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131 納得




 サラが言う、人間と融和的な魔族。心当たりがあった俺は、サラに聞く。


「それは、つまり、獣人族……ということか?」


「獣人? なるほど、言われてみれば確かにそう呼んだ方がわかりやすいかもしれないな」


 サラが感心したようにうなずく。


 そうか、獣人か。俺もこちらに来てから何かが足りないと思っていたのだ。猫耳少女の一人や二人、俺のメイドにいてもいいだろう。ふむ、それは無下にはできんな。


「そういうことは早く言ってくれ。そうか、獣人が魔族の支配に苦しんでいるとなれば見殺しにはできんな」


「ちょ、ちょっと待ってよリョータ!」


 ジャネットが大声を上げて立ち上がった。


「獣人だか何だか知らないけど、相手は魔族だよ、魔族! そんな連中、勝手に仲間割れでも何でもさせておけばいいじゃないのさ!」


「いや、獣人族は人間に近い種族だ。話し合いもせずに敵だと決めつけるのはよくない。まずはサラの言う通り、コンタクトを取ってみるのがいいだろう」


「ちょっとリョータ! さっきと言ってることが違うじゃないのさ! 魔族は魔族、人間に近いもクソもないだろ! だいたいあんた、何でそいつらが人間に近いってわかるのさ!」


 いつになく興奮するジャネット。そこにサラが割って入ってきた。


「ジャネットの気持ちもよくわかる。そうだな、順番がよくなかったかもしれん。調査の前に、一度その集落に行って彼らと会ってみた方がいいかもな」


「ああ、それがいい。ジャネット、まずは実際に会ってみることにしないか? 俺からも頼む」


「……あんたらがそこまで言うのなら、あたしはそれにしたがうよ」


 渋々といった顔でジャネットが席に着く。ふう、何とか説得できたようだな。


「それにしてもサラ、獣人と魔族の区別はないのか」


「区別など考えたこともなかったが、場合によってはそれも必要かもしれんな。さっきジャネットも言っていた通り、基本的に人間以外は全て魔族だからな」


「なるほどな」


 俺としたことがうかつだった。まさか獣人が魔族と同じカテゴリになっていたとは。そうか、こちらでは魔族という言葉の範囲が広いのだな。今まで魔族は皆殺しだと言い続けてきたが、これからは少し慎重にならなければならないかもしれん。


 そうだ、ではこれも確認しておかなければ。


「それでは、エルフやドワーフの扱いはどうなっているんだ?」


「すまん、私にはそれが何なのかよくわからないが、人間以外の種族ならばそれは魔族ということになるだろう」


「そうか、そうなるか」


 何てこった、エルフを知らないときたか。そもそもこちらの世界には存在しない可能性もあるが、せっかく見つけたのにうっかり殺す奴が出てきたりしないように気をつけないと。俺の隣に座ってる奴とかな。


 ジャネットも落ち着いたところで、俺は話を戻す。


「つまり、お前たちはその集落から情報を得て、魔族の中には話し合いが可能な連中もいるかもしれないと思ったわけだな」


「そういうことだ。人間との敵対を望まない種族を皆殺しにするというのは、さすがにやりすぎだと思うしな」


「まったくもって同感だ」


「何さリョータ、いつも魔族なんか皆殺しだって言ってたくせに」


 ジャネットがジト目でつぶやく。それは魔族の定義に食い違いがあったからだ。俺は別に殺人狂ではないからな。


「それにしても、そんな集落があったとは初耳だ。みんな知っていることなのか?」


「いや、今お前たちに話したのは極秘事項だ。軍の中でもごく限られた者しか知らん」


「ほう、そうなのか」


 まあ、魔族と人間が共存しているなど、いきなり言われても混乱するだろうしな。情報を制限するのは妥当かもしれん。


 俺がうなずいていると、サラが口を開いた。


「そういうわけで、今回は敵地の人間と魔族についていろいろと調べることになる。それに先立って、我々は例の魔族が暮らす集落に行こうと思うのだが異論はあるだろうか」


「いや、それでいい。俺もその獣人を見ておきたい」


「あんたたちがそれでいいって言うなら、あたしはしたがうさ」


 一人ジャネットだけは不満げであるが、了承は取れた。次はその集落へ行くことになるだろう。


 どうでもいいが、少し突っこんだ話でヒートアップしたせいか、サラもいつもの調子に戻っている。よかったよかった。


「それでは集落には三日後に出発ということでいいだろうか。なるべく早いうちに行っておきたいのだが」


「ああ、それで構わない。ジャネットはどうだ?」


「あたしも別にそれでいいよ」


 ややふてくされた様子でジャネットが言う。これは帰った後も機嫌が悪そうだな。少し機嫌取りを考えておこうか。


「用件は以上だ。わざわざご苦労だった」


「何、お前の頼みならいつでも来てやるさ」


「そ、そうか」


 サラが顔を赤くしながら視線をはずす。あれ、いつもの調子に戻ったと思っていたのだが。何だ、本格的に俺に惚れたか?


 椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする俺にサラが声をかけてきた。


「そ、そうだ、リョータ、あの……」


「うん? 何かあったか?」


「い、いや、その……何でもない、また三日後にくわしいことを話す」


「そうか? じゃあその時によろしくな」


 どうにも要領をえないサラの様子に首をかしげながら、俺とジャネットは城の一室を後にした。




 城を後にした俺は、ジャネットに聞いてみる。


「ジャネット……まだ怒っているのか?」


「別に。あんたらが決めたことなんだから、間違いないんだろうさ」


 ううむ、かなり怒っているな。これは機嫌を取るのが大変だぞ。


 思わぬ宿題を抱え、俺は家路へとついた。




いつもコメントありがとうございます。

内容面のコメントは今後の展開の参考になりますし、誤字脱字などはなくそうと思っていても見逃してしまうことも多いので助かります。


……何だよ、一枚「板」って……。ご指摘ありがとうございます、助かりました。

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