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124 女たちの戦い





「ジャネット、もういいのか? 私はまだまだいけるが?」


「何言ってんのさ、これからが本番だよ」


「お二人ともぉ、そんなに飲んだらダメですよぉ~」


 ……案の定というか、あやしげな空気になってきた。また暴走し始めなければいいのだが。


 俺の気も知らず、ジャネットがぺらぺらと楽しげにしゃべる。


「でもあたしもがんばったけどさ、最後はあんたたちに全部持っていかれちゃったよ。あんなの見せられちゃかなわないね」


「何、お前だって大したものさ。あれだけの数を相手に次々となぎ倒していったのだからな」


「いやいや、あんたたちにはかなわないよ」


 だから学校の話はやめてくれ。特に俺とサラの話は。


「それにしてもサラ、あんたあそこまで言っちゃってよかったのかい? もう後には引けないよ?」


「む? 何のことだ?」


「あんた大声でいろいろ言ってたじゃないか。私はリョータの力になりたい! とかさ。ありゃもう愛の告白以外の何ものでもないよ」


「なっ、別に私はそういうつもりで言ったわけではない! あれはだな――」


「サラもようやく素直になったってことさね。照れなくていいよ、あたしらはみんな知ってるからさ、あんたの気持ちくらい」


「ち、違う! 違うぞお前たち! 私は断じてそんな不埒な……」


 必死に否定しようとするサラを尻目に、ジャネットが剣を抜いて天へとかかげてみせる。


「私は誓ったぁ! お前の剣になるとぉ!」


「きっ、貴様ぁ! それ以上私を愚弄すると許さんぞ!」


 学校での手合せの場面をまねするジャネットに、サラが激昂した。リセから自分の剣をひったくり抜き放つと、今にも斬りかからんばかりの勢いでジャネットを睨みつける。


「おっ、やるってのかい? いいよ、そろそろ決着をつけようじゃないか。あたしだってこの剣にかけて負けられないさ!」


「よくぞ言った! 私を愚弄したその罪、その身であがなうがいい!」


 売り言葉に買い言葉で、お互いに踏みこむと剣と剣がぶつかり合った。そのままつばぜり合いを始める。どうでもいいが、剣のあの部分もつばと言うのだろうか。


「お二人とも、仲がいいですね~」


 レーナもすっかりできあがってしまっている。これのどこをどう見れば仲がいいように見えるんだ。


 というか、いつの間にこんなに飲んでいたんだ、こいつは? 俺も注意して見ていたはずなのだが。


「サラとジャネット、どっちが強い?」


 カナはカナで、二人を見つめながらのんきなことを言っている。しかもスプーンとフォークは一向に止まる気配を見せない。きっと大物に育つだろうな、カナは。


「そうだな、昔はサラの方が強かったが、今ならどちらが勝ってもおかしくないかもしれんな」


「じゃあ、リョータ一番弱い」


「ぐっ!?」


 な、何を言い出すんだ、カナ!?


 動揺をおくびにも出さないよう細心の注意を払いながら、俺はカナに聞いた。


「カ、カカカカカナ? いったいどうして、そ、そんな風に思ったんだ?」


「リョータ、サラに負けた。ジャネット、サラと同じ。だから、リョータ一番弱い」


「……」


 確かにぐうの音も出ないほど正しい推論だ。反論のしようがない。お、俺は嬉しいぞ。カナがこんなに論理的に物事を考えられるようになったのだからな。


 ……これは一度、カナの目の前でサラを徹底的に叩き潰す必要があるな。指先をぶるぶるとふるわせながら、再び睨み合いを続ける二人へと視線を戻す。


 二人ともつばぜり合いにとどめてくれているのがせめてもの救いか。こんなところで斬り結びでもしたら騒音どころの騒ぎじゃない。店の者が見たりでもしたら、その場で卒倒してしまうかもしれんぞ。


「ところでリョータさ~ん?」


「むっ!? な、何だ?」


 ふと気づけば、いつの間にか俺の隣にレーナが座っている。だからお前は、どうやって俺に気づかれないよう行動しているんだ? お前も転移魔法の使い手なのか?


 レーナは半分すわったような目で俺をみつめている。怖い。


「さっきジャネットさんが言っていたこと、本当なんですかぁ~?」


「ほ、本当とは何だ?」


「とぼけないでくださいよぉ、さっきサラ様が愛の告白をしたって言ってたじゃないですかぁ」


「あ、あれは違うと言っただろう?」


「どこがですかぁ、剣になるだなんて、ずっといっしょにいますって言っているようなものじゃないですかぁ~」


 そう言って身体を俺に寄せてくる。こ、こいつ、からみ酒なのか!? 巨乳を押しつけられていることを喜ぶ余裕もない。


「ずるいですよぉ~、私だってずっといっしょにいたいです~」


「ま、待て。まずは落ち着け。俺だってお前を無下にあつかうつもりはない」


「だったらもっと会いに来てくださいよぉ~。ジャネットさんやサラ様とばかり、ずるいですよぉ~」


「わ、わかったわかった。わかったから少し離れてくれ」


 女とは思えない力で抱きついてくるレーナ。その力に、俺は彼女を自分の身体から引きはがすことができない。


 さらにまずいことに、睨み合っていた二人も俺たちに気づいたようだった。


「む!? リョータ、こんなところで何を破廉恥な!」


「ちょいとレーナ、何一人で抜け駆けしてるのさ! あたしだって負けないよ!」


「ま、待てジャネット! くっ、かくなる上は私も!」


 お、おい! まさかお前たちまで抱きつく気か!? やめろと目で言う俺には取り合わず、ジャネットとサラが俺に抱きついてくる。というかサラ、お前はダメだろう! こいつ、思ったよりずっと飲んでいたのか!?


 こ、これは……違う、俺が思い描いていたハーレムではない。というか、い、息が苦しい……。特にレーナ、お前のその力はいったいどこから来ているんだ……?


 俺は一縷の望みを託しカナの方へと目をやるが、当のカナは今日の料理がお気に召したのかずっと皿から手を離さずにいる。カ、カナ……。あんなに俺になついていたのに、俺より料理の方が大事なのか……。これも俺がサラに負けたからなのか……。



 絶望感に打ちひしがれながら、俺の意識は徐々に遠のいていった。




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