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14 ならず者への制裁





 取り巻きどもを全員片づけ、俺は床にへたりこんだどら息子の眼前に剣を向ける。恐怖に顔を引きつらせながら、それでもどら息子は俺を睨みつけてくる。


「ま、待て! 貴様、この俺にこんなことをしてタダですむと思っているのか!」


 この期に及んでまだ言うか。俺は冷ややかに見下ろしながら言う。


「そうだな、そんなにその侯爵とやらに力があるのなら、お前を今ここで始末してさっさと国外に出るのが最善かもしれんな。ああ、それが一番だ」


 思い切り酷薄な顔で冷たく言い放つと、俺はどら息子に見せつけるかのようにゆっくりと剣を振り上げる。


 案の定、どら息子は命乞いをしてきた。


「ま、待て! 殺すな! 殺さないでくれ! 悪かった! 俺が悪かった! どうか見逃してくれ、頼む!」


 振り上げた腕を止めると、俺は感情を押し殺した声で言う。


「まさかお前、これだけのことをしておいて、口で詫びるだけですむとでも思っているのか……?」


「わ、わかった! 金か? 金ならあるぞ! ほら! お前が十年働いても稼げないくらいの大金だ!」


 そう言って、どら息子がサイフを投げ出してくる。中からは金貨や上銀貨がこぼれ出てきた。


 あの大きさからして、中身はせいぜい四、五十枚といったところか。そのほとんどが上銀貨だろう。ふん、はした金だな。


「なるほど、やはり死にたいようだな」


「ま、待て! 待ってくれ! 何でもやるから、殺さないでくれ!」


「そうだな、ならばお前の持つ一番価値のあるものを渡してもらおう。なければお前の命で我慢してやる」


「か、価値のあるもの……?」


「のんびり考えている時間はないぞ。俺も腕がしびれてきて、思わずこのままお前の脳天に剣を振り下ろしてしまいそうだからな」


「わ、わかった! ならこの剣はどうだ! 我がシュタイン侯爵家の家紋入りの名剣だ! これがあれば、この国の大抵の場所で顔が利く!」


「ほう?」


 どら息子の言葉に、思わず興味をそそられる。少し話を聞いてやろう。


「どこでもと言ったな。例えば王宮にも入れるのか?」


「お、王宮は無理かもしれんが、大抵の貴族や役人に会うことはできるはずだ。この剣を持つということは我がシュタイン家のお墨つきをもらうことに等しいからな」


 ほう。それは便利かもしれんな。金は例の取引で手に入るが、信用はなかなか手に入るものではないからな。


「嘘はついていないな?」


「う、嘘じゃねえ! 本当だ!」


「まあいい。嘘だった時にはお前の命で償ってもらおう。おぼえておけ、俺はお前がたとえ屋敷に閉じこもっていようと、気が向けばすぐに始末できるということを」


「わ、わかった! ほら、受け取ってくれ!」


 そう言って、どら息子が豪華な装飾のなされた剣と鞘を俺へと手渡す。なるほど、実用性には欠けるが、確かになかなかいい剣だ。


「こ、これで見逃してくれるんだよな?」


「まあ、いいだろう。そのゴミどもを連れて、俺の気が変わる前にさっさとこの場から失せろ」


「ひっ、ひいいぃぃぃぃ!」


 顔を引きつらせて叫ぶと、どら息子は取り巻きどもに怒鳴りつけながら、足を斬られた連中を抱えてひいこらと逃げ出していった。高貴な貴族さまがごろつきに肩を貸して逃げていくとは、なんとも滑稽な光景だ。




 騒動が収まり、この部屋にも徐々に人が集まってくる。ふと後ろを振り返ると、レーナが俺に駆け寄ってきた。


「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございました……」


「礼には及ばん。お前がいないと手続きができないからな。邪魔者を追い払っただけだ」


 おかげで思わぬ戦利品も手に入ったがな。


「は、はい……」


 俺の心の声など聞こえようはずもなく、レーナはただただ感謝のまなざしで俺を見つめてくる。


 もっとも、その瞳には感謝以外の感情も見え隠れするように思える。この状況では、そういう感情が芽生えるのもいたしかたないことかもしれないな。


 俺がレーナから熱いまなざしを送られていると、向こうからギルドの職員らしき連中が現れた。今ごろ来ても遅いのだが。


 その職員たちに、先ほどの騒動についてあれこれと聞かれる。やれやれ、こいつらが仕事をしないばっかりに、面倒なことだ。


 もっとも、こいつらもレーナを見捨てるような形になったことが後ろめたいのか、あれだけの大事おおごとだったと言うのにあまり細かい話には触れようとしない。


 俺に向かって、これからは気をつけるように、と軽く注意をすると、そのままそそくさと立ち去ってしまう。俺にとっては余計な面倒がなくて助かるがな。


 職員たちの聞き取りを終え、俺とレーナも受付へと戻る。これでようやく今日の本題に入ることができる。


 少し顔を赤らめるレーナに、俺が言う。


「さて、それじゃレーナ、今日の試験を頼めるか」


「はい、それでは準備ができましたらお呼びします」


 それから、上目遣いでレーナがつぶやく。


「あの、リョータさん。その……試験、がんばってください」


「ああ」


 Sクラスならともかく、Aクラスの試験に俺が落ちるわけはないんだがな。




 しばらくして、Aクラスの試験の準備ができたということで俺は会場へと向かう。


 各種の検査や実技試験を終えると、受付に戻った俺はレーナに結果発表の日付を確認した。


 合格しているといいですね、と笑うレーナに、そうだな、とほほえみ返すと、俺は受付を後にする。



 そのままギルドを出ると、俺はいつもの酒場へと繰り出していった。




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