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111 二人の叙任式




 叙任式の日がやってきた。


 俺にとってはさしたる意味もないことではあるが、権威というものが便利だというのも事実だ。くれるというならもらってやろう、地位も領地もな。


 俺たちはまず昼に叙任式に出るということで、ある程度フォーマルな格好で城へと向かった。ジャネットは初めは騎士風の衣装、祝賀会でドレスに着替える予定だ。俺とカナはいつもの服だな。




 迎えの馬車に乗り、俺たちは王城へとやってきた。


 中へと通され、控室のようなところに連れられる。今日も前と同じように国王、つまりサラの父親が出てくるのだろう。まあ、大して興味はないがな。


 さすがに今回はジャネットも緊張を隠せないようだ。前回と違って、今回は当事者だからな。あまり声をかけるのも逆効果かと思い、俺たちはそのまましばらく待つ。


 やがて指示があり、俺たちは会場である玉座の間へと向かった。




 式はまず俺の方から始まった。


 正直、式の内容自体は前回とさほど変わりがなかった。国王は相変わらず痩せぎすで、あまりサラとの血縁を感じさせる風貌ではない。変わったことと言えば、国王や文官、司祭のせりふが長くなったことと、もらったものが剣から紙と杖のようなものになったことくらいか。


 はっきり変わったのは、式そのものではなくそれを見守っている連中だ。前回は文官や武官らしき者が何人かいる程度だったが、今回は明らかに貴族とわかる身なりの連中が何十人も集まっている。


 その中にあのレーナを襲ったどら息子の姿を認めた時は、さすがの俺も笑いをこらえるのに苦労した。そう言えば奴はなんたら侯爵家の息子だったな。


 俺の視線がそちらに向かうと、あわてて視線を下の方に落とすのだから笑うなと言う方が無理があるだろう。こいつとは定期的に接触するようにしており、今ではいわば俺の舎弟みたいなものになっている。使う側にまわってみれば、なかなかどうして便利な奴だ。


 今回は王族も出席しているようで、前方にはサラの姿も見える。髪を結い上げドレスを着た姿はあいかわらず美しい。俺の伴侶として表に出てもらうには申し分ない容姿だ。


 その隣には、サラに負けず劣らず美しい女性が腰をかけていた。そう言えば、サラは確か第三王女だったな。ということは、あの女はサラの姉か。


 やはり大貴族が一人増えるとなると、他の貴族どもも黙ってはいられないようだ。以前サラが貴族派と王党派の話をしていたが、連中にしてみれば新たな敵が増えるかもしれないわけだしな。まあ、俺は当面は王党派ということになるのだろうが。




 俺の式が終わると、ジャネットの式の準備が始まる。


 それに合わせたかのように、会場からは貴族どもがぞろぞろと退場していく。どうやら連中は俺が何者なのか一目見ておきたかったらしい。


 人が減り、少しほっとしたような顔を見せるジャネットだったが、サラが会場から退出するのを見かけると、俺に抗議するかのように言った。


「ちょっと、サラまで帰っちまうなんて少し冷たかないかい? まだあたしの式があるんだよ?」


「王族が出席するのは男爵以上の時だけなのだろう。俺の時は顔さえ出すことはなかったのだからな」


「そりゃそうかもしれないけどさあ……」


「ほら、次はお前の番だ。失敗するなよ?」


「ひゃん!? わ、わかってるよ!」


 背中をひとたたきすると、ジャネットが奇声を上げる。その様子に笑いながら、俺はカナの隣に腰かけた。




 そして、ジャネットの式が始まった。


 こちらは前の俺の時と同じで、特に何が起こることもなかった。せいぜい俺がジャネットの様子をはらはらしながら見つめていたくらいか。あいつ、何をしだすかわからないところがあるからな。


 もっともそれも杞憂に終わり、無事に式を終えたジャネットがこちらへと戻ってくる。ただ、その顔がずいぶんと老けたように見える。


「ご苦労だったな、ジャネット」


「あ、ああ……ありがとさん」


 そう言うと、ジャネットは俺の隣に座りこんだ。やはりと言うべきか、こいつはこういうところが苦手なのだな。


 ぐったりした顔でジャネットが言う。


「ねえ、早く戻ろうよ……。あたしゃもうクタクタだよ……」


「おいおい、この後の祝賀会でドレスを披露するのだろう? こんなところでへばってもらっては困るぞ?」


「そ、そうだけどさあ……」


 心底疲れた、といった顔で言うジャネットに、俺は思わず笑みをもらしてしまう。まあ、祝賀会は夕方からだ。それまではゆっくりと休むがいいさ。


 俺は隣のカナに聞く。


「カナ、どうだった? 式の感想は」


「お姫様、ドレス、きれい」


「……そうだな、きれいだったな」


 うむ、愚問だったな。カナはサラたちお姫様にしか興味がなかったか。「リョータ、すっごくかっこよかった! カナ、嬉しい!」みたいなことを言えるようになるにはもう少し時間が必要なようだ。



 気持ち落胆しつつ、俺たちは女官に連れられて玉座の間を後にした。



ちょっぴりストックがたまってたので、久しぶりに連日投稿です。

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