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140 二人きりで


 街へと繰り出した俺たちは、王都の若者が寄りそうな店に次々と入っていった。


 服屋に雑貨店、靴なども見て、昼は俺たちもよく利用する若者向けのカフェに入った。


 どれもサラには珍しいものだったらしく、店へと入るたびに彼女は目を輝かせながら店内のものを見て回っていた。


 雑貨屋などでは、気に入ったものを手当たり次第に買おうとするので俺がたしなめたほどだ。真剣に悩んだ末、何とか手さげのかごに入りきるくらいに収まった。


 こういう店には来ないのか、と聞くと、身の回りのものは城の者たちが用意してくれるからな、と返す。たまに城に出入りする外商が持ってきた品を選ぶくらいなのだそうだ。




 昼食を終え、俺たちは並んで王都の大通りを歩いていた。


「たまにはああいうシンプルな食事もいいものだな。もちろん普段の食事に文句などないのだが」


「それはそうさ。文句なんて言おうものなら、俺たち平民が黙っていない」


「おいおい、お前はもう男爵だろう」


「ああ、そうだったな」


 そんなことを言いながら、人通りの多い大通りを特にあてもなく歩いていく。


「それにしても、リセは仕事熱心だな」


「まったくだ。私もはめをはずすことができない」


 サラが苦笑する。俺たちの後ろからは、女騎士のリセがある程度距離をおいてしっかりとついてきていた。


「せっかく二人でいられるというのにな」


「あ、ああ……そうだな」


 そう言って、サラが少しうつむく。二人きりでないのが少し残念だという顔に見える。


 少し考えた後、俺はサラに尋ねた。


「サラ、その靴で走ることはできるか?」


「うん? まあ、いつものようにはいかんが、不可能ではないぞ」


 不思議そうな顔をしながらも、サラがうなずいた。


「そうか」


 それを聞いた俺は、サラからかごを受け取ると、彼女の手を取った。驚いたサラが声を上げる。


「な、何だ!?」


「走るぞ、サラ」


「えっ、ええ!?」


 言うやいなや、俺はサラの手を引いて走り出す。俺に引っぱられながら、サラも慌てて走り出した。


 突然走り出した俺たちに、リセも慌てて俺たちを追いかける。だが、俺たちの間の人だかりに阻まれ、なかなか前に進むことができない。ふっ、このタイミングを見計らっていたのだ。


 人ごみに飲まれるリセを尻目に、俺たちは手を取り合って王都の街を駆け抜ける。サラも、空いている手で麦わら帽子を押さえながら必死に走った。







 やがて、俺たちは足を止め、再び歩き出した。


「ふう、どうやらリセはまけたようだな」


 後ろを振り返っていると、サラが何やらもそもそとつぶやいてくる。


「あの、手はこのままでいいのか……?」


「ああ、そうだったな。すまん」


 まだ手を握りっぱなしだったことに気づき、俺はぱっと手を離す。


 む、サラが少し残念そうな顔をした気がする。これはつないでおくのが正解だったか。だが、今さらやっぱりつなごうなどというのも何だか変だしな。


 俺からかごを受け取ると、こほん、とかわいらしくせき払いする。


「まったく、大胆な奴だなお前は。まさか急に走り出すとは思わなかったぞ」


「すまんな、どうもお前が二人きりになりたそうに思えたのでな」


「わ、私が……?」


 サラが顔を真っ赤にする。まずい、これは怒らせてしまったか。


 だが、予想に反してサラはしどろもどろになりながら口を開いた。


「そ、そうか。すまんな、気をつかわせてしまったらしい」


「いや、別に俺は構わんのだがな」


 何というか、どうも調子が狂うな。そうか、サラがいつもの騎士風の服装じゃないからだ。こんなにもかわいらしいワンピースを着てしおらしい態度を取られたら、それは俺も意識してしまうというものだ。


「だが、驚いたぞ。いつも私はお前に驚かされてばかりだ」


「こうしなければ男がすたると思ったものでな」


「それは頼もしい限りだ」


 いつもの調子に戻ったサラが笑う。


 それから、俺に向かって意地の悪い笑顔を向けてきた。


「だが、これは問題行動だぞ。一国の王女を連れ去ったのだ。父上に知られれば、いくらお前とてただではすまんかもしれんぞ」


「はは、まさか」


 笑ってから、俺は冷静になって考える。


 ……確かに、これはシャレになってないんじゃないか? これでもサラは王女様だ。それを警護の目を盗んで連れ去ったのだから、これは普通に誘拐と思われても申し開きができんかもしれん。


 ひょっとして、かなり重い罪に問われるのか? まずい、サラをさらってどうしよう、なんてくだらんダジャレを言っている場合ではない。


 不安に思った俺はサラに聞いてみた。


「この国では、王族をさらったらどんな罪に問われるんだ?」


「そうだな、過去に例がないから何とも言えんが、普通に考えれば重罪だろうな。処刑されても文句は言えんだろう」


「そ、そうなのか」


 それは困ったぞ。おとなしく処刑されてやるつもりなど毛頭ないが、俺がそんな重犯罪者になってしまったら、カナまで世間から後ろ指さされてしまうではないか。ど、どうする、いっそどこか知らない土地へ転移してひっそりと暮らすか……?


 考えに没頭して黙りこんでしまった俺を、サラはしばらくみつめていたが、やがてこらえきれなくなったように笑い出した。


「あははは! 冗談だ、リョータ。そんなことになるわけないだろう、別に私を本当にさらったわけではないのだから」


「ほ、本当か……?」


「本当だとも。まあ、私は後でリセにこってりとしぼられるだろうがな」


 よほどおかしかったのか、サラが目尻に涙を浮かべながら笑う。よ、よかった、カナに迷惑をかけずにすみそうだぞ。


「もしかすると、リセも私のことをおもんばかってくれたのかもしれんな……」


「うん? 何がだ?」


「い、いや! 気にするな!」


 何事かをつぶやいたサラに俺が聞くと、彼女は強く首を振った。


 それから、話を変えるように聞いてくる。


「しかし意外だな。お前なら、たとえ我が国を敵に回したところで動じはしないと思っていたのだが」


「俺もかつてはそう思っていたのだがな、俺が犯罪者扱いされたのではカナの教育に悪いのだ」


「ああ、なるほど……」


 なぜか妙に納得したという顔でサラがうなずく。理解が早くて助かる。


 気を取り直して、俺はサラに尋ねた。


「さて、二人きりになったわけだが、どこか行きたいところはあるか?」


「そ、そうだな……」


 少し顔を赤らめると、サラは小さな声でつぶやいた。


「そ、それでは、西の公園などどうだろうか? 若者には人気だと聞いている」


「わかった。ではそこに行くとしよう」


 うなずくと、俺とサラは二人並んで、王都の西に位置する公園へと向かった。




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