13 ギルドでの騒動
Aクラス試験の日。ギルドに入り受付へと向かうと、どうもやけに騒々しい。レーナのところに近づくと、何人かの男どもが彼女と揉めているようだった。
「困ります! 今は仕事中なんです!」
「いいからレーナ、こっちに来い! 俺の女になれば仕事なんて必要ねえ!」
どうやらあの男がレーナにからんでいるようだな。ずいぶんと立派な服を着てでかい態度をとっているところからすると、貴族のどら息子といったあたりか。
「やめてください! 人を呼びますよ!」
「はっ! 呼べるもんなら呼んでみろ。俺はシュタイン侯爵家の嫡男だぞ? 俺に逆らったらどうなるかくらいわかるだろうが! 現に今、誰もお前を助けようとしていないだろ?」
「そ、そんな……」
助けを求めるようにあたりを見回すが、誰も目を合わせようとはしない。それどころか、足早にこの場を離れていく。
それはレーナの同僚たちも同様で、ある者は席を立ち、またある者は今取りこみ中だといった様子で受付の冒険者と話しこんでいる。
「おら、さっさと出て来い! あんまり言うこと聞かないと、一日中俺たちで輪姦し続けるぞ?」
「い、いや……!」
助けが来ないとわかり、絶望した顔でレーナが受付から引きずり出される。
そのままレーナは両腕を男たちに拘束されて、ギルドの外へと連れ出されようとしている。これは黙っては見ていられないな。
俺は一つ息を吸いこむと、転移魔法を発動させる。
次の瞬間には、レーナの姿は男どもの腕から消え、かわって俺に抱き寄せられる形で転移していた。
突然消えた彼女に、男どもが慌ててあたりを見回す。驚いているのはレーナも同様で、俺の腕の中でまだ事態を飲みこめずにいる。わけもわからずに俺に抱きついているが、この程度の役得はあってもいいだろう。
「おい、間抜けども。いつまでそっちを見ている」
親切にも俺は連中に声をかけてやる。男どもと、そしてレーナの視線が俺に集まる。
「て、てめえ、いつの間に……!?」
どら息子の取り巻きのでかぶつが、俺に向かって声を上げる。あまりにテンプレな反応に思わず失笑してしまう。
「あっ……!?」
レーナも今の状況に気づいたらしく、俺から身体を離すと背中の後ろに回りこむ。なかなかの感触だったんだがな。
「こ、これはどういうことですか……?」
「何、お前があのゴミどもに連れていかれそうだったのでな。俺が掃除することにした」
俺の言葉に、レーナの顔が赤くなる。ふむ、これは好感度が上がったか? まあ、今はそんなことはどうでもいい。
どら息子の方はと言えば、俺の言葉に激怒している。「ゴミども」にでも反応したか。発情したサルのようにきゃんきゃんとわめき出した。
「きっ、貴様ァ! この俺をシュタイン侯爵家の嫡男と知っての暴言か!?」
「ああ、そう言えばさっきそんなことを言っていたな。それはなんだ、燃えるゴミの隠語か? それとも生ゴミのことか?」
「てっ、テメエ……!?」
どら息子のこめかみが、ぶっつり切れるんじゃないかと思うくらいに激しくひくつく。どうやら俺のジョークがお気に召したようだな。もっとも、この世界に燃えるゴミと生ゴミの区別があるのかどうかは知らんが。
ともあれ早くも沸点を超えたらしく、どら息子が俺に向かいいろいろとほざき始める。
「殺す! テメエは殺すぞ! 下賎な冒険者風情が、テメエなんぞ殺したところで、侯爵家の力でどうとでもなる! おい、お前ら! このクソ野郎をミンチにしちまえ!」
俺を指さしてどら息子が言うと、周りの男どもが剣やら何やらを取り出して俺に詰め寄ってくる。どら息子も無駄に高そうな剣を抜き放った。全部で六人か、試験前の準備運動くらいにはなるだろう。
「に、逃げてください! あの人たちはBクラスCクラスの手だれなんです! 私ならもう覚悟はできてますから!」
「レーナ、下がってろ」
「で、でも……」
「何、こんな連中、一分とかからんさ」
そう言って、俺はレーナを後ろへ突き飛ばす。いつまでも張りつかれていても邪魔だからな。
「かかれぇ!」
「ひゃはははは!」
「死ね死ねぇ!」
殺戮の期待と興奮に、歓喜の声を上げながら俺に向かって突撃してくる男ども。相手はゴミだし、遠慮はいるまい。
俺は剣を抜き放つや、的確に敵の腕や足を狙っていく。一瞬にして四人の男の動きが止まり、一拍遅れて絶叫があたりに鳴り響く。
「ぎゃあああぁぁぁああ!」
「い、いてええええぇぇぇ!」
ある者は足の腱を斬られ、ある者はひじを砕かれ、またある者は手の指を砕かれる。わざわざ殺さないでやっているのだから、俺の寛大さに感謝してほしいものだ。
その光景に、どら息子ともう一人の仲間の足がぴたりと止まる。
「さて、後はお前らだけのようだな」
「ひ、ひいいいぃぃぃっ!」
逃げ出そうとする男の後ろから、俺は遠慮なく斬りつけてやる。わざわざ転移するまでもない。こいつらの動き、ジャネットに比べれば亀みたいなものだからな。
足首を斬られ、男が泣き叫びながらのたうち回る。それを見て腰を抜かしたどら息子に、俺は剣の切っ先を突きつけた。