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126 死者の森




 まったく、この前はひどい目にあった。あの女たちに酒を飲ませてはダメだ。この俺の力をもってしても手におえん。


 くそっ、まさかこの俺が、あろうことか女どもに抱きつかれて気絶するとは……。こんな恥辱は初めてだ。あいつら、このうらみは絶対に忘れんぞ、おぼえていろ。


 いや、まあそれは冗談だがな。心を広く持つことも重要なのだ、カナの教育のためにもな。そう、俺はカナのためにも、もっと大きな男にならなければならないのだ。




 さて、それでは俺も少し調べものに行くとするか。


 家から出て行こうとすると、ジャネットが声をかけてきた。


「おやリョータ、どこに行くんだい?」


「ああ、少し散歩にな」


「あたしもついてっていいかい?」


「悪いな、一人で行かせてもらえないか? 帰ってきたら稽古につき合うから」


「そりゃ残念だね。あんまりあたしやレーナを泣かせるようなマネは控えておくれよ?」


「そんなんじゃない」


 女がらみならこの俺がわざわざ隠れて出ていく必要などないだろう。この世界の女は全て俺のものなのだからな。


 まあ、お前たちに限って言えば、後でいっぺん絶対に泣かせてやりたいところだが。いやいや、冗談だ冗談。心を広く持て、広く持て……。



 ジャネットに手を振ってしばらく歩くと、俺は手ごろな物陰で転移した。









 王都から転移した先は、実に禍々しい気に満ちた森の中であった。


 まだ日中であるはずなのに、日光は木の葉にさえぎられ、あたりはやたらと薄暗い。それに加えて霧もあちこちから立ちこめ、視界は最高に悪い。いかにも何かが出てきそうな場所だ。


 そんな見た目の通り、この森はアンデッド系のモンスターがうようよしている。俺はたまにここへとやって来て剣の稽古をしていたのだ。無駄にモンスターが湧いてくるからレベリングにはちょうどいい。


 完全な本気ではなかったとはいえ、この前はサラにうっかり負けてしまったからな。俺も少し訓練しておかなければ。べ、別に気にしているわけではないぞ。俺が努力する姿を見せてやるのは、カナの教育にもいいはずだしな。子供は親の背を見て育つものなのだ。


 そうすれば、きっとカナも「リョータ、すっごーい!」と俺のことを見直すはずだしな。満面の笑みで喜んでくれるに違いない。うん、そうに違いない。よし、今日は真面目にがんばろう。



 そんなことを考えていると、さっそく木々の陰からわらわらと骸骨の群れが湧いてきた。どれ、そろそろ始めるとするか。


 俺はおもむろに右手に一振りの剣を転移させる。例のガメル・コレクションの中にあった剣だ。


 俺の剣には神の加護LV8が付与されているが、どうやらこれとは別に対アンデッド用の特殊効果というものが存在しているらしい。それがこの剣にかかっている「浄霊」だ。


 思えば以前邪教徒狩りの時も、俺の剣よりジャネットに貸した剣の方が亡霊どもによく効いているということがあった。あの剣にも浄霊が付与されていたのだろう。


 今回の剣には、浄霊LV8が付与されている。ジャネットにやった竜殺しLV9があの効き目なのだ。この剣もさぞ期待できるだろう。


 剣を片手に向かってきた骸骨どもを、俺は無造作に斬り払う。すると、骸骨はあっさりと蒸発して跡形もなく消えてしまう。ためしに軽くかする程度にひじの当たりを斬りつけると、そこを基点にどんどんと崩れ、肩のあたりまで消滅した。ほう、こいつは大した威力だ。


 だが、これでは訓練にならないな。いつもの剣に持ちかえると、俺は骸骨どもをばっさばっさと斬り伏せていった。


 しばらくしてすべての骸骨どもを片づける。さて、もっと奥へ行くとするか。いくら何でもこいつらでは相手にならん。






 暗い森の中をさらに進むと、ひらけた沼地のような場所に出た。上を見上げれば大木の木の葉で空は見えず、あたりには一面深い霧が立ちこめる。


 そして、俺の周囲からは次々と魔族のゾンビが湧いてきた。まったく、雨後の竹の子のように、とはこういうことを言うのだろうな。


 さて、それでは始めるとするか。俺は浄霊LV8の剣に持ち替え、こちらへ向かってきた毛の生えていない魔族のゾンビに剣を叩きこんだ。袈裟斬りにしたその切り口から、ゾンビはあっという間に煙となって消える。


 ふむ、やはり効き目は抜群なようだな。このゾンビどもも、さっきの骸骨よりはかなり骨がありそうだ。あちらの方がよっぽど骨だというのにな。


 襲いかかってきたゾンビどもを俺は次々と始末していく。うん、これはなかなかに大変そうだ。夕食までに帰れるだろうか。


 と、俺が来た方から物音が聞こえてきた。かと思うと、ゾンビどもの一角がみるみる崩れていく。何だ、仲間割れか?


 ゾンビどもを倒しながら見ていると、あちらから人影がやってくるのが見えてきた。あれは――老人?


 黒いマントを羽織った比較的長身のその老人は、両手に持った剣を縦横無尽に振るいながらこちらへと迫ってくる。何だ、あの剣さばきは? 右と左と、それぞれ独立した動きで的確に敵の急所を打ち抜いていく。


 あの剣技はもしかしたらサラと同等……いや、それ以上か? バカな、Sクラスであるサラより強い剣士など、この世界に何人もいないはずだ。


 そう思っている間にも、老人は次々とゾンビを打ち倒していく。くっ、何者なんだあいつは。俺も負けじと目の前の敵を倒していく。




 それからしばらくして、100匹ほどいたゾンビどもはすべて片づけた。


 俺と老人との倒した比は1:2くらいか。俺の倍の数を倒すとは……。ふ、ふん、二刀流だから俺の倍効率よく敵を倒せただけだ。


 俺が斬ったゾンビどもはあらから塵となって消え、後には俺と老人だけが立っている。


 老人は俺の目の前までやってくると、朝のあいさつでもするかのように気軽に声をかけてきた。


「こんなところで人に出会うとは奇遇ですな」


「ああ、俺もそう思っていたところだ」


 俺の声は、わずかに震えていた。




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