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142 デートの終わり



「殿下、ご満足しましたか」


 ベンチに座る俺たちの前で立ち止まると、リセは特に語気を荒げるでもなくそう言った。まあ、こいつは普段から何を考えているのかわからん奴だが。


 すっと立ち上がると、サラがうなずいた。


「ああ、十分だ。お前には迷惑をかけたな」


「いえ、お気になさらないでください」


 そう言うと、リセは俺に向かい一礼した。


 俺も立ち上がると、サラが少し残念そうに言った。


「今日はこれで失礼する。案内ご苦労だった」


「ああ。楽しんでもらえたか?」


「もちろんだ。また機会があればよろしく頼む」


 そう言ってリセと並んだサラだったが、名残惜しいのか、そこから離れようとしない。


 おっと、そうだ、俺も渡すものがあるんだった。


「サラ、ちょっといいか」


「うん? 何だ?」


「お前に渡したいものがあってな」


「渡すもの?」


 珍しくぽかんとした顔をするサラに、俺は懐から取り出した小さな包みを渡す。


「開けてみてくれないか」


「う、うむ」


 少し照れた風に、サラが包みをいそいそと開く。


 中から出てきたのは、小さな髪飾りだった。金をベースに、小さな青い宝石が二つあしらわれている。


 驚いたように目を見開くサラに、俺はややぶっきらぼうに言った。


「俺からのプレゼントだ。よければ使ってくれ」


「こ、これを私に……?」


「ああ。店の者に、この店で一番姫騎士様に似合いそうなものをと言って選んでもらった髪飾りだ。確かによく似合いそうだろう?」


「あ、ああ。これなら私の髪にぴったりだな」


 落ち着かなく視線を動かしながらサラが答える。


「だが、本当にいいのか? こんな立派なものを」


「何、いつもお前が身につけているものに比べれば大したことはないだろう。それに、姫騎士様お手製のプレゼントに比べれば、むしろそれ一つくらいではつり合いがとれんというものさ」


「に、人形の話はやめろ! いいか、他人には、特にジャネットあたりには絶対言うなよ!」


 サラが声を荒げる。残念だがカナの分がある時点で、ジャネットにはカナ経由ですぐ伝わるだろうな。


 それから、サラは嬉しそうに頬をゆるめた。


「だが、ありがとう。嬉しいぞ。さっそく使わせてもらうとしよう」


「それは光栄の至り」


「茶化すな。お前こそ、その……捨てるなよ?」


「お前、俺を何だと思ってるんだ? そんなことするわけないだろう」


 そう言って、お互い顔を見合わせて笑う。


「では、私たちはこれで失礼する。今日は楽しかったぞ」


「ああ、俺もだ。それに……」


「それに?」


「お前の三つ編み姿もかわいかったしな」


「なっ……?」


 サラは麦わら帽子を深くかぶると、ぷいとあちらを向いた。


「で、では私は帰る! 今日は世話になった!」


「ああ、またよろしくな」


 立ち去る二人に手を振ると、サラはぷいっと顔を伏せ、リセが軽く頭を下げた。





 さて、カナにおみやげのお菓子も買ったし、帰るとするか。


 家につくと、扉をノックする。


 いつものようにカナがやってくるかと思いきや、どたどたという足音と共にジャネットの声が聞こえてきた。


「お、おかえりリョータ! 早かったね!」


「そうか? もう夕方だぞ?」


「あ、いや、そうだね、そうだよね!」


 わけのわからないことを言いながら、ジャネットが扉を開く。まさか朝帰りでもすると思っていたのだろうか。


「カナは帰ってきてるか?」


「ああ、カナなら居間だよ。と、ところでリョータ……」


「ん? 何だ?」


「サラとは、その……どうだったんだい?」


「どうって、いつも通りだったが。リセも見張っていたしな」


「あ、そうなんだ、そうかい、それじゃ安心だね」


 何が安心なのかわからんが。とりあえず話がややこしくなりそうなので、リセを振り切ったことは言わないでおこう。




 居間に入ると、カナがソファにちょこんと座っていた。


「リョータ、おかえり」


「ああ、ただいま、カナ。お前の好きなクッキーを買ってきたぞ」


「ありがとう」


 袋を開けて皿に盛りつけると、さっそくカナがぱくぱくと食べ始める。


「そうだ、カナ。サラからプレゼントをもらっている」


 俺はサラからもらった包みを取り出すと、中身を開けた。


 ほう、俺とカナのぬいぐるみか。特徴をよくつかんでデフォルメされている。


 カナも珍しそうに二体のぬいぐるみをみつめている。サラからのプレゼントと聞いて、ジャネットもじっとこちらをうかがっている。


「ほら、これがカナのだ。大事にするんだぞ」


「これ、かわいい」


「そうだな、カナはぬいぐるみになってもかわいいな」


「それもかわいい」


「うむ、確かにかわいいな」


 どうやらカナも気に入ってくれたようだ。ジャネットの目もあるので、サラの手作りだというのは後で教えるとしよう。


「あたしの分はないのかい?」


「元々俺へのプレゼントだったみたいだからな」


 ちぇっ、と舌打ちして、こっちに来たジャネットがクッキーをつまむ。サラとのデートの直後だからな、ジャネットもしばらくはこんな調子だろうが、いずれ元に戻るだろう。


 しかしサラもわかっているではないか。俺とカナをペアにした人形とはな。うん、何だか俺も気に入ってきたぞ。これは大切に飾らせてもらうことにしよう。




 こんな風に、俺とサラとの初めてのデートの日は無事に終えることができた。次に会う時は、また城の団長室かどこかだろうな。凛々しい騎士の姿もいいが、またあのかわいらしい三つ編み姿を見てみたいものだ。


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