122 身内だけのドレスパーティー
サラのパーティーの日、俺たちは例の高級料理店にやってきた。
店に入ると、店の支配人が俺たちを出迎える。
「これはこれはリョータ様、お待ちしておりました」
「うむ、ご苦労。サラはもう来ているのか?」
「はい、殿下は奥の部屋でお待ちです。皆様は着替えをされると聞いておりますが」
「ああ、どこで着替えればいい?」
「それでしたらこちらへどうぞ」
そう言って支配人みずから案内してくれる。この店に着替え部屋があってよかった。レーナやジャネットがドレスで街中を歩くのは恥ずかしいなどと言うから店の者に聞いておいたのだ。
一足先に着替えを終えた俺は、ドレスに着替えた三人の姿に思わずため息を漏らす。
しばらく黙って見つめていると、ジャネットとレーナが同時に口を開いた。
「な、何だい、黙ってないで何か言ったらどうなのさ」
「そんなに見つめられると、恥ずかしいです……」
「ああ、すまん。二人ともよく似合っているぞ」
俺がそう言うと、二人とも赤くなって俺から目をそらした。レーナはもちろんだが、ジャネットもかわいいところがあるじゃないか。
そんなことを思っていると、カナが俺の手を引っぱった。
「リョータ、カナは?」
「おお、もちろん似合っているぞ、カナ」
俺がさわやかな笑顔でカナの頭をなでてやると、なぜかレーナが苦笑し、ジャネットがため息をついた。
「あの、リョータさん……」
「あんた、サラのところに行く前にその顔何とかしなよ……?」
「む、何のことだ。それより行くぞ。支配人、案内してくれ」
「はい、こちらです」
支配人に案内され、俺たちはサラの待つ部屋へと向かった。
「こちらで殿下がお待ちです」
そう言って下がろうとする支配人に一声かける。
「例の件、よろしく頼んだぞ」
「ええ、わかっておりますとも。それでは皆様、ごゆっくり」
そう言い残し、支配人は去っていった。
俺たちが部屋に入ると、そこには純白のドレスに身を包んだ姫騎士の姿があった。後ろには今回も女騎士のリセが控えている。
「よく来てくれたな。今日は存分に楽しんでくれ」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらうとしよう」
「レーナも久しいな。楽しんでいくといい」
「は、はい、ありがとうございます」
緊張気味にレーナが答える。今日はサラもドレスで完全にお姫様ルックだからな。女として気圧されるものがあるのかもしれない。
「サラ、今日もお姫様」
「そういうカナも今日はお姫様だな。いっぱい食べていくといい」
「うん、いっぱい食べる」
カナはあいかわらずもの怖じしないな。子供だからわからないだけかもしれんが。
俺たちが席に着くと、最初に食前酒が振る舞われる。もちろんカナはジュースだ。りんごを生でしぼったものらしく、普通にうまそうだ。
乾杯して酒を飲みほすと、サラが聞いてきた。
「こういうパーティーはよいものだな。城のパーティーは窮屈で困る」
「そうなのか? お前はいつも悠然と振る舞っているように見えるが」
「周りの目というものがあるからな。いくら私が気にせず振る舞うと言っても、雑音は耳に入ってくるものさ」
「お前も気苦労が絶えないな」
「まったくだ」
からからと笑うサラに俺は聞いてみた。
「ところでサラ、今日は城からそのかっこうで来たのか?」
「む? そうだが、それがどうかしたか」
「いや、こいつらが外をドレスで歩くのは恥ずかしいと言い出してな。この店には着替え部屋があったからよかったが」
「歩く? お前たち、馬車には乗らなかったのか?」
「あ……」
しまった、その手があったか。考えてみれば当然だ。マンガやアニメでも、ドレスを着たお嬢様が徒歩で会場に来ている場面など見たことがない。うかつだった。
レーナが遠慮がちに聞いてくる。
「私から言うのは差し出がましいと思って言わなかったんですが……リョータさん、もしかして本当に思いつかなかったんですか?」
「そ、それはその……何だ、俺は冒険者だから極力自分の足で歩くよう心がけているからな。今回もついその調子で考えてしまったのだ」
「さすがはリョータだな。常に己の鍛錬を考えて行動しているとは。私もこれからは馬車を使うのを控えるべきか」
「いや、お前は王族らしく振舞ってくれ」
やめてくれ、俺のミスをいい方向に解釈するのは……。この前の学校での一件がフラッシュバックし、体中がかっかと熱くなる。俺だってついうっかりすることくらいあるんだ、そこを妙な方向に掘り下げていくのは勘弁してくれ。
「次回からは俺たちも馬車を使うとするか、男爵になったわけだしな。うん、そうしよう」
「馬車!? ホントにいいのかい? カナ、あたしらホントのお姫様みたいになれるよ!」
「お姫様? 馬車、乗ると?」
「そうだよ、お姫様ってのはいっつも馬車で移動するのさ」
「カナ、馬車乗る」
「そうかそうか、よし、それじゃあ次回と言わず今日の帰りは馬車にしよう」
カナが言うのだから応えてやらなければな。
「でもリョータさん、馬車なんて今からどうやって手配するんですか?」
「そ、それはだな、ううむ……」
「それならば今日は私が手配してやろう。リセ、悪いが頼まれてくれるか?」
「は」
短く答え、リセが退室していく。つい勢いで言ってしまったが、これで大丈夫だろう。持つべきものは姫騎士の友達だ。
こうして、俺たちのささやかな祝勝会が始まった。
感想いつもありがとうございます。全て目を通して参考にしております。
リョータはこれからまだまだ成長してくれると思いますので、よければ今後も見守ってもらえると嬉しいです。