123 魔界の現状
卓の上には、次々とうまそうな料理が並べられていく。今王都で一番勢いがある店だからなのか、俺が初めて来た頃よりも料理の質も上がっているような気がする。
俺は料理を小皿に取り寄せては、カナに渡してやった。
「カナ、これも食え。うまそうだぞ」
「うん。いただきます」
「待ってろ、今これもやるからな」
そんな俺とカナを見ながら、ジャネットがつぶやいた。
「見てると何だか、リョータはカナの父親っていうより、もはやじいちゃんに近いねえ、かわいがり方が……」
「それは言えているかもしれませんね」
「だそうだぞ、リョータ」
レーナとサラも笑う。ふん、勝手に言っていろ。そのうちお前たちにもすぐに俺の気持ちがわかるさ。
なごやかな雰囲気の中で食事と会話を楽しんでいると、サラが口を開いた。
「ところでリョータ、ジャネット、そろそろまたお前たちに働いてもらうかもしれん」
「またってあんた、こないだ学校に行ったばっかりじゃないのさ」
そう言うジャネットに、サラはにやりと口の端を上げた。
「今回の仕事は久しぶりの実戦、ということだ」
「ほう? くわしく聞こうか」
俺が言うと、サラは説明を始めた。
「まず現在の状況についてだが、最近魔界が混乱しているようなのだ。どうやら西部で異変があったらしい」
「ほう」
「この機に乗じ、マクストン王国が魔界への侵攻を計画しているらしい。そこで、我々もそれに合わせて魔界からの領土奪還を検討しているのだ」
「なるほど」
この前魔界に遠征した時も魔界大公がどうだのと似たようなことを言っていたな。魔界が混乱するのはデフォなのだろうか。
そう言えばこの前始末した魔族が西方総督だか何だかとほざいていた気がするが、それが関係しているのだろうか。いや、それは別に関係ないだろう。大した奴ではなかったしな。
「そこで、だ。それに先立って少数精鋭で敵地を偵察しておきたいという話が上がってな。その任を私が受けることになった」
「その話、お前が提案したのだろう?」
「む、なぜわかった?」
「妙に嬉しそうに話していたからな」
「そうか、お前は人をよく見ているのだな」
少し顔を赤くしてサラが笑う。まあ、単にお前の顔を見ているだけで眼福ではあるからな。
「で、その偵察に俺たちも来い、ということだな」
「そうだ。今回は私とリセ、そしてリョータとジャネットの四人で行きたいと思っている。任務の性質上、数は少ない方がやりやすいし、弱い者が来ても邪魔になるだけだ」
「確かにな」
「まあ、はっきりしたことが決まり次第あらためて連絡する。とりあえずはそのつもりでいてもらいたい」
「了解した」
それにしても、ドレスで華やかに着飾っているというのに何とも血なまぐさい話をするものだ。やはりサラはサラだな。
と、カナが俺の顔をじっと見上げていることに気づいた。
「どうした、カナ? 何か食いたいのか?」
「四人、違う」
「うん?」
意味がわからず、俺は思わず首をひねる。
「四人、違う。カナも行く」
「……俺たちといっしょに行く、と言っているのか?」
俺が聞くと、カナはこくりとうなずいた。
「ダ、ダメだダメだ! お前を連れていくわけにはいかんぞ!」
「どうして? カナ、凄い。リョータ、言ってた」
「そ、それは……」
「カナ、お前はまだ学校を卒業していないだろう? だから今回は悪いが連れて行けない」
言葉を詰まらせた俺に、サラが助け船を出す。よくやったサラ、いいタイミングだ。やはりお前は俺の正妻にふさわしいかもしれんな。
ややむくれたかのように無表情なカナに、サラは笑いかけた。
「安心しろカナ。学校を卒業したら、ちゃんとお前も連れて行ってやる」
「ちょっと待てサラ、何を勝手に決めている!?」
「勝手にとは何だ。元々お前がカナとそう約束していたのだろう?」
「リョータ、あんたも往生際が悪いね」
くそっ、こいつら他人事だと思いやがって。まあいい、敵を片っ端から皆殺しにすればカナに危険はあるまい。
俺に向かい、サラが人の悪い笑みを浮かべる。
「カナもあと一か月少々で卒業だ。リョータ、覚悟を決めるんだな」
「無論だ」
「さて、祝いの席で妙な話をしてしまったな。レーナも退屈だろう。さあ、どんどん飲んでくれ」
そう俺たちにうながすと、サラが率先して杯を空けた。
「よっしゃ、あたしも飲むよ! レーナ、あんたもガンガン飲みな!」
「は、はい! それではいただきます!」
そう言って、二人が競うようにぐいぐいと酒を飲んでいく。
……できればほどほどにしておいてくれるとありがたいのだが。