116 カナ、がんばる
昼食を終えると、俺たちは各教場で行われている講義を見て回った。
冒険者養成学校と聞いていたからてっきり実技が中心かと思っていたが、思いのほか座学が多い。冒険に役立つような知識の勉強が大半だ。そう言えば、以前レーナもそんなことを言っていたか。
武器防具の手入れの仕方やらサバイバル術やらを見てもさっぱりつまらんな。この俺ですらつまらんのだから、ジャネットなどは耐えがたいだろう。まったく、サラの奴はよくあんなに真面目に見ていられるものだ。
退屈な視察が終わると、いよいよカナのいる魔力錬成の講義へとやってくる。やっとカナの講義が見れるのか。
教場はどうやら魔法の結界で守られているらしく、微量の魔力が感じられる。生徒の魔力が暴発するのを防いでいるのだろうか。
教官らしき人物の目の前には、何やらサッカーボールくらいの大きさの水晶がある。俺たちについてきた女の職員が、あの水晶の中に魔力を満たす訓練なのだと説明する。
俺たちが教場に入ると、教官が生徒たちに俺たちを紹介する。
「皆さんに紹介します。あちらにいらっしゃるのが、サラ王女殿下、リョータ・フォン・クロノゲート男爵閣下、ドラゴンスレイヤーのジャネット様です。皆さんも冒険者として恥ずかしくないよう振る舞ってください」
……何だか今の紹介だと俺が一番しょぼく見えないか? 両隣が王女とドラゴンスレイヤーなのに対して、俺は男爵だぞ?
まあ、閣下と呼ばれるのは悪くないがな。姓も名に素晴らしくよくなじんでいる。さすがは俺といったところか。
カナもこちらを振り向いてにこりともせずに笑うと、すぐに教官の方へと向き直った。うむ、講義に集中しているようで何よりだ。
何人かの生徒が前に出ては、一人ずつ順に水晶に魔力を注ぎこむ。すると水晶の内側の方が豆電球のように少しだけぽうっと明るくなり、すぐに消えた。
なるほど、魔力を注げばあの水晶が光で満たされるというしかけか。生徒は魔力が乏しいのか、豆電球サイズの魔力しか充填できないのだな。
しばらく生徒の様子を見ていると、教官がカナの名を呼んだ。
「カナさん……カナ・フォン・クロノゲートさん、前へどうぞ」
うむ、我ながらいい名だ。カナ、お前の力を俺に見せてくれ。
前に出ると、カナは水晶に両手をかざした。がんばるんだぞ、カナ。
魔力を注いでいるのか、徐々に水晶玉が明るくなっていく。光は豆電球からテニスボール大になり、間もなく水晶全体に広がる。
そして――水晶から光があふれ始めた。
「こ、これは……!?」
「何だいこりゃ! まぶしいってもんじゃないよ!」
「す、凄まじい光だ! これがカナの力なのか!?」
俺たちが口々に叫ぶ。今や光は教場全体を明るく照らしていた。
教官もやや慌ててカナを制止する。
「そ、そこまで! もう結構です!」
次の瞬間、光がふっと消え俺たちの視界が回復する。先ほどまでのまぶしさが嘘のようだった。
サラが職員に聞く。
「今のはどういうことだ? 尋常ではなかったが」
「はい、今のは彼女が注いだ魔力の量があまりにも多かったために器からあふれてしまったのです」
「それは、カナの持つ魔力が並はずれているということか?」
「さようでございます、殿下」
「ふむ……カナの力はどうやら本物のようだな、リョータ」
「ああ。俺も驚いている」
まさかカナがここまでの力を持っているとはな。
教官も驚きの声を上げていた。
「カナさん、今日はいったいどうしたんですか? 今までこれほどの魔力を充填したことはありませんでしたよね?」
「カナ、今日がんばった。みんないる」
「みんな……なるほど、そういうことですか」
納得したかのようにうなずくと、教官はカナに席へと戻るようにうながした。ふむ、いつもはここまでの力を見せていなかったのだな。俺たちが見ているからいつも以上にはりきったということか。
ジャネットも嬉しそうに笑う。
「よかったね、カナ、ちゃんとやってるみたいじゃないのさ」
「ああ。俺が心配するようなことは何もないようだな」
「カナもあと一か月少々で卒業か。これほどすぐれた力の持ち主がついてくるとなるとお前も心強いだろう?」
「そ、そうだな」
俺の返事に、サラが人の悪い笑みを返してくる。くそ、俺がカナを危ないところへ連れて行きたくないとわかってて言ってるな? 他人事だと思ってからかいやがって。
決めた、予定変更だ。今日の手合せはこいつに花を持たせてやろうと思っていたが、気が変わった。生徒たちの目の前で叩きのめしてやる。
安心しろ、全力は出さん。少しばかり本気を見せるがな。覚悟するがいい、サラ。
ここ数日間、一話から本文の修正を行っておりました。特に最初の方は今のキャラクターに合わせて結構変わったかもしれません。今投稿している文章に合わせ、ひらがなの比率も増やしてみました。
感想もいつもありがとうございます。次回からは久しぶりのバトル回になります。特にリョータ対サラには力を入れていますので、どうぞお楽しみに。