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12 上級魔族との遭遇





 Aクラスの試験まで、まだしばらく時間がある。せっかくなので、再び転移魔法の実験などをためしてみることにした。



 どうやら転移魔法には、位置エネルギーがかなり深くかかわっているようだ。


 実験してみたところ、100メートルの高さに剣を十本転移させるのと同程度の労力で50メートルの高さに剣二十本を転移させることができた。位置エネルギーの関係式U=mghにわりと忠実にしたがっているようだ。力学は異世界でも万能だな。


 もっとも、基準点から下に転移したからといって魔力消費がないとか、ましてや魔力が回復するといったことはないので、そのあたりは何か別の法則にしたがっているのだろう。力学は万能という先ほどの言葉は撤回する。


 また、人間を転移させる場合、当人の承諾がない場合は通常よりはるかに多くの魔力を必要とするようだ。


 正直無制限に転移可能なら、例えば何千もの大軍が押し寄せてきたとしても全員100メートル上空に転移すれば一瞬で壊滅させられると思っていたのだが、そうはいかないらしい。


 まあ、俺の魔力なら百人二百人くらいは軽くぶっ飛ばせるようだが。





 数日かけて自分の転移魔法の限界などをチェックしたり新たな奥義を開発した後、俺は各地に転移しまくる実験に移った。前もやった実験だが、今回はより詳細な条件などを試してみる。



 いろいろと実験してみたのだが、「城の広間」と念じて転移した時は驚いたな。本当に城の大広間に転移したことにもびっくりだが、それより驚いたのは、その城がいかにも魔王みたいな奴が住んでいそうな禍々しい空間で、目の前には明らかに魔王ないしそれに準じるような化物がいたことだ。



 目の前にいたそいつは3メートルほどもあろうかという巨人で、頭部には二本の角、背中には大きな翼が生えていた。おそらくこの城の主なのだろう、どう見ても上位の魔族だ。


「いったいどこから紛れこんできた、人間? 貴様ごとき卑小な存在が、人間界侵攻の全権を任されている我の前に立つなど、分をわきまえないにもほどがあるぞ」


 怪物は俺の姿に気づくや、何事か偉そうな口上を垂れながら殺意を向けてくる。俺を殺そうとしているのだから、遠慮する必要もないだろう。こいつには俺の実験台になってもらうことにした。


 まず俺が気になっていたのは、人間以外の知的生命体も承諾の有無によって転移の難易度に差があるのかということだ。ためしに俺はその魔族に話を持ちかけてみる。


「場所を変えないか? ここでは狭くて、お前も暴れられないだろう」


「ほう、人間、おもしろいことを言うな。あえて己を窮地へと追いこむか。もっとも、場所を変えようと変えまいと貴様を殺す手間など変わりはしないがな」


 能書きだけは長い奴だ。だがこれで転移の承諾は取れた。では、さっそく飛ぶとするか。


「よし、では転移するぞ」


 親切にも魔族に転移することを伝えると、俺は奴と共にジャンプした――活火山の火口へと。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!」


 マグマのただ中に叩き落された魔族の絶叫が火口に響き渡る。奴より高い位置に転移した俺は連続で転移して岩場に移動し、そこから高みの見物を決めこむ。


「どうだ、湯加減は?」


 俺の声にも、化物は答えるどころではない。どうやら魔法障壁で身を守りつつ再生魔法で肉体を再生させているようだが、それがマグマのダメージに追いつかない。飛び立とうとすれば、俺が再び魔族の身体を転移して肩までマグマにつからせてやるものだから、魔族の身体がぼろぼろと崩れていく。


「そこから出たいか?」


 俺の問いには答えないものの、火口から何とか抜け出そうとしているのだから出たいのは間違いないだろう。これでも承諾になるのかと、俺は次の場所へと魔族を転移させてみる。



 次に転移したのは、極寒の氷雪地帯の海の中だ。せっかくなので分厚い流氷の下に送ってやる。


 これで奴も火照った体を冷ますことができるだろう。今日もいいことをしたと、俺は満足げに笑みを浮かべる。


 どうやら内心の願望も承諾につながるようだ。距離の違いの分をのぞけば、先ほどの転移と今の転移の間に魔力消費の差は感じられない。


 必死に氷を割って海から逃げようとする魔族を、俺は流氷の上からじっくり観察する。ふむ、急激な温度変化で身体は深刻なダメージを受けているようだ。


 何やら魔法やら打撃やらを放って氷を割り、ようやく流氷の上へと首を出した怪物。必死に這い上がろうとする魔族に向かい俺は笑いかける。


「その様子だと、身体の芯まですっかり冷えただろう。またさっきの温泉につかるか?」


「人間、貴様、ふざけた真似を……!」


 魔族の顔が怒りに歪む。これは明白な拒絶ととっていいだろう。俺は思わず笑みを漏らす。


「そうかそうか。それじゃあ望みどおり、温泉に連れて行ってやろう」


「ま、待て、やめろ! やめてくれ!」


 魔族の顔が、今度は懇願するような表情に変わる。ふっ、愉快な奴だ。


 さて、この状態で転移するとどうなるのだろうな。今から結果が楽しみだ。


「た、頼む! また火口に落とされたら、我の身体はもう耐えられぬ! そ、そうだ! 貴様、我の側近に取り立ててやるぞ! 喜べ、人間である貴様が人類討伐を全面的に任されている我に取り立てられるなど、本来ありえないことなのだからな! だ、だから……」


「よし、行こうか」


 魔族の長ゼリフをさえぎると、俺は再びあの火口へと転移した。


「あえエエええぇぇぇぇえエッ!」


 凍りつくほどに冷やされた身体が急激に熱せられ、ついに魔族の身体が崩壊していく。ふん、口ほどにもないな。十往復はしないと倒れないかと思っていたが、拍子抜けもいいところだ。


 そしてやはり承諾なしの転移には魔力がごっそり持っていかれるようだ。少なくとも承諾ありの場合の数十倍の魔力が必要だろう。百倍を超えているかもしれない。


 今の悪魔の重量を500キログラムと見積もれば、承諾なしの場合ざっと2,30トン、もしかすると50トンくらいの労力という事か。人間数百人分の重量を転移するなど、普通の転移魔法士では到底不可能だろう。何せ漬物石を転移するのにも一苦労するレベルらしいからな。



 気づけばすでに魔族の姿は跡形もなく、火口ではマグマがぐつぐつと煮立っている。初めは魔王か何かかと思ったが、どうやらただの小物だったようだ。


 敵の懐にワープなどというせこい技ではなく、誰もが驚く正真正銘の奥義をためしてやろうかと思っていたのだが、こんな小物では話にならない。


 あれをためすのは、もっと上位の魔族でなくてはな。その機会はまだ遠そうだ。




 何はともあれ、貴重なデータを取れたことに満足すると、俺は王都へと転移してその足で酒場へと向かった。




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