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112 特権階級




 控室で昼食をすませると、俺たちはしばらく部屋で雑談していた。


「お前たち、着替えはまだいいのか?」


「あ、ああ、もうしばらくしたら着替えなんだってさ」


「そうか」


 若干ためらいがちにジャネットが言う。


「どうかしたのか?」


「い、いや、ちょっとドレスで人前に出るってのがさ、ほら……」


「なんだ、そんなことか。この前俺の前で着てみせたばかりだろう」


「そんなことって言うけどね、あんなに人がいるところだと全然違うんだよ」


 そう言うと、手元の茶をがぶがぶ飲み始めた。言っておくが、ドレスを着たらそれはもうやるなよ?


 それよりも、少し用をたしたくなってきたな。


 俺はカナとジャネットに言った。


「ちょっと用をたしてくる」


「ああ、いってらっしゃい」


 手をぶらぶら振りながらジャネットが言う。俺は部屋の女官にトイレの場所を聞くと部屋を出た。




 用をたし、控室へと戻る。


 その途中で、妙な連中にからまれた。


「ああ、王宮はいつから猿の飼育場になってしまったのか」


「いやいや、勘違いでもしているのではないかな。自分が人間にでもなったつもりなのだろうよ」


「まったく、我々と同列だとは勘違いもはなはだしいな。下賤な猿の分際で」


 廊下の向こうから歩いてきた二人組が、俺の行く手を阻むように道をふさぐ。話ぶりから察するに、どうやらそこそこの貴族のようだ。年はどちらも20そこそこといったところか。


 俺が何も言わないのをどう勘違いしたのか、連中はさらに調子に乗り出した。


「見ろ、こんな猿でも自分が猿だという自覚はあるらしい。我々の威光におそれいったのか、何も言い返してこない」


「当然だ。我々とは生まれが違うのだからな。我々が生まれながらにして持っている高貴さの前には、いくら地位を与えられたところで猿は猿に過ぎんということを自覚させられてしまうのだろう」


 黙って聞いていれば、二匹ともずいぶんとよく舌の動く豚だ。俺にとってはお前たちなどただの家畜に過ぎんというのにな。


 まあ、家畜どもの蒙を啓いてやるのも未来の主としての務めか。


「国王が直々に俺に授けた位だというのに、お前たちの言い分だと国王はみずから猿を愛でる狂人だと言っているようにしか聞こえんな」


「な――!?」


 俺が口を返したことが驚きなのか、声を上げたかと思うとそのまま石像にでもなったかのように固まる。実に間抜けなつらをさらしているな。


「き、きききき、貴様――!」


「悪いな、俺にはお前たち豚どもの話を聞いてやる暇などない。文句ならこいつに言ってやってくれ」


 そう言って俺が指をさしたその場所に、突如人影が現れる。


「な、何だ何だ? ここは……ひっ、リョ、リョータ様!」


 その人影は初め何が起こったかわからないといった顔をしていたが、俺の姿に気づくとあわててひざまずいた。


 その光景に、二匹の豚が驚きの声を上げる。


「こ、このお方は……!?」


「シュタイン侯爵家次期当主たるお方が、いったいなぜ……!?」


 こいつらが驚くのも無理はない。目の前にいるのはシュタイン侯爵家とやらのどら息子なのだからな。ちょっくらここに転移してもらったのだ。


「リョータ様、俺はなぜここに……」


「お前には俺の召喚魔法でここに来てもらった。そこにいるボンクラどもの相手をしてもらおうと思ってな」


 俺の魔法はこいつには召喚魔法ということにしておいてある。正直転移魔法と何が違うのかよくわからないが、なぜか素直に納得させることができたのでよしとしよう。


「こいつらが俺のことを下賤な猿などと抜かしてな。このままでは俺もイライラして手ごろな人間に八つ当たりしてしまいそうだ」


 そう言いながら足で床をトントンとつつくと、どら息子は血相を変えて連中の方を向いた。手ごろな人間と聞いて、まっさきに自分が犠牲者になるとでも思ったのだろう。あわを食って大声を上げる。


「き、貴様ら! リョータ様に何てことを! 早くお詫びしろ!」


「いったいどうされたのですか、このようなドブネズミなどに……」


「き、貴様! 俺の言うことが聞けないのか!」


「おい、よければこれを貸してやろう」


 俺がそう言って、以前こいつにもらった家紋入りの剣をぞんざいに投げつける。


 その剣の紋章を見て、豚どもは驚きに目を見開いた。


「そ、その紋章は……」


「そうだ、俺がリョータ様に忠誠の証として差し上げた剣だ! 貴様らのようなこっぱ貴族など、俺が直々に処分してやる!」


 どら息子の目が本気であることに気づき、連中が顔を青くする。俺もこいつをしつけた甲斐があったというものだ。折りを見ては、こいつの目の前で魔族を転移してみせたり魔界に連れて行ったりしたからな。こいつは言わば更生中の罪人のようなものなのだ、罪はしっかりとつぐなってもらわないとな。


 バカ貴族どもはと言えば、今やすっかり恐れ入って額を床にこすりつけながら許しを乞うている。権威を振りかざす連中というのは、どうして自分より上の者にここまで弱いのだろうか。


 そんなバカどもの一人に対し、どら息子が抜き放った剣を振り上げている。こいつ、本当にバカなのか。


「おい、その辺にしておけ。まさか城内で刃傷沙汰を起こすわけにもいくまい」


「で、ですが!」


「俺の言うことが聞けないのか?」


「も、申し訳ありません!」


 ギロリとひとにらみすると、どら息子が慌ててひざまずく。またどこか地の果てに飛ばされるとでも思ったのだろう。


 そんなどら息子をスルーし、俺は這いつくばっている二人に言った。


「そういうわけだ。二度とこの俺の手をわずらわせるな」


 俺というよりどら息子が怖いのか、二人は頭を上げようとしない。俺もこいつらには用などないので、どら息子に向かって言う。


「お前に仕事をくれてやろう。こういうくだらんゴミどもを再教育するのだ。今後このようなことがあれば、それはお前の責任ということになる。覚えておけ」


「はっ、かしこまりました!」


 腐っても大貴族、なかなかに決まったポーズでどら息子が俺の命にしたがう。生まれを誇るだけの愚かな貴族どもの意識を変えるという意義ある仕事なのだ、こいつの更生にはちょうどいい課題だろう。サラが目指す実力主義の国づくりにもマッチしているしな。




 後のことはどら息子に任せてその場を離れると、俺は一仕事終えたという満足感にひたりながら控室へと戻っていった。



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