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127 謎の老人





 今、俺は死者の森の中で、謎の老人と対峙していた。


 黒いマントを身にまとったその老人は、白髪で俺より10センチ近く背が高い。60前後くらいに見えるが、その身体つきがサラの遊撃隊の連中同様鍛え抜かれたものであることは、服やマントの上からでも容易に察することができた。


 老人は、上品な口調で聞いてきた。


「失礼ですが、なぜこのようなところに?」


「少し剣の訓練をと思ってな。ここにはたまに来ていたのだ」


「そうでしたか。誰かが襲われていると思い駆けつけたのですが、よけいなお世話でしたかな」


「いや、思いのほか敵が多くて辟易していたところだ。礼を言わせてもらおう」


 そう言いながら、俺はその老人を注意深く観察していた。こんなところに現れるとは、この老人、名の知れた冒険者なのか。それとも……魔族か?


 そんなことを考えながら、俺は老人に聞いてみた。


「そういうあなたは、なぜこんなところに?」


「私はこの森の先に少し用事がありましてな。病によく効く薬草があるのですよ」


「そうか」


 うなずきながら、老人が手にしている剣に目をやる。


 右手には俺の剣より刃が20センチほども長い長剣、左手には逆に20センチ近く短い剣を握っている。なんらかの付加効果もあるのかもしれないが、俺は自分が装備しているものしかステータスの確認をできないためそこまではわからない。


 俺の視線に気づいたのか、老人が剣を鞘へと戻しながら詫びた。


「これは気がつかず申し訳ない。会話には邪魔でしたな」


「いや、こちらこそ思わず品定めしてしまい失礼した」


 しかし、剣をしまったにもかかわらず俺はまったく気が抜けないでいた。少しでも気をゆるめれば、俺はたちまちこの老人の剣のさびとなってしまうかもしれない。


 もっとも、それは目の前の老人も同じなのかもしれなかった。俺が剣を鞘に納めると、少しだけ老人から発せられる圧力が弱まったような気がする。


 俺は老人に聞いてみた。


「大した剣の腕をお持ちのようだが、名のある騎士なのか」


「いえ、それほどのものではありません。それでも今はさるお方に仕えておりますが」


「謙遜は無用だ。それほどの腕ならば魔界でも引く手あまただろう。それこそ魔王の警護だってできるのではないか?」


「ほほほ、おもしろいことをおっしゃる。私は少し剣を知っているだけの、ただのじじいですよ」


 お前のようなジジイがいるか、と思わずつっこんでしまいそうになるのをぐっとこらえる。我慢だ、ここは我慢だ。


 ひょっとしたらSクラス、あるいはSSクラスの冒険者なのかと思ったが、先ほどの会話から察するにおそらくこの老人は魔族なのだろう。まあ、魔王側についた冒険者という可能性もあるが。


 そうとわかればさっさと始末、といきたいところだが、あの剣さばきを見せつけられてはうかつには手を出せない。まあいい、あちらにも今のところ敵意はないようだ、もう少し情報を引き出すとしよう。


 と思った矢先、老人の方から俺に尋ねてきた。


「ところで、あなたは人間でしょう? どうやってここまでやってきたのです。魔族に仕えてらっしゃるのですかな?」


「ああ、まあそんなところだ。もっとも雇われの流れ者だからな、雇い主の名もろくに知らんが」


「なるほど、そうでしたか。このあたりですと雇い主は四魔将メデイラ殿あたりでしょう。あの御仁は人間界にもずいぶんとご興味があるご様子ですからな」


「そうか。まあ、俺には雇い主が誰であろうと関係ない」


 ふう、何とかごまかせたか。完全に老人に乗っかっただけだが、うまくいったようだ。


 老人は俺の返事に穏やかな笑みを浮かべると言った。


「それでは私はこの辺で。またご縁があればお会いしましょう」


「ああ、その日を楽しみにしている」


 俺に向かい堂に入ったあいさつをしてみせると、老人は森の奥へと消えていった。


 あの老人、いずれまた会う気がする。正直敵には回したくない相手だが、さてどうなるだろうな。


 気づけば俺の頬は冷や汗が幾筋も伝っていた。背中もぐっしょりと濡れている。馬鹿な、この俺があの老人にそこまで恐怖心を抱いていたとでもいうのか。そんなはずはない。俺はリョータ・フォン・クロノゲート、この世界を超越した存在なのだ。




 老人の気配がなくなり静まり返った森を、俺も早々に立ち去ることにした。こ、怖いからではない。早く帰って汗を流したかったからだ。





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