114 カナの進路
宴もたけなわとなり、酒もかなり入ってきた。
貴族どもが一通り俺に声をかけ終わり、テーブルでは俺たちがいつもの調子で雑談していた。
「しかし、ジャネットが竜を倒したとなると私は何を倒せばいいだろうな。どこかに手ごろな獲物はいないものだろうか」
「そうさね、やっぱり魔族の親玉どもがいいんじゃないかい? 土地も取り戻して、敵もぶっ殺して、一石二鳥だろ?」
「まあ確かにそうだな。この前は四魔将とやらに後れをとってしまったが、今の私はあの時とは違う。……お前からもらった剣もあるしな」
「それはあたしも同感だね。あの剣ならたとえ相手が魔王だってぶっ殺せそうな気がするよ」
そう言いながら二人が頬を赤く染める。俺に落ちるのはいいんだが、とてもパーティーで女同士がするような会話じゃないぞ。だいたいジャネット、お前は祝いの席で何度「ぶっ殺す」と言うつもりなんだ。
「リョータ、カナも剣で戦う?」
「いや、お前はいいんだぞカナ。お前は俺が必ず守ってやるからな」
ほら見ろ、カナにまで悪影響が出始めているじゃないか。お前たちみたいなのがこれ以上増えたら俺はもう手におえんぞ。
と、オスカーが口を開いた。
「そう言えば、そろそろ冒険者学校の視察の日ですな」
「ああ、そう言えばそうだな。リョータ、ジャネット、お前たちもよろしく頼む」
「あいよ、まかしとき」
ジャネットが薄い胸を叩いて言う。
「学校、視察?」
「ああ、俺たちが学校を見に行くんだ。カナが勉強しているところも見るんだぞ」
「みんな来る?」
「ああ、そうだ。楽しみにしていろ。学校の方はどうだ?」
「カナ、勉強がんばった」
「そうかそうか、偉いぞカナ」
そう言ってカナの頭をなでてやる。サラとジャネットばかりか、オスカーやシモンまでややあきれた顔で見つめているようにも思えなくもないが、まあ気のせいだろう。
「カナは成績も優秀だそうだな。私も先生がほめていたと聞いているぞ」
「うん、カナがんばった」
カナがそううなずくと、サラも思わずカナの頭に手をのばす。どうだ、手が止まらないだろう。少しは俺の気持ちがわかったか。
シモンが言う。
「なんでもカナ殿はすでにCクラス相当の治癒魔法を習得されているとか。このままいけば卒業後はBクラスの冒険者として登録されるだろうとのことです」
「び、Bクラス!?」
ジャネットが驚きの声を上げる。見ればサラも驚いた顔をしていた。
「どうした、それはそんなに凄いことなのか?」
「凄いってモンじゃないよ! あたしだって学校出た時はCクラスからのスタートだったんだよ? まだ子供なんだし、Sクラスは約束されたようなもんじゃないか!」
「驚いたな。カナが優秀だとは聞いていたが、まさかこれほどまでとは……」
俺も驚きだ。カナにそんな才能があったとはな。
俺たちが驚愕する中、一人カナだけがよくわからないといった顔で俺たちの顔を見上げている。
「みんな、どうしたの?」
「ああ、みんなカナが凄いと驚いているんだ」
「カナ、凄い?」
「ああ、凄いぞカナ」
そう笑って、俺は再びカナの頭をなでる。これだけカナができる子だと、何だか俺も鼻が高いな。
「まったく、ホント親バカだねえ……。ま、気持ちはわかるけどさ。ほら、カナ、これも食べな」
何だかんだと言いながら、ジャネットもカナにテーブルの食べ物をよそって渡す。
「だがリョータ、これでもうカナを連れていかないわけにはいかなくなってしまったな。その辺の冒険者など問題にならないほどの力を持っているのだから」
「む、それは……」
「むしろ騎士団、いや、私の遊撃隊に加えたいくらいだ。よかったなリョータ、カナが就職先に困ることはないぞ」
「いや、ダメだ。カナはどこにもやらん」
「あーあ、これじゃ完全にただの頑固オヤジだねえ……」
ジャネットの言葉に、一同がどっと笑う。むむっ、何がおかしい。俺はカナの保護者なのだぞ。
「まあ、それはともかくだ。今度の視察、二人ともよろしく頼むぞ」
「ああ」
「まかせなよ」
「カナも、よろしくな」
「カナ、がんばる」
「よしよし、いい子だ」
サラがカナの頭をなでる。どうやらサラもくせになったようだな。
こんな調子で宴は進み、やがてお開きとなった。俺たちは今回も馬車を断り、三人でぶらぶらと歩きながら我が家へと帰った。
来週はカナの学校に授業参観か。楽しみだな。