人も相手では勝てないだろう」
「それじゃ死人がいっぱい出てしまいます! それに、そんなに大人数を動かしたらすぐに逃げられてしまいますよ」
まあ、確かに気づかれるな。しかし、死人が出るから動かせない軍隊というのには、少々矛盾を感じるのだが。
とりあえず聞きたいことはだいたい聞けた。それではそろそろ行くとしようか。
「よし、じゃあそろそろ行ってくる。手続き頼むぞ」
「え!? 本当に行く気ですか!? ダメです、危険です! それもたった一人でなんて!」
「心配するな。すぐ戻る」
「い、行かないでください! あなたがいなくなったら、私……!」
涙を流しながら制止するレーナを振り切り、俺はギルドの出口へと向かった。
レーナが窓口から飛び出して俺を追いかけてきたので、部屋のドアをくぐると酒場の裏へと転移する。泣きながら俺を呼ぶレーナの声が、プツリと途絶えた。
酒場の裏に転移した俺は、持ちものを確認しながらレーナのことを考える。
今ごろレーナは俺を見失ってその場で号泣しているのだろうか。少しかわいそうなことをしたな。後でプレゼントでも買っていってやろう。
そう決めると、俺はさっきの依頼書に書いてあった盗賊どものアジトへと転移した。さて、少しは骨のある連中だといいのだが。