144 打ち合わせ
一息つくと、サラが再び口を開いた。
「とにかく、今回はこれまでにない規模の戦いだ。お前たちにはいつも通り我々遊撃隊と共に行動してもらう。主な任務は強敵の撃破だと思っていてくれ」
「まかせろ。というか、俺とお前とジャネットでいつものようにやればいいのだろう?」
「そういうことだな」
「へへっ、腕がなるねえ。あの子らをいじめてた連中だ、全員ぶっ殺してやるよ」
ジャネットがにやりと凶暴な笑みをもらす。あの子ら、というのは獣人の子供たちのことなのだろう。こいつもすっかり獣人派になったな。
「そうだ、獣人と言えばマクストンへの説明はどうなった?」
「ああ、何とか配慮はしてもらえる方向で落ち着いた。保護とまではいかんだろうが、すぐに殺しはしないはずだ」
「捕虜、あるいはまとめて隔離といったところか」
「そうなるだろうな」
まあ、それも仕方あるまい。ミルネにしたところで、サラが軍部と王党派を押さえていたから何とか押し通すことができたというのが実際のところだろう。マクストン王国に反発されなかっただけましなのかもしれない。
サラの声が少し弾む。
「この戦いに勝利すれば、魔界と人間界の領土比は逆転する。我々人類にとっては負けられない戦いだ。二人とも、よろしく頼むぞ」
「ああ」
「今回はまず、この前の偵察で発見した集落を速やかに解放し、最後に城塞都市イアタークを攻略することになる。お前たちに働いてもらうのもその時になるだろうな」
「攻城戦かい、そういうのは苦手なんだよ。壁の中になんてこもってないで、男らしくどかっと出てこないもんかねえ。あ、魔族らしく、か。でも、だったら連中のことだ、こそこそ壁に隠れちまうのか」
ジャネットが、足りない頭をひねってうんうんとつぶやく。まあ、壁から出てこない場合はアレをためしてみるか。俺のとっておきだ。
「ところでリョータ」
「うん、何だ?」
「そろそろカナも学校を卒業するころではないか? 今回は連れていくのか?」
「うっ、いや、カナの卒業はもう少し先だ。だから今回は連れていかん。馬にも乗れんだろうしな」
「馬の扱いなら学校である程度習っていると思うがな。そうか、では次の戦いにはカナも参加するのだろうな」
「それはわからんな。学校を卒業したからといって、戦いに加わるのを無条件に許可するわけではない」
くそっ、そろそろそんな時期なのか。カナも今度こそついてくるといってきかないだろうしな。この戦いに勝って魔族どもが全面降伏でもしてくれればその心配もなくなるのかもしれんが。
テーブルの上に組んだ手の指をせわしなく動かす俺に、サラは軽く笑いかけてきた。
「そう心配するな。カナが前線に出ずにすむよう、私もがんばるとするさ。話は以上だ、細かい話はまた使いの者を出す。何か質問はあるか?」
「いや、特にはないな。ジャネットはどうだ?」
「要は魔族をぶっ殺せばいいんだろ? 大丈夫、あたしも特にないよ」
「うむ、ではよろしく頼むぞ」
話も終わり、立ち上がって退出しようとした俺は、ふと思い出してサラの方へ振り返った。
「そうだ、サラ」
「うん? どうした?」
「さっきジャネットも言っていたが、あの人形は大事に飾らせてもらっているぞ。カナもずいぶんと気に入っている。礼を言わせてもらうぞ」
「そ、そうか? ならいいんだ、礼にはおよばん」
声を裏返らせながら、そんなことを言う。
「ところでサラ」
「うむ、今度は何だ?」
「その髪飾り、よく似合っているぞ。俺もプレゼントしたかいがあった」
「ひゃん!?」
言葉にならない声を上げて、サラが頭へと手をのばす。そこにはこの前のデートで俺がプレゼントした、青い宝石をあしらった髪飾りがついていた。
何事かをもにょもにょと言うサラに、俺は軽く手を上げて応えると会議室を後にした。
帰り道、ジャネットがぼそりとつぶやく。
「あの髪飾り、リョータのプレゼントだったんだね」
「ああ。何せ姫騎士とのデートだからな。手ぶらと言うわけにもいかんだろう」
「だ、だったらさ、今度あたしとデートしてよ。で、あたしにも何かああいう飾りちょうだいよ」
「うん? ああ、構わんが、お前はああいう飾りに興味があったのか? 邪魔なだけじゃないのか?」
「そ、そんなことないよ! あたしだって、アクセサリの一つや二つくらい……」
そう言ってジャネットが下の方を向く。
最近はジャネットもずいぶんとそういうものに興味を持つようになってきたな。ドレスの時もそうだったが、女らしさというものを意識しているのだろうか。
そのままのジャネットも十分美しいとは思うがな。女らしい彼女も見てみたいから、それはそれでよしとするか。
「いいだろう。では今度の戦いが終わった後にでも行くとするか」
「ホント!? 約束だよリョータ!」
「ああ」
ジャネットが嬉しそうに俺の腕に抱きついてくる。何だか微妙にフラグっぽい約束だが、まあ何も起こらんだろう。
魔族どももそろそろ尻に火がついてきたかもしれんな。もう少し待っているがいい、最後はこの俺が引導を渡してやる。