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145 出立



 城に呼ばれてから数日して、王都から遠征軍が出立した。その数、王国騎士団を中心に、総勢320人。南方防衛の要、ピネリからの後方支援も含めれば、総動員数は400人に達するとのことだ。


 しかし何だな、これだけの人数が馬に乗って行進するのは壮観だな。300人などしょぼいと思っていたが、馬がでかいから思いのほか迫力がある。


 俺はいつものようにサラやジャネット、リセと馬を並べている。遊撃隊の後ろからは、装備がばらばらな連中がついてきている。これが貴族の私兵やギルドから雇った傭兵か。


「それにしても、これだけの馬をそろえるだけでも大変そうだな」


 何気なくつぶやくと、サラが口を開いた。


「確かにな。だから我々も、募集の条件を馬を持つ者に限定した」


「ほう」


「自前の馬を持つほどの冒険者なら、腕の方もそれなりだろうしな」


「なるほど」


 そういえば、俺たちはいつも馬を借りっぱなしだな。そろそろ俺も馬くらい所有しておくか。


「今回はまずオスカー、シモン、私の三隊に分かれて集落を解放していく。我が隊は四か所を担当することになるな。その後合流し、城塞都市イアタークを攻略する手はずだ」


「獣人たちは助けるのか?」


「抵抗しなければ、な。それ以外の種族についても降伏勧告はする。その前に解放宣言だな。無理やり戦わされているのなら、それでどうにかなるだろう」


「お前にしては何ともざっくりとしたもの言いだな」


「そのあたりは抜かりないからな」


 大した自信だ。まあ、これだけの数を集めれば確かに問題ないか。俺たちもいるわけだしな。




 マースを抜け、ピネリの町で一泊すると、遠征軍は三隊に分かれて進軍を開始した。俺たちはサラたちといっしょに南西の方へと進んでいく。


 サラと馬を並べながら、俺はふと思ったことを口にした。


「それにしても、今回の戦いが終われば魔界から奪った領土もずいぶんな広さになるな。これも王国の直轄領になるのか?」


「そうだ。だが、ここまで広くなってくると、ピネリの延長のようなかたちでの支配というわけにはいかないだろうな。おそらくイアタークの町を拠点として、総督府を正式に設置することになるだろう」


「総督府か」


 よくわからんが、なかなかカッコいい響きではないか。そういえば、以前始末したガメルも西方総督とか名乗っていたな。奴のコレクションはなかなかどうして悪くなかったが。


「貴族のように自分の領地になるわけではないが、これほど広大な領域を支配するのだ。その総督ともなれば、相応の実力者が選ばれることになるだろうな」


「だが、実際問題なり手はいるのか? 魔界と接しているのだ、危険なんてものじゃないぞ。それに町どころか、集落がぽつぽつと点在しているだけのエリアだ。自分の領地でぬくぬく過ごしているような貴族につとまるとも思えんが」


「それについては私に考えがある。お前が心配するようなことにはなるまい」


 にやりと笑うサラに、俺は聞いてみた。


「まさかサラ、お前が総督になるつもりじゃないだろうな」


「私が? ふむ、それも悪くないかもしれんな。考えておこう」


 む、違ったか。何でもできる奴だから、てっきり自分でなるつもりかと思ったのだが。


 そこに、ジャネットが割って入ってきた。


「その総督様とやらは、あたしにもなれるもんなのかい?」


「ほう、興味があるか、ジャネット? 何ならお前を推薦してやってもいいぞ?」


「え、ホントにいいのかい?」


 興味を示したジャネットに、サラが人の悪そうな笑みを向けた。


「ああ、仕事ができるならな。大変だぞ、総督は。治水に治安維持、都市計画やら生産計画やらやることだらけだ」


「うへぇ!? ムリだよそんなの、あたしゃごめんだよ!」


 あわてて逃げ出したジャネットに、俺とサラがそろって笑う。


「ははは、実際には担当の役人がいるから、一人で全部やることはないのだがな」


「何だい、びっくりさせないでおくれよ、まったく……」


「すまんすまん。だが、やはりある程度頭が回る人間に任せることになるだろうな。それと最前線に立てる度胸か。別に本人が強くなくても問題ないのだが、そんな度胸のある人材はそうそういなくてな」


「そうなると、軍から誰かを選ぶ感じになるのか。オスカーやシモンあたりか?」


「それも選択肢になりうるな。もっとも、彼らは軍の要でもあるから少々推薦しにくいが」


「それはそうか」


 では先代や先々代の騎士団長あたりか、などと思いながらサラにうなずいていると、ジャネットがまた馬を並べてくる。


「だったらリョータがなればいいじゃないか。度胸も頭もばっちりだろ?」


「うん? まあ、そうだな。それも悪くないか」


 実際問題、その条件だとやれそうなのはサラか俺くらいしか思いつかんな。まさかあの侯爵家のどら息子を放りこむわけにもいくまい。


 サラの方を見てみると、どこか落ち着かない感じであちこちを見回していた。


「そうか、リョータか。それもいいかもしれんな。うむ、考えておこう」


 ……微妙にわざとらしいんだが……。いや、深く考えるのはやめておこう。




 王国と魔界との現在の境界付近で野営すると、翌日俺たちはいよいよ魔界へと乗りこんでいった。




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