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132 出立




 城で話を聞いてから三日後、俺たちは魔界の調査のために王都を出発した。


 今日はまずピネリの町まで行って一泊し、翌日例の獣人が暮らす集落へ向かう手はずになっている。


 馬は普通の馬ではなく、強化馬と呼ばれているより強い馬を使っている。普通の馬よりずっとタフなので、ある程度速いペースで長時間走らせても大丈夫なのだそうだ。


 その強化馬に乗りながら、俺とサラ、ジャネットに女騎士のリセはピネリの町を目ざしていた。


 俺はサラと他愛もない話をしていた。まだ若干のぎこちなさが残るが、今日はほぼいつも通りのサラに戻っている。この前ほど露骨に視線を避けられることはなくなった。


「そうか、リセもAクラスに昇級したのか」


「ああ。遊撃隊に4人、騎士団全体でも11人しかいないAクラスだ。私も鼻が高いというものだ」


「おめでとう、リセ」


「ありがとうございます」


 あいかわらず無表情に、リセが礼を言ってくる。カナと違い、この女の考えていることは本当によくわからん。


 それにしても、だ。俺はジャネットの方を見る。


 いつもならどうでもいいことを延々としゃべり続けるジャネットが、今日は自分からはほとんど口を開いていない。俺たちが話しかければ返事はしてくれるが、やはり獣人と会うことに気乗りしていないのだろう。




 そうこうやっている間に、俺たちはマースの町へと近づいてきた。俺が最初の活動拠点に選んだ町であり、ジャネットと出会った町だ。


 サラが町の市壁をまじまじと見つめながら言う。


「ジャネットはこの町で冒険者をしていたのだったな」


「そうだよ。リョータと出会ったのもこの町さ」


 ぶっきらぼうな口調の中にも、どこか嬉しそうな響きが混じる。まあ、俺との出会いの町なのだからそれも当然か。


「リョータはなぜこの町を拠点にしていたのだ?」


「特に理由はないな。しいていえば、この町がなかなか快適だったからだ」


「ふむ、なるほどな」


 納得したようにうなずくと、サラが俺に聞いてきた。


「もし、もしもの話なのだが、お前が新たに領地を得るとしたら、マースをモデルに町をつくるのがいいか?」


「ふむ……まあ、いろいろとコンパクトにまとまっていて便利だったからな。そうかもしれん。だが、どうしてそんなことを?」


「いや、参考までに聞いてみただけだ。今後魔界から領土を奪還していけば、新たに都市を建設することになるだろうしな」


「ほう、姫殿下はいろいろなことを考えておられる」


「まあな」


 そう言って、お互い顔を見合わせて笑う。やはりサラとは馬が合うな。女友達にはもってこいだ。


 それから、俺はジャネットに話を振ってみる。


「ジャネットはどうしてこの町で活動していたんだ? この町に恩があるとは言っていたが」


「そうだね、あたしもリョータと似たようなもんだよ。この町はいろいろと暮らしやすくてねえ。それでそのまま居ついちまったのさ」


「ジャネットの生まれはどのあたりなんだ?」


「西の方だったらしいけどねえ。親があちこち転々としてたそうで、あんまりよくわからないのさ。珍しいね、そんなこと聞くなんて」


「まあ、たまにはいいかと思ってな」


 というか、いつもジャネットがしゃべってるのを聞くことが多いので、こちらから何かを聞くということが少ないのだがな。




 そんな雑談をしていると、マースの町の門までやってきた。サラはなぜかフードをかぶって見張りのところへと近づく。通行税を払うのが嫌な奴はぐるりと遠回りしていくのだろうが、サラが見張りに何かを見せると彼らは低姿勢で俺たちを中へと通した。


 見張りがサラに平伏しないということは、身分は明かさずに何か命令書のようなものを見せたのか。お上の命令というのも便利なものだな。まあ、こんな田舎に姫騎士様が来たとなれば大騒ぎになるだろうしな。



 町は特に以前と変わった様子もなく、のんびりしながらもそこそこの活気があった。ジャネットの姿に、顔見知りらしき連中が声をかけてきたりする。ジャネットは「ちょいと用事でね」とか言いながらそいつらの相手をしていた。


 フードでその綺麗な金髪を隠したサラが、あたりを見回しながら言う。


「なるほど、確かにいい町だな。都市計画の参考にさせてもらうとしよう」


「お前は騎士だけではなく、役人のようなこともするのか」


「まあな。これでも私は大臣や大貴族からなる評議会に名を連ねているしな。国政にはそれなりに口をはさめる立場にはある」


「そうなのか? それは大変なんじゃないのか?」


「もちろん簡単ではないが、評議会はそこまで頻繁に行われるものでもないしな。まあ何とかやれている」


 こともなげに言ってくれるが、それは凄いことなんじゃないのか? 剣だけでも化けものじみているのに、この年で政治や行政にまで関わっているのか。こいつ、本当に天才なんだな。


 まあ、俺はそんなサラが活躍しやすいように舞台を整えてやるとしようか。俺が世界をデザインし、サラが具体的なところを詰める。うん、いいんじゃないか。……少し俺も勉強しておこうか。






 マースの町を抜け、夕方前にピネリに到着した俺たちは、そこで宿をとって翌日に備えた。




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