110 四人で昼食を
ドレスを購入した後、俺たちは昼食をとりに店へと入った。いつもの高級店ではなく、もう少しカジュアルな店だ。財布に余裕のある女性に人気らしい。
窓際の席に着き、サラダとサンドイッチとドリンクを頼む。
「でも、今日はすみません。私までいただいてしまって……」
「気にするな。むしろお前にはまだプレゼントしたりないくらいだ」
「そ、そんな……」
顔を赤らめてレーナがうつむく。年上だというのにかわいらしい奴だ。
「もし私に使う分があるなら、カナちゃんに使ってあげてください」
「もちろん使うさ。だが、なかなか使いきれなくてな」
「リョータってば、あんまり遊びに金使ったりしないんだよね。バクチもしないし、女遊びもしないしさ」
「そ、そうなんですか……」
女遊びをしないと聞いて、レーナがほっとしたような表情を見せる。俺が他の女と遊ぶのは嫌か。まったく愛い奴だ。
もっとも、俺が女遊びしないのは単に周りの女どもの相手をするだけで疲れているからなのだがな。この世界においては超越者であるこの俺だが、これだけは欠点と言わざるをえない。超越者たる者、女ごときいくらでも手玉に取ってみせなければならないのだ。
まあ、俺の周りにはすでに美しい女が十分に集まっているからな。あと数枠くらいは空けてやってもいいが、わざわざ俺の方から漁りに行くまでもないだろう。
俺は隣のカナに聞いてみた。
「カナ、お前は他にほしいものなどあるか?」
「ほしいもの?」
カナが小首をかしげる。
「そうだ。大抵のものなら買ってやるぞ」
「じゃあ、おいしいもの食べたい」
「おお、それならもっと食え。カナはまだ子供だから多少多めに食っても大丈夫だ」
俺の言葉に、カナが目の前のサンドイッチを両手に一つずつ持つ。それは一つずつ食った方がいいと思うが。
それから俺はレーナとジャネットに向かって言った。
「しかしお前たち、三人ともドレスが似合っていたな。客や店員もみんな見ていたぞ。あいつらから見物料を取ってもよかったな」
「さっきまで大胆な金使いだって思ってたらこれだもん。だからリョータはおもしろいんだけどさ」
「む、それは違うぞジャネット。俺はお前らの姿がそれだけで価値を持つレベルだと言っているのだ。この国で他にそんな奴はサラくらいのものだろ?」
「姫騎士様と比べられるなんておそれ多いです」
そう言ってうつむきながらも、レーナの顔はまんざらでもない感じだ。自分の美しさを指摘されて喜ばない女などいない。
「ところでレーナ、叙任式には本当にこなくてもいいのか? 俺の関係者なのだから遠慮することはないぞ?」
「い、いえ、それはご遠慮させていただきます。お誘いは嬉しいのですが、私はそういう場には……」
「それはこれからリョータが少しずつ慣れさせていかないとね」
ジャネットが言う。まあ、これからは俺もある程度の身分の連中とつき合うことになるのだろうし、そうすればレーナも自然と慣れてくるかもしれない。
そんなことを考えていると、レーナがぽつりとつぶやいた。
「でも、リョータさんももうすぐ男爵様なんですね……。これからはリョータさんなんて気軽に呼べません。私もリョータ様、とお呼びするべきでしょうか」
「待て待て、それはやめてくれ」
いずれ俺のハーレムに入ったら、その日の気分でご主人様と呼ばせることはあるかもしれんが、今からリョータ様と呼ぶのは勘弁してほしい。
「今まで通りリョータでいい。どうせ今の館で暮らすのだ。対応だけ急に変えられても俺たちの方が困る」
まあ、どうでもいいその他大勢が俺に媚びへつらう分には構わんのだがな。
俺の言葉に、レーナが安堵したような顔を見せた。
「よかったです。私、リョータさんがどんどん遠くに行ってしまうような気がしてしまって……」
「安心しろレーナ、俺はお前を見放すようなことはしない」
もちろん俺と真っ向から敵対しない、などの条件つきではあるがな。
だんだんと顔を赤くすると、レーナは口数も減って目の前のサンドイッチをちびちびとかじり始めた。こういうことで照れてくれるのがレーナのいいところだな。
楽しく昼食を終えると、俺たちはレーナと別れて家路へとついた。