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138 家でのだんらん



 ピネリから一日かけて王都に到着した俺たちは、サラたちと別れ、屋敷へと向かった。


 別れ際にサラが「あさってはよろしく」とだけ言い残して去っていったな。俺も少しはデートで回るルートの計画を立てておかねばなるまい。




 久しぶりの我が家は、夕日を浴びてまるで絵の中の風景のように見える。


 いつものように扉をノックすると、ぱたぱたとかすかに足音がして、抑揚に乏しい子供の声が聞こえてきた。


「どなたですか」


「俺だ、リョータだ」


「おかえり、リョータ」


 声と共に扉が開き、カナが無表情に俺とジャネットを見上げてくる。うんうん、俺が帰ってくるのがそんなに待ち遠しかったか。俺も帰ってこれて嬉しいぞ。


「ただいま。カナ、少し背がのびたか?」


「わからない。多分、同じ」


「いやいや、子供の成長ってのは早いからな。きっとのびているに違いないぞ」


 そう言って、さっそくカナの頭をなでる。うん、やっぱりこれに限るな。後ろからジャネットのため息が聞こえた気がするが、気のせいだろう。


「ただいま、カナ。留守番ちゃんとできたかい?」


「おかえり、ジャネット。ごはん食べたい」


「おや、さっそくあたしの料理が食べたいのかい? しょうがないね、ちょっと待ってな」


 嬉しそうにジャネットがにやける。こいつ、いつもは俺がカナに甘いみたいなことを言うが、そういう自分はどうなのだ。ちょっとカナに食事を催促されたくらいでデレデレとして、あいかわらずちょろい奴だな。


 ジャネットが家に入ろうとすると、奥の部屋からレーナが顔を出した。


「皆さん、おかえりなさい。長い間おつかれさまでした」


「レーナこそ、長い間カナのめんどうを見てもらってすまんな」


「いえ、このくらい何でもありませんよ。カナちゃんもよく言うことを聞いてくれますし」


「カナ、レーナの言うこと、ちゃんと聞いた」


 赤面しながら言うレーナに、カナが少し誇らしげに胸をそらす。


「そうか。偉いぞ、カナ」


 俺がカナの頭をなでていると、ジャネットがレーナに声をかける。


「これからごはん作るからさ、レーナも食べていきなよ。材料はあるだろ?」


「いいんですか? これから作ろうと思っていたので材料はありますけど、ジャネットさんもお疲れでしょうし、私がやりますよ?」


「いいっていいって。あたしも久しぶりの料理だし、何よりカナがあたしの料理を食べたいって言ってるからね」


 そう言ってレーナの肩を叩くと、ジャネットはさっさと食堂の方へと行ってしまった。


「あいつも疲れているだろうに、カナには甘いな」


「まったくですね」


 そう笑うと、レーナが少しだけ残念そうな顔をする。


「でも、カナちゃんはやっぱりジャネットさんの料理が好きなんですね。私もがんばってはいるんですけど……」


「レーナの料理だってうまいだろう。俺たちが出発する前は、カナはお前の手料理を楽しみにしていたぞ? ジャネットの料理が食べたいのは、久しぶりに帰ってきたからだろう」


「そ、そうなんですか?」


 意外そうにレーナが目を見開く。


「本当だ。カナは正直だからな。ウソはつかん」


「そうだったんですか……。よかった……」


 ホッとしたレーナは、ジャネットさんを手伝いますね、と食堂へ駆けていった。さて、俺も久々にジャネットの飯をいただくとするか。


 カナと手をつなぐと、俺も食堂へと向かった。







「ほーら、カナ、できたよー」


 調理を終えたジャネットとレーナが、料理の盛りつけられた皿を次々と運んでくる。ふむ、今日は鳥メインの料理か。久しぶりの手料理なこともあって、実にうまそうだ。


 全員席に着いたところで、食前のあいさつをすませて料理へと手をのばす。うむ、やはりうまいな。


「どうだいカナ、あたしの料理はうまいかい?」


 無言で料理を食べていたカナがこくりとうなずく。


「おいしい」


「そうかいそうかい! ほら、おかわりもあるからね」


 満面の笑みでジャネットがカナに料理を勧める。しかし、あいかわらずカナはよく食うな。


 と、大事なことを思い出した。そうだ、これをカナに渡さなければ。


「カナ、ちょっといいか」


 ぱくぱくと料理を食べていたカナが、その手を止めて俺の方を見る。う、食べる邪魔をして微妙に機嫌を損ねたような気がするのは気のせいか?


 い、いや、怯むな俺。これを渡せばカナも喜んでくれるはずだ。


 俺は懐に手を入れて、あるものを取り出した。


「カナ、お前におみやげがあるんだ」


「おみやげ?」


 首をかしげるカナに、俺は木彫りの飾りものを示した。カナが珍しそうにのぞきこんでくる。


「これ、何?」


「獣人の子供が作ってくれたのだ。彼らは手先が器用らしいな。ほら、俺とおそろいだぞ」


 そう言って、俺も自分の分を取り出す。飾りの真ん中には、俺が探してきた青い宝石が埋めこまれている。もらったものをそのまま渡すのも何だしな。


「どうだカナ、ほしいか?」


「うん、ほしい」


「そうかそうか、それじゃこれをやろう。大事にするんだぞ」


「わかった」


 そう言って俺から飾りを受け取ると、カナがぺこりと頭を下げる。


「ありがとう」


「ああ、どういたしまして」


 うん、喜んでもらえたようだ。よかったよかった。少し加工してペンダントやブローチにしてもいいかもしれんな。




 あさってのデートも、このくらいスムーズにいくといいのだがな。そうだな、プレゼントくらいは用意しておくか。



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